【朔 #91】その、刹那はひきのばされていて、幸福であり、……
久々にお会いできた、
吉増さんの肉体、肉声に接して、
土方巽の、
早口の裏にある冥い幼児性、その興奮状態のオノマトペ、吉増さんが言及された土方巽の言葉の「のろさ」を、を、考えていた。度々、吉増さんが言及される、吃り、ミュート、サイレント、nightの消え入るジョイス、と関連があるかもしれない。
サイン会の折、
「帛門臣昂です」
と言うと、
「おおお! いらっしゃい、きぬかどさん、今日はどうでした?」
覚えてくれていたらしい。
何を?
それは秘密なんですが、
ともかく、吉増さんに認識されることが一度あったということなんです。私は、
吉増さんの書く「帛」の字が好きなんです──。
振り仮名まで書いてくださっているとき、
「き」で一度手が止まって、
じわっと(否、土方巽の口を借りて、じょならっと)、
インクがひろがるのを、
もう、
すぐそこで視ていた、その、刹那はひきのばされていて、幸福であり、……。