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『詩』琥珀色のウィスキーのなかで

また一つ 氷が溶けて夜が更ける
私は口をつけずにずっと見ている
ウィスキーは嫌いだけれど 人生が
誰のとも知れない人生が 氷の上に
乗っているような気がするから
私はそれを頼んでしまう


グラスのなかで
また一つ人生が過ぎてゆく
こんなバーのカウンターで
私は神だ ただじっと
幾つもの人生を見つめている 琥珀色の
グラスのなかの人生を


誰が死ぬとか 生きるとか
成功するとか しないとか
私に何の関係もない 琥珀色の
こんなにも美しい世界のなかで
氷が勝手に溶けてゆく
誰かの人生が移ろってゆく


氷が減ったら眼をつむり 唇を
グラスの縁にそっと触れる ほんの少し
琥珀色の液を啜り 氷を一つ
アイスペールからグラスに移す
誰かの人生がまた始まる


いい加減そんな遊びはやめたがいい
カウンターの向こうでゼウスが言う
彼は若々しくてハンサムだ 髭のない
妙につるりとした顔で グラス越しに
私はせせら笑って彼を眺める


人生なんてと 氷がかちりと動くのを
眺めながら私はおもう
深く考えるにはあたらない 琥珀色が
次第に薄まってゆくように
誰かがそこにいたことは確かだ その人の
思いがうっすら広がったことは


かちり、と氷が傾いて 琥珀色に
水となって溶けてゆく また一つ
それにしても、とゼウスがつぶやく
なんでウィスキーなのかね、好きでもない
なんでウィスキーなのかね? 琥珀色の
薄くなったグラスの奥で この私に
聞かせる気などないかのように


琥珀色が世界だから
カウンターに両腕を重ね 尖った顎を
その上に乗せて私は答える でなければ
世界が琥珀色そのものだから
カクテルグラスを磨きながら
ゼウスが鼻でせせら笑う


ゼウスの背後の棚の上から リキュールが
ひと瓶 不意に傾いて落ちる
まるで意志あるもののように 乾いた硬い
瓶の弾ける音がして 果物と
アルコールの甘い芳香が
ゼウスの足元から立ち上る


そんなことはやめたがいい 頭のなかで
ゼウスの太い声が響く
私は酔ったとでも言うのだろうか
そんなリキュールの芳香で だとすれば
人生はあんまり単純すぎる それは誰の?
もちろん私の人生が


グラスのなかで また一つ
氷がかちりと溶けて傾く



*タイトル画像はこちらを使用
 Joachim_PlettによるPixabayからの画像




詩はイメージだけれど、詩のなかにもある通り、ウィスキーはあんまり好きではありません。会社勤めをしていた頃、毎年のように外注先からいただいたボトルが数本、封も切らずに今もそのまま残っているほどです。

昔は飲み会の二次会など大抵スナックで、誰かれのボトル〜!とか言って、男性陣はほぼ水割りでしたね。僕はそれがほとんど飲めないので、そのうち一次会の途中からジントニックオンリーになりました、焼酎も好きじゃなかったので。
起業してからは車の移動が大半になって、外で飲む機会がなくなりました。家でも、週末にビールの500ml缶を1本開けるくらいがせいぜいですね。

詩は、ある意味人生観のつもりです。そんなに力むことないんじゃね、くらいの意味合いで。よくわからないかもしれないけれど(汗)。

ゼウスはギリシャ神話の最高神で全知全能の神なので、本当は人の人生を操るのはゼウスのほうが相応しいとおもうけれど、そのゼウスが、人の人生を弄ぶんじゃないよ、と言うのはどうだろう、と、そんなふうに考えてみました。さて、これが本物のゼウスかどうかはあなた次第、ニコニコ。




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