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mofi|映画・答え合わせ

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ハリウッド映画を中心に、新旧の映画の構造や効果を「答え合わせ」します。
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2023年10月の記事一覧

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』アメリカの血塗られた歴史を描く3時間26分

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』アメリカの血塗られた歴史を描く3時間26分

『Killers of the Flower Moon』★★★★。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

傑作。人の罪深さを問う、実話に基づく深遠な闇を見る。

これはFBIの創設秘話であり、アメリカ白人による人種差別と迫害の記録だ。組織的犯罪の原典的なストーリーでもあり、欲と無教養と倫理感の欠如がもたらす罪の濃淡を塗り分ける地獄絵だ。

語るのは、愚者、悪人、詐

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『ザ・クリエイター/創造者』は撮影の舞台裏が真の主役

『ザ・クリエイター/創造者』は撮影の舞台裏が真の主役

『The Creator』★★・・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

作品的には長短入り混じる一本。というより、撮影の舞台裏の方が、ともすれば作品そのよりも興味深い一作かもしれない。

ハリウッド大作としては破格に安い制作費で、これだけの絵作りを実現したのは制作面の革命だ。8600万ドル(=現為替で130億円弱)は、アメリカであれば中堅のロマコメやドラマ映画

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『アソーカ』フランチャイズが患う病

『アソーカ』フランチャイズが患う病

『Asoka(シーズン1 / 全8話)』(2023)★・・・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

フランチャイズ作品には、2種類ある。

すなわち、ファンが抱く愛情の「預け入れ型」と「引き落し型」だ。前者は、単体の作品で楽しませることを通して、フランチャイズ全体への愛情をさらに深める効果がある。一方、後者は文字通り、溜め込まれた愛着を引き出して「消費」を促すに

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『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』嗜好品の重要文化財

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』嗜好品の重要文化財

『Guilermo Del Toro’s Pinocchio』(2022)★★★・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

技術的にも演出的にも高い精度に心打たれつつも、ギレルモ・デル・トロらしい、のしかかるような物語の薄暗さにはやはり項垂れる。それでも、その暗鬱とした2時間の中で輝くのは冒頭の涙ぐましいミュージカル・シーンと、ビタースイートな締めくくりだろう。独

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完成型の進化形態『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』ほか3遍

完成型の進化形態『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』ほか3遍

『The Wonderful Life of Henry Sugar』(2023) ★★★★。

「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」を皮切りに、ウェス・アンダーソンがロアルド・ダールの原作児童書を映像化。4日にわたって4本の短編が『白鳥』『ネズミ獲り男』『毒』の順にNetflixにて配信されており、視聴の順番もこの並びでいくのがトーンを鑑みるに順当だろう。「ヘンリー・シュガー〜」が39分とも

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『イニシェリン島の精霊』恐るべき究極の絶縁

『イニシェリン島の精霊』恐るべき究極の絶縁

『The Banshees of Inisherin』(2022年)★★★★。
Imdb | Wikipedia | Rotten Tomatoes

知りもしない片田舎で暮らす男2人の交友関係が絶縁したところからはじまる突然な冒頭なのに、なぜ絶縁したのか、それまでに何があって、それから何が起こるのか。両キャラクターの行動や思考が終始気になる。

走り出しの数シーンから、間もダイアローグ自体も気持

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『アーノルド』:つべこべ言わずに夢を追え

『アーノルド』:つべこべ言わずに夢を追え

『Arnold』(2023) ★★☆・。

ボディ・ビルダーであり、スター俳優であり、政治家となったオーストリア出身のアメリカ人、アーノルド・シュワルツェネッガーの人生を3部構成で辿るNetflixのドキュメンタリー。75歳を迎えた彼のこれまでのキャリアを、それぞれ「Athlete」「Actor」「American」と題して1時間ずつにまとめている。

文字通り、肉味のあるハイライトをアップビート

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『パスト・ライブス(原題)』沁み入る移民物語

『パスト・ライブス(原題)』沁み入る移民物語

『Past Lives』★★★★。

染みる。両親に連れられて海を渡る女の子と、母国に残る男の子。年月を経て再会する2人は…。ニューヨークとソウルの2都市をまたぐ、穏やかで抑えた展開。焦らず、しっとりと紐解く物語。

A24製作・配給のタイトルには決まって「良いシネマトグラフィが伴う」と言われていて、これもその例に違わない。セリーヌ・ソン監督が韓国系カナダ移民ということもあって、韓国での各年代の時

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轟音ドラマ『オッペンハイマー』の功罪

轟音ドラマ『オッペンハイマー』の功罪

『Oppenheimer』★★★☆。
Imdb / Wikipedia / Rotten Tomatoes

映像と音の圧が、同監督の近作と比べても群を抜いている。これに脚本の妙が加わると、一見してスペクタクルに欠ける科学者の地道な研究生活が怒涛のサスペンス作品になる。フラッシュ・インサートも多いし、音基軸のシーン・トランジション、時間軸の入れ替えも頻繁。そこへ重低音鳴り響くルドウィグ・ゴランソン

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『バービー』ブロックバスターモデルの再来

『バービー』ブロックバスターモデルの再来

『Barbie』★★☆・。

資本主義と物質主義と性差別と家父長制への皮肉たっぷりなコメンタリーを材料に、それでいて土台には80-90年代に幼少期を過ごした世代特有の懐かしくも温かい思いをあつらえた、あえて手作り感を隠さないことを是とした商業映画。

歴史ある商品ブランドをもとにしているからこそタイトルに掛け値なしの親近感を持つ層が多いことが特徴で、一方でアーティスト色の強いスタッフ布陣のイメージ

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『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』という若さへの挑戦

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』という若さへの挑戦

『Indiana Jones and the Dial of Destiny』★★・・。

偏屈ジジイと化したジョーンズ博士が、歳を重ねたハリソン・フォード自身の性格と同化していると思わせる点は良い。しかし主演はかねてから再演を希望していたのだから、作れるものならもっと早く作られるべきだった。

AIとCG技術で再現した過去の物語に過分な尺を割いていること。それらで当人が吹き込んでいる声が、作り上

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『AIR/エア』コマーシャリズムから捻り出すクリエイティブ

『AIR/エア』コマーシャリズムから捻り出すクリエイティブ

『AIR』2023/★★★・。
Imdb / Wikipedia / Rotten Tomatoes

手堅いキャスティング、パフォーマンス、セットアップ、シーン消化。特にカギとなるキャラクターたちのパフォーマンスが物語に血を通わせる。ヴィオラ・ディヴィス、クリス・タッカー、ジェイソン・ベイトマンらが出色。マット・デイモンとベン・アフレックは言わずもがなだが、彼らは製作者でもあるので当然のものとし

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