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『詩』アキノノゲシ

少年がずんずん歩いてゆく
ずんずん歩いてゆく少年がいる
まるで自分が境界だと 微かに黄色い
それは花を揺らしている 少年がゆく
刈田の角ごとにあるいはまた
四つ足で踏ん張る鉄塔の コンクリートの
敷地の脇のあたりなどに


またあった、と
そのたびごとに少年はつぶやく その花が
まるで目印のようにも見えて
あたかも距離を測るように 少年は
三つ、四つと数えながらゆく
こんな刈田の広々とした 何もない
広々とした景色のなかを少年はゆく
片手ですすきの穂を振りながら
少年はずんずん歩いてゆく


その後ろ姿を見送るように その花は
少年が行き過ぎるとさやさやと揺れる
その背を花が見ているうちに
次のその花に至るまでに ほんの少し
少年はほんの少し大きくなる そして
ほんの少し大きくなった
少年の背中を見送って 薄黄色い
その花はさやさやと優しく揺れる
もの問いたげにあるいはまた
何とはなしに寂しげに


少年がずんずん歩いてゆく
ずんずん歩いてゆく少年がいる ほんの少し
ここに来る前よりも成長した 少年が
刈田の畦を歩いてゆく 角ごとに
見送る秋の野芥子が揺れて 知らぬ間に
冬がこっそり近寄ってくる そのとき幾つ
花を過ぎてきたものか 少年は
知らぬ気にずんずん歩いてゆく いつの間に
少年は青年になって 大人になって
やがてその花のことを忘れても
彼はずんずん歩いてゆく
ずんずん歩いてゆく彼がいる その彼の背に
手を振るようにその花が揺れる 冬に近い
こんな刈田の畦道で さやさやと
秋の野芥子がさやさやと揺れる




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今回はアキノノゲシ。いわゆる雑草の類でしょうか。野山の荒地などで普通に見ることができ、特に喜ばれるものでもないですね。特定外来種にも指定されている嫌われ者だけれど、そんな花にちょっと意味を持たせてみました。基本、雑草は嫌いじゃないです。




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