『詩』みかんの皮が思想なので
炬燵の上の みかんの皮が思想なのは 図らずも
中身を食べてしまったから
でも林檎の皮がそうじゃないのは
林檎の皮は宇宙だから
(みかんの皮はゾウなのだ)
だから今日は君を誘って メトロに乗って
美術館に絵を見にゆこう 現代アートという名前の
ただの真っ白いキャンバスを
そして 君とふたりでみかんを食べよう その絵の前で
残ったみかんの皮は思想なので
真っ白なキャンバスと会話をさせよう
警備員が怒って駆けてくる前に
林檎の皮は宇宙なので 互いに広すぎて
会話はうまく弾まない
僕らは逃げるように美術館を出て
レストランでオムライスを食べる
オムライスの卵は木星に似ている だから
デザートはアップルパイにしよう
それとも今日は食べ過ぎかしら? テーブルに
君はみかんの皮を広げ
今度行くインドについて語り出す そう言えば
ガネーシャはヒンドゥー教だったろうか
みかんの皮がゾウなのは
きっとそんなことなのだろう
思想には黴が生えているので
急いで食べてよかったね、と僕らは微笑む
ではあの真っ白なキャンバスと みかんの皮は
何を語っていたのだろう? 警備員がイグアナだから
僕らに聞いている暇はなかった!
この世界で起こることの
答えをひとつひとつ求めていると
僕らは道に迷ってしまう
みかんの皮がゾウで思想で
林檎の皮が宇宙でも オムライスの
卵が木星に過ぎなくても
僕らがここにいる理由にはならない この場合
緑茶がアップルパイに合わないのは
また別の問題だ
(イグアナな警備員は
たぶん焙じ茶が好きだとおもう)
帰りは暗いメトロじゃなくて 遊園地の
古い飛行塔に乗ってゆこう
できるだけ真昼の白い月に近づいて
ふたりがふたりじゃなかった頃を
ゆっくり思い出してみよう そうすれば
林檎が新鮮だったことも
今頃やっとわかるはずだ そうだろう?
果物シリーズ。というわけではないけれど。
こういう、それこそ #なんのはなしですか な、内容の詩は、あんまり人気がないようです(汗)。
もちろん書いた本人にはちゃんとおもいがあるのだけれども、それがそのまま伝わるともおもってはいないので。ただ感じていただければいいかな、と。意味を考えるのでなく、感じていただければ。
みかんが思想、林檎が宇宙、というその感じを自由に。
全然関係ないけれど、東京メトロは詩になるけれど、名古屋の地下鉄は詩からは程遠い、なぜかそんな気がします。大阪は、さて?
今回もお読みいただきありがとうございます。
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