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随筆・日記
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2024年4月の記事一覧

【朔 #93】ずっと不愉快

【朔 #93】ずっと不愉快

 三冊の詩集、これは一冊欠けている。
 ドイツ語の森のくぐもりを、
 知らない。
 鷹が飛来して、
 難しい紅梅の話。
 ずっと不愉快。

【朔 #92】吉岡実『土方巽頌』(筑摩書房)という伝記

【朔 #92】吉岡実『土方巽頌』(筑摩書房)という伝記

 最近の読書は俳句関連に偏っていたが、吉増さんに会いに行く、やけに空いている快速電車の中で読んだのは、吉岡実『土方巽頌』(筑摩書房)という伝記であった。これは、吉岡実の日記と吉岡実以外の人物達(土方巽本人も含む)による土方巽関連の文章の引用によって構成されている。本当は読破してから、会場に着きたかったのだが、三分の一ほどで大阪駅に降りなければならなかった。
 帰りの電車でも、同書を読んだ。止まって

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【朔 #91】その、刹那はひきのばされていて、幸福であり、……

【朔 #91】その、刹那はひきのばされていて、幸福であり、……

 久々にお会いできた、
 吉増さんの肉体、肉声に接して、
 土方巽の、
 早口の裏にある冥い幼児性、その興奮状態のオノマトペ、吉増さんが言及された土方巽の言葉の「のろさ」を、を、考えていた。度々、吉増さんが言及される、吃り、ミュート、サイレント、nightの消え入るジョイス、と関連があるかもしれない。
 サイン会の折、
 「帛門臣昂です」
 と言うと、
 「おおお! いらっしゃい、きぬかどさん、今

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【朔 #90】永遠の忿怒のように思われる

【朔 #90】永遠の忿怒のように思われる

 本当は黙っていて良いのだろう。
 福田平八郎展を出て、
 曇天の大阪に身を曝した瞬間、
 そう思った。
 そもそも、
 大阪は嫌いだ。
 ぼろぼろの巻貝を描く。福田平八郎の写生の思想にあてられて。私はこれが、死をもってなお終わらぬ、永遠の忿怒のように思われる。あるいは、
 無意味、それ自体。
 頭痛。
 鼻血。
 歯痛、歯痛、歯痛、ほのかに。
 歯の音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音音

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【朔 #89】訃報が届いた日に、拾ったのが、ぼろぼろの巻貝だとは……櫻湖さん、榎本櫻湖さん、鯨の夢は、暗いばかりでは、ない、ですよね

【朔 #89】訃報が届いた日に、拾ったのが、ぼろぼろの巻貝だとは……櫻湖さん、榎本櫻湖さん、鯨の夢は、暗いばかりでは、ない、ですよね

 榎本櫻湖さんの訃報。愛読者としてだけでなく、恩を受けた者として非常に辛く、何かできたのかも、と月並な、そして今更遅い、そもそも関係があったわけでもなく、何かしようとすればそれはでしゃばりだっただろうし、とはいえ残念で、残念でならない。Twitterの更新も絶えていたため、気になってはいたのだが、まさか、こんな。
 牡丹が、
 萎れたような気分。
 訃報が届いた日(二〇二四年四月二十五日)に、
 

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【朔 #88】この身体が三叉路になってくれないので

【朔 #88】この身体が三叉路になってくれないので

 撮影時には気付いていなかった、己の写り込みについて。それは筒鳥の予感を纏った死体。直立せよ、命という字。膨張する胸のあたりには髑髏のもののけが音を立てて睨む。いつまで経ってもこの身体が三叉路になってくれないので、またも夏。
 頬、頬。
 頬と頬。
 ほほとほほ。
 ポポッ?
 吉増剛造を楽しみにしつつ。

【朔 #87】筒鳥に悠遠の暇潰し

【朔 #87】筒鳥に悠遠の暇潰し

 師と同じ道をゆく清々しさ。
 はや、山滴ると叫びたい。
 そんな、青葉。
 靴下まで草葉の水滴に濡れ、
 筒鳥に悠遠の暇潰しを与えたい。
 願わくば、
 歯の違和感なしに、
 歌いたかった、集った。
 筒鳥の、
 ポポッ、
   ポポッ、
           ポポッ、
      ポポッ、
 筒鳥の、
 茸も眠れ、
 筒鳥の、
     ポポッ、
  ポポッ、
          ポポッ、
 

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【朔 #86】心理的な面、不安を解消できたらなと……

【朔 #86】心理的な面、不安を解消できたらなと……

 蜂が守護する封書にはなにも入っていなかった。
 なにも入れていなかった。
 これまでと別の歯医者に行くも、
 明確な理由はわからず、
 「歯槽骨の明らかな損傷は認められません。中途半端な離断があるかもしれませんが、それは後々細菌が侵入して骨がどうにかなってから結果的にわかるでしょう。歯周病等のケアをしつつ、心理的な面、不安を解消できたらなと……」
 要は、
 気にしすぎだと、
 全く同じことを言

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【朔 #85】耳、を硬くせよ

【朔 #85】耳、を硬くせよ

 私が千里中央に降り立つと、
 雨、雨、雨、
 冷え。
 荒れ。
 廃園まがいの空き地。
 灰、肺。
 耳、を硬くせよ。
 黄緑……。
 喨々と、
 窓は窓の色を知らない。
 藤はやるせなく、
 歯の軋み、樒。
 ししししししし、と
 不吉な平仮名を並べる。整列せよ、
 ししししししし、と
 窓辺でLINEを交換する。
 と、艫綱。
 今日(二〇二四年四月二十二日)は歯医者。

【朔 #84】この話が重要だった

【朔 #84】この話が重要だった

 水棲生物の中にセイレーンを含まない方がpoetic。
 水族館嗜好は、から、からから、殻から声を出す亜人とともに、丹、虹の根に、小指のささくれが面倒くさい。
 川崎真由子作曲、小笠原鳥類作詞、低音デュオ演奏「低い音の生きもの」を聴きながら布団(名山に正面ありぬ干蒲団/小川軽舟)に入った。動画が終わってから数分間しじまに包まれていると眠れた。
 夢を見た。改札を抜けると地下鉄のホームであり、この駅

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【朔 #83】余程めでたい脳である

【朔 #83】余程めでたい脳である

 ししししししししし、と
 不吉な平仮名を並べて、もしも、
 全宇宙の統帥権を握っている気がしたならば、
 余程めでたい脳である。なづきである。
 さっきから、歯の音がうるさい。
 ミシミシッ、ミシミシミシミシッ。
 ガコッ……。
 これで「気にしすぎ」という方が不思議で愚かで、
 余程めでたい脳である。なづきである。
 学士号取得からやり直せ。
 安里琉太『式日』(左右社)を読んだ。なんとも刺激

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【朔 #82】藤棚が欲しい、バター

【朔 #82】藤棚が欲しい、バター

 漸く、藤の花。
 藤には何も課していないので、
 気楽に、
 見られる。
 梅見、
 花見ときて、
 藤見がないのはもったいない。
 私も、
 藤棚が欲しい、バター。
 フレンチトーストを食べてから藤棚の下に立つと、バター。
 熊蜂と虻とその他大勢と。
 鳳蝶がやってきていて、
 もう、そこは夏でした。
 ノン!
 昨日(二〇二四年四月十八日)は冷たかった。
 花は葉に。
 石田波郷新人賞を狙う

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【朔 #81】私が座を定めれば、そこから放射する幻視の方向がある

【朔 #81】私が座を定めれば、そこから放射する幻視の方向がある

 沖縄の蓮。
 私は島の神に嫌われていた。
 否、
 そんな、
 海峡の懐古は不要。
 本当に語りたいのは藤の美しさ、示唆。
 藤、藤、藤に、熊蜂。
 椋鳥。
 蒲公英もいいよね(たんぽぽやまばたきのなき死後の景/小川軽舟)。
 藤の昼といふ季語があり、それはとても嬉しいことでした。
 藤の風、といふ語はなく、それはどうでもいいことですが、熊蜂も虻も(藤の虻ときどき空を流れけり/藤田湘子)羽音を立

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【朔 #80】スッスッスッ……

【朔 #80】スッスッスッ……

 意味不明かもしれないが、ありのまま。
 昨日の昼間、創作のために必要になって風車を工作した。紙と爪楊枝だけで作ったものの、よく廻る。そうそう、昨日の神戸は風が強かったのだ。窓辺にセロハンテープで設置して、それが廻るたび、スッスッスッ……と紙の擦れる音がする(空回りせよかざぐるまかざぐるま/櫂未知子)。
 夜には春雷(春雷や暗き厨の桜鯛/水原秋櫻子)に大雨。その間もやはり廻る風車。窓外の闇に向かっ

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