マガジンのカバー画像

シネマちっく天国

33
南伊豆好きの中年ポップスおたくが垣間見た映画の隙間
運営しているクリエイター

記事一覧

今、「貧しさと欠損家族が足りない」と気づかせてくれた「極悪女王」

今、「貧しさと欠損家族が足りない」と気づかせてくれた「極悪女王」

いやあ、まずこんな生々しい物語を全部実名で映像化してるのに驚いちゃったわけですが。

それはそれとして。

つくづく「貧しさ」と「欠損家族」が足りなかったんだなと思ったわけです。

みんな大好きな物語の多くはかつて、貧困に喘ぎ、父親がいなかったり、母親がいなかったり、最悪の場合みなしごだったりしたわけじゃないですか。

星飛雄馬には母親がなく、父親は今で言えばほぼ毒親で。
自分の夢を実現するために

もっとみる
「人間狩り」の理由が欲しかった詐欺師の薄笑いが見える、「地面師たち」

「人間狩り」の理由が欲しかった詐欺師の薄笑いが見える、「地面師たち」

ネタバレありです、要注意。

 途中で気付いたのですが、裏テーマは「人間狩り」だったのかと。いやメインかも。
 ネットフリックスのオリジナルドラマ「地面師たち」は、所有者になりすまして土地を売る詐欺師「地面師」を描いてるんですが。

 詐欺を描いている割に人が死にすぎる。血が流れ、死体が映りすぎる。
 と、まあそこも話題になっていまして。

 でも、そりゃあ血や死体を映すだろうと。
 だって、人間

もっとみる
絶頂は1度でいい、ちょっと長すぎた「トップガン マーヴェリック」

絶頂は1度でいい、ちょっと長すぎた「トップガン マーヴェリック」

 「ちょっと長すぎ」
 「面白かった」という感想の後に、こう付け足したくなった映画としては、「ダークナイト」と双璧かも。

 映画「トップガン マーヴェリック」。物語は50代の中年おやぢの心を鷲掴みですよ。全盛期を過ぎた空軍パイロットが、現場から離れず後継に自らの知恵や技を継承させる。あきらめず現役として継続する、言うなれば三浦知良的生き方を貫く者の尊厳を描いているわけで。

 天才という強者を主

もっとみる
君は愛した人に銃を向けられるか、昭和のハードボイルド「赤いハンカチ」

君は愛した人に銃を向けられるか、昭和のハードボイルド「赤いハンカチ」

 Prime Videoで古い邦画を見るのにハマっちゃってるんですが、この「赤いハンカチ」はトップクラスで「すげえ」かな、と。
 「ルパンIII世」ファーストシーズンの初回3回分が好きな人は必見では。いきなり狭いですけど。

 ネタバレ有りなんで要注意です。

 まず何より桝田利雄監督のシャープな演出。そして、ミステリーがやや甘いとはいえ(だからこそ)ハードボイルドな脚本。愛くるしすぎる浅丘ルリ子

もっとみる
「最終章」でも感じたコントラストの弱さ、「ゴッドファーザー(最終章)」

「最終章」でも感じたコントラストの弱さ、「ゴッドファーザー(最終章)」

 「ゴッドファーザーPartIII」を観た時、「画面が明るい。赤い」と思ったわけです。

 「ゴッドファーザー」も「ゴッドファーザーPartII」も暗くて青い。どちらも逆光の場面が多く、特に「ゴッドファーザーPartII」なんぞは撮影ミスじゃないかと思うくらい暗かった記憶が。

 Prime Videoで「ゴッドファーザーPartIII」のいわゆるディレクターズカット「ゴッドファーザー(最終章):

もっとみる
友和、あなたがそこにいればいい、「ケイコ 目を澄ませて」

友和、あなたがそこにいればいい、「ケイコ 目を澄ませて」

 三浦友和の演技から目が離せませんでした。映画「ケイコ 目を澄ませて」。

 同様の経験はテレビドラマ「世界の中心で愛を叫ぶ」でも味わったんですが、「ケイコ」も三浦友和の演技が見られるだけで大満足っていう映画かと。

 聴覚障害で両耳が聞こえない女性ボクサーを演じた岸井ゆきのの演技もびっくりですよ。音が聞こえないのにここまで繊細な演技ができるのかと。

 ところが三浦友和が画面に映るともうダメ。友

もっとみる
普通に生きてもいいとバラしてしまった「すばらしき世界」

普通に生きてもいいとバラしてしまった「すばらしき世界」

時代の変化をこれほど痛切に感じたのは久しぶりかもしれません。
映画「すばらしき世界」。

地味な映画でしたが、受けた衝撃は決して小さくありませんでした。
なぜって「ヤクザが普通に、平凡に生きるのを選ぶ」映画だったからです。

個人的にはヤクザ映画=任侠映画といえば、「かたぎじゃいられない美学」を描いているという印象を持ってまして。

ささやかな幸福をつかむために、平凡で普通なカタギの世界に居場所を

もっとみる
寅さんの「最高のふられ方」を見るべし、「男はつらいよ 寅次郎恋歌」

寅さんの「最高のふられ方」を見るべし、「男はつらいよ 寅次郎恋歌」

 「男はつらいよ」シリーズには毎回のお約束というかお作法がありまして。
そこが見どころになってるわけです。
 それこそ「水戸黄門」における印籠みたいなもので。

 主人公の寅さんが妹さくらや叔父叔母のいる団子屋の敷居のくぐり方。
 団子屋に隣接する印刷工場の通称「たこ社長」が団子屋に入ってくる時の間の外し方。
 おいちゃんやたこ社長と寅さんの喧嘩のし方。

 毎回、このお約束を楽しみにしてるわけで

もっとみる
「予期せぬ訪問の決まり悪さ」を描いていたポランスキー監督の「水の中のナイフ」

「予期せぬ訪問の決まり悪さ」を描いていたポランスキー監督の「水の中のナイフ」

 なるほど、「予期せぬ訪問の決まり悪さ」を描いていたのか――。
ロマン・ポランスキー監督の処女作「水の中のナイフ」(1962年公開)を見てそう思ったわけです。

 ずっと「間借り人の居心地悪さ」を描くのがポランスキー監督の特徴だと思っていたわけです。
 アカデミー監督賞など3部門を受賞した「戦場のピアニスト」もそう。オカルト映画に分類される「ローズマリーの赤ちゃん」も、カトリーヌ・ドヌーブ主演の「

もっとみる
フリークスVSキャメロン・ディアス! 境界線ギリギリの怪作『メリーに首ったけ』

フリークスVSキャメロン・ディアス! 境界線ギリギリの怪作『メリーに首ったけ』

 これにはたまげた!今や大スター、キャメロン・ディアスの出世作っていうから、それなりに面白いんだろうと思って観たのだが、これがフリークスだらけ、タブーを犯すギリギリまで迫った怪作だった。キャメロン・ディアスのチャーミングなイメージだけで判断すると、良くも悪くも裏切られるに違いない。

 なんせオープニングから凄い。脱力系米国ロックスター、相当マイナーなジョナサン・リッチマンが木の上で歌ってる場面か

もっとみる
パパのいないアメリカ映画

パパのいないアメリカ映画

 「なぜアメリカ映画にパパはいないのだろう?」

 映画『グラディエーター』を観てそう思いました。いつもアメリカ映画の主人公にはパパがいない。そしてパパを探し、愛し、憎んでいるのでは、と。

  基本的に手に汗握る大活劇なんですが、話の軸は、皇帝マルクスに愛されぬ息子コモドゥスの悲しみと憎しみなんです。息子の非力さ、邪悪さに気付いているマルクスはその権力を委譲しようとせず、一介の農民だったマキシマ

もっとみる
ポランスキーが描く、間借人の居心地悪さ

ポランスキーが描く、間借人の居心地悪さ

 例えばこの映画に、ユダヤ人ピアニストとナチス将校の心の交流を期待していたら、がっかりすることは間違いない。
 美談でも、感動的な物語でもない。涙を流す場面なんてほとんどない。
 映画『戦場のピアニスト』は、徹底的に「居心地の悪さ」を描いた、ロマン・ポランスキー流サスペンス映画だと思う。

 物語は、主人公であるピアニスト、W・シュピルマンが、ラジオ放送のためにピアノ演奏している場面から始まる。突

もっとみる
「アメリカ人じゃなくて良かった」と思うとき(2005-05-06)

「アメリカ人じゃなくて良かった」と思うとき(2005-05-06)

 「アメリカ人じゃなくて良かった」
 と思う瞬間がある。1つは滞在経験のある人から、食生活の貧しさを聞かされるとき。
 もう1つは「プロム」を舞台にした映画を見たときだ。

 「行進」を意味する「promenade」を語源とするらしい「プロム」は、言ってみれば「卒業パーティ」だ。その年の卒業生から男女の代表的人気者を選ぶ。各自パートナーを見つけ、男女カップルで出席するのがベスト。1人でも出席資格は

もっとみる
ためらう男が踊りに至る決意(2005-05-12)

ためらう男が踊りに至る決意(2005-05-12)

 男だけで踊る映画がある。

 『フル・モンティ』?そう、炭坑の失業者が一念発起してストリップに挑戦する英国産コメディだ。
 『プリシラ』?いいとこついてるよ。ゲイダンサーが興業のために大陸を横断するオーストラリア産ロードムービーね。
 えっ『ウオーターボーイズ』?シンクロナイズドスイミングを文化祭で披露するために奮闘する高校生を描いた日本映画ね。あれもダンスの一種と考えれば確かにそうだ。

 で

もっとみる