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『詩』生まれる 〜色が変わる朝に〜

色が変わる朝に 僕が生まれた
そのとき病院のベッドの上に
雨は降っていただろうか
両手を固く握りしめて
窓辺の花瓶を僕は見ていた
花は萎れてしまったのだ
僕が生まれるその代わりに
空っぽの花瓶が空を映して
ため息をついたのを
僕はずっとあとまで覚えていた
生まれるとはいったい何だろう?
誰かに聞きたかったけれど
病室の真っ白い天井に 蜘蛛の子のように
言葉は貼り付いたっきり
僕には捕えることができなかった


ベッドの下には
貝殻のような耳が落ちていて
時折音が貝殻を揺らした
生まれたばかりなのに
聴くとはそういうことなのだと
僕は知っていたのだろうか
空の繰り言が
花瓶のせいで増幅される その声で
母に眠れない夜があった
だから生まれ急いだのだ
どんなに不安だったとしても でも本当に
僕は生まれたのだったろうか?
初めて産声を上げたとき 大切な
何かとても大切なものを
どこかに置き忘れてきたような そのせいで
僕は本当に生まれたのかどうか
かなり長いあいだ
僕には全然自信がなかった




詩は創作。僕自身と直接の関係はありません。あくまでもイメージ。




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