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【朔 #169】ペンギンの頭

 松虫がいる。
 青松虫もいる。
 だからと言って、私は松ではない?
 海岸沿いを歩いていると夜釣りに来た人々がほぼ等間隔に並んで糸を垂らしている。失礼、比喩とはいえ、糸を垂らしているとは。糸など見えない。但し、夜釣りの場合、電光を発するウキを用いるらしく、竿がしなり空を切る音がすると、暗中、緑色や赤色(霾るや星斗赤燗せしめつつ/小川軽舟)の光が走り、水面と思しき闇の一点に落ちる。あとは釣り人が勘でするすると糸を巻いていく。発光するウキはすいすいと陸へ引き寄せられ、それがなんだかペンギンの頭のように思えてならなかった。
 ちんちろちんちろちんちろりん。
 ベランダに蟋蟀が来ていて、蟬は今朝から排水溝に死んでいる。
 蟬の死骸をスコップで掬い、
 地上へと投げ落とした。抛物線。
 一杯のカツ丼、或は磁石。
 猫、猫猫猫。
 街灯の真下で、公園の暗がりで、私を見つめる猫、がいます。猫はいます。
 いいえ、私は松です。
 屈葬にしてください。

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