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随筆・日記
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2024年8月の記事一覧

【朔 #178】鉦叩がしきりに鳴く寄り道を

【朔 #178】鉦叩がしきりに鳴く寄り道を

 ほっ、影、が、
 帆っ、陰、が、
 穂、保、火、こころ崖なす、
 ケイトウ夏子個人詩誌『水路』も三冊目。今回はゾクっとするような一行が多い。ここは夜のベネチアなのだろうか、それとも月沈原か。

 開巻劈頭、見事な二行がぐいと棹をさす。なんという切実なイメージなのだろう。特に二行目、この脱落の切なさ。靴が脱げるのはいつも勝手なのだ。それでも「勝手に」と念を押す妙な力み具合が、その力が抜けてゆく様子

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【朔 #177】あをによし、はしけやし

【朔 #177】あをによし、はしけやし

 夢の中で接吻されたような気が夕方になってしてきた。多分、気のせい。
 今年は奈良の引力が増している。五月、子鹿たちの中を歩いて空海の涼しい眦に対したところから、十月、十一月と続けて行くことになった。紅葉の奈良、寧楽、あをによし、はしけやし、ゑ。
 え?
 そんなこといったら、例年通り京都にも訪れている。六月の眠気の中をバスに揺られて多面的絵画空間に取り残されていた。そこからはひたすら歩いて、ああ

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【朔 #176】懸案

【朔 #176】懸案

 曙光。旭光。
 葛の花、何処。
 とりあえず、懸案の案山子の詩を書くためにノオトを並べる。まだイメージが不足。なお韻律の不足。何度か言っているが、これは西脇順三郎新人賞用。完成するかも、怪しいが。
 とにかく高畑勲並みの(途轍もない)想像力が欲しい。
 李白の詩に浸かりつつ、星の自壊について考へる。
 アイスクリームが溶けてもいい。
 天蛾の傾斜とともに縦列駐車も横列駐車になり、面を剥がしたそこ

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【朔 #175】安全な川

【朔 #175】安全な川

 安全な川……。
 奈、
    くらげなす、
           あなたの初めての、
 安全な川から男がひとり出てくる。棍棒を握りしめて、ひたひたと、冬の星が侵入するのを打ち落とせ、三年、みとせ、背、絡み合う柘榴だ今生も枕木も。指先に蜩が鳴いていて、それでも私は悲しかった。悲しいという感情がわからなくなるくらい悲しかった。もう、勾玉に乳の匂い。するすると縄は垂らされ、一応は深海に火山を抱く環太

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【朔 #174】まだ西瓜

【朔 #174】まだ西瓜

 ウミスズメとは姑獲鳥かなにかかと思っていたら、または雀蜂にも似た精霊信仰かと思っていたら、河豚だった。河豚がレーンを回ってきて、ポン酢を一滴たらしてもらうと口中に運ばれてゆく、平気で。シーツの切れっ端みたいな身に電気を当てたらびくびく跳ねるだろうか。その実、ウミスズメは瓶で飼えそうな河豚であり、星の砂だったかもしれない、電車かもしれない。鹿の喉元を電車の風が過ぎる。その声、骨の軋みだ。紅葉且つ散

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【朔 #173】青鷺に似た格好で

【朔 #173】青鷺に似た格好で

 本来、淡路島を眺めているだけでいい人生なのだが、美しい雲がひとり目の前をよぎったので、以来、私は青鷺に似た格好で、屋根の上、アンテナの横に突っ立っている。空いた、空いた、そろそろ末枯れ。
 浦、彼。
 血が出るほど掻き毟る。
 トースターと電子天秤。
 裏、卜、ら。
 奈良のホテル。都かな。
 かなかなかなかなかな、蜩。
 蜩が、聞こえない。

【朔 #172】縄を吊る蜩と銀化している情報網

【朔 #172】縄を吊る蜩と銀化している情報網

 夜長。
 道長でもある。
 新川和江さんが亡くなった。
 今でも、
 木は騒ぐ──(ポプラ?)
 魚の句がお得意ですねと言われても、別に空から縄を吊る蜩と銀化している情報網も秋刀魚、秋刀魚、秋刀魚。
 シッ、シ!
 濾過、夏炉冬扇のごとくなり。
 一篇、詩を書く。杭の詩である。腐九楼はまだできない。でもまあ、
 これが詩なのかわからない。崩彦さん、崩彦さん。
 散乱する首、
       、。

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【朔 #171】葛の高貴な明るさ

【朔 #171】葛の高貴な明るさ

 葛の野生味の無さ。
 洗練、恋々?
 露ではなく雨。
 ああ、とみに、
 師が遠く思へる夜長。
 いつもさうだらう。
 翻車魚の深い溜息の為に植物プランクトンを死なせて(細胞はこゑなく死せり五月雨/髙柳克弘)ゐるとなんだかこつちまで虚数単位に巣構ふ蜜蜂の翅の擦過熱と同心円。
 木が死んでゐる。
 道が死んでゐる。特に、
 明日が死んでゐる。
 それはとても葛の高貴な明るさに、
 耐えきれないよ。

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【朔 #170】二百十日が接近中

【朔 #170】二百十日が接近中

 千里中央。
 ペリカンも好いけど、
 初鰹。
 ありがとうございます。暦売の、
 理の利。あ、
 しかして、惨敗。
 葛の花、梨、露、ひとつぶ。
 私たちに必要な二百十日が接近中!
 敵か!
 崖、から崩れてゆく月の光の雁の窓が無理矢理先鋭化して活かしておくにはもう時間がないんだ月光の激昂の月耕?
 月にも畑があり、
 どうも鯨よりも眠たい仕儀であった。

【朔 #169】ペンギンの頭

【朔 #169】ペンギンの頭

 松虫がいる。
 青松虫もいる。
 だからと言って、私は松ではない?
 海岸沿いを歩いていると夜釣りに来た人々がほぼ等間隔に並んで糸を垂らしている。失礼、比喩とはいえ、糸を垂らしているとは。糸など見えない。但し、夜釣りの場合、電光を発するウキを用いるらしく、竿がしなり空を切る音がすると、暗中、緑色や赤色(霾るや星斗赤燗せしめつつ/小川軽舟)の光が走り、水面と思しき闇の一点に落ちる。あとは釣り人が勘

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【朔 #168】「餅搗島」と「寒鴉」

【朔 #168】「餅搗島」と「寒鴉」

 地獄も休みで夏休みかというとそうはいかない朔シリーズ。
 昨日(二〇二四年八月十五日)の朝の夢。
 私は「〇〇荘」と名がついていそうな古いアパートの一室に住んでいた。六畳一間に裸電球がさがっていて、卓は無く、和箪笥がひとつ部屋の隅にある。窓は灰色の影に埋め尽くされていて、恐らくは目の前がコンクリートの壁。用もないので部屋から共用廊下へ出ると窓が一面に設えてあり充分に明るい。他の部屋は全部扉が閉ま

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【朔 #167】猿=

【朔 #167】猿=

 白猿。
 李白の猿(白猿⁉︎)を追いかける。
 けけけけけけけけけけ、
    い i......
   issue......
 (軽舟已過万重山/李白「早発白帝城」)
 猿=立方体に球を敷き詰めてなお朝顔を捥ぐ手つきの鉄が錆びていくそんな中国四国地方の形而上学だのドイツ観念論だのnon unknown あの阿波野青畝の水母たち睫毛たちケタケタと初茸を聳えたつ嶺へ突き立てて天は傾き願い事を五つ

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【朔 #166】→猿?

【朔 #166】→猿?

 必要があり、とりあへず、岩波文庫の『李白詩選』(編訳・松浦友久)を買ふ。躍り出る猿。

 転・結句の凄まじさを解つてほしい。私は猿をサルトルだとは決して思はない。だから、この軽舟に乗つて、大陸だ……。
 け、けけけけけ、
  い、      (猿)
      しゅーーー──。
 産道などという安易な解釈以前の想念を振り払ひ、一蘭の拉麺おいしいですよね、でも、白帝と、その咳に気づいてないので、は

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【朔 #165】猫が猫になるまで

【朔 #165】猫が猫になるまで

 猫が猫になるまでの過程を試験管越しに見ていた。試験管の中で猫は猫になる。猫を取り出す鉗子が必要になる可能性があり、雨雲はなおも暮れようとして新開地で食べられる拉麺屋の炒飯のべちゃつきのように髭の垂れた猫、猫、猫。ゑのころ草はをのころ島? 知らない観覧車に乗る。巨大な観音像を海峡に沈めて、夕陽は上昇を始めた。八月の(八月や孔雀の声の凶々し/飯島晴子)狐の檻の時速如何。悪食を諾う始皇帝と、フランスに

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