JW627 臼を背負って
【景行即位編】エピソード16 臼を背負って
第十二代天皇、景行天皇の御世。
西暦82年、皇紀742年(景行天皇12)のある日。
景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)は、大后の播磨稲日大郎姫(以下、ハリン)の出産に立ち会うため、針間国(現在の兵庫県南部)を訪れていた。
付き従うのは、告の首(以下、スズム)。
中臣の連の大鹿島(以下、オーカ)。
忌部の首の和謌富奴(以下、わかとん)である。
そして、一行は、日岡神社にて、祭神の大吉備津日子(以下、芹彦)に遭遇したのであった。
芹彦「・・・ということで、日岡の裏手に行け!」
シロ「は? なにゆえ、そうなりまするか?」
芹彦「そこの邑に、川が流れておるのじゃ!」
オーカ「は? 何処でも、川は流れておりますが?」
芹彦「ただの川ではない! 曲がっている川なのじゃ!」
わかとん「は? 何処でも、川は曲がっておりまするが?」
芹彦「ただ曲がっているだけではない! それを見た『シロ』が、こう申すのじゃ! 『この川の曲がりは、大変、見事で有ることよ!』とな!」
スズム「川とは、加古川のことにござりまするか?」
芹彦「その通り! そして、邑は『望理』の里と呼ばれるようになるのじゃ!」
シロ「もしや『播磨国風土記』の地名伝承にござりまするか?」
芹彦「その通り! 二千年後の兵庫県加古川市は神野町の加古川南岸と言われておるぞ! さあ! さっさと行けい!」
シロ「い・・・行くも何も、既に解説してしまわれたでは、ありませぬか・・・。」
芹彦「はっ! しまった! 謀られた!」
わかとん「誰も謀っておりませぬぞ。」
芹彦「と・・・とにかく『ハリン』に陣痛が始まったようじゃ! ついに産まれるぞ! 猛き皇子が! さあ! さっさと行けい!」
シロ「猛き皇子? か・・・かしこまりもうした。」
「芹彦」に別れを告げ、一行は「ハリン」の産屋が有る、賀古郡城宮(兵庫県加古川市加古川町木村)に戻った。
そこには「ハリン」の父、若日子建吉備津日子(以下、タケ)。
兄の武彦(以下、たっちゃん)。
妹の伊那毘若郎女(以下、イナビー)と、「シロ」と「イナビー」の子、彦人大兄王(以下、ひこにゃん)の姿が・・・。
シロ「タケ先生! ただいま、戻りもうした!」
タケ「おお! 大王! 戻られたか。」
産屋越しに「シロ」が「ハリン」に声を掛ける。
シロ「ハリン! 我が、参ったぞ! ハリン!」
ハリン「ううぅぅ! ううぅぅ!」
オーカ「では、早速、祈りを捧げ、邪なる気を祓います。」
わかとん「さあ! 祭壇の支度に取り掛かれ!」
こうして、出産が始まったのであるが・・・。
シロ「ん? 如何致したのじゃ?」
スズム「今日で、七日目にござりまする。」
シロ「何!? 七日間も、続いておるのか?!」
オーカ「所謂、難産にあらしゃいます。」
シロ「されど、七日間とは・・・。」
タケ「こうなれば、大王に、一肌脱いでもらうほかあるまい。」
シロ「・・・と申しますと?」
たっちゃん「では、大王・・・。こちらの臼を背負ってくださりませ。」
シロ「ん?」
オーカ「引き臼か、搗き臼か・・・。聞いてはなりません。」
わかとん「所謂、ロマンにござる。」
シロ「して、これを、どうするのじゃ?」
イナビー「難産の時、夫が臼を背負って、産屋を廻る習わしが有るのです。」
シロ「何じゃと!」
ひこにゃん「父上! お気張りくださいませ!」
シロ「う・・・うむ。習わしなれば、致し方あるまい。よし! 担ぐぞ! ぬ・・・ぬおぉぉ!」
スズム「行け! 大王!」
シロ「このまま廻れば、良いのじゃな?」
イナビー「負けるな、大王! 頑張れ、姉上!」
そして、産屋を廻って、何周目であろうか、赤ん坊の泣き声が、響き渡った。
赤ん坊「ほんぎゃぁぁ。ほんぎゃぁぁ。」
シロ「はぁ、はぁ・・・。う・・・産まれたぞ!」
そこに、産婆がやって来た。
産婆「おめでとうございます。皇子にございます。」
シロ「おお! 男であったか! で・・・では、臼を降ろそうぞ。」
産婆「それが・・・。」
シロ「ん? 如何した?」
産婆「もう一人、お産まれになります。」
シロ「何じゃと!」
タケ「大王。次に産まれてくる子が、猛き皇子じゃ。」
シロ「な・・・なんと・・・。では、我は、まだ、臼を背負いて、廻らねばならぬと?」
タケ「そういうことじゃ。」
シロ「こ・・・こんちくしょう!」
「シロ」は、そう叫ぶと、臼を投げた。
イナビー「大王! 何をなさいます! 姉上は、七日間も・・・(´;ω;`)ウッ…。それくらいのことで、どうなさいます!」
タケ「うむ。『イナビー』の申す通りじゃ。さあ、早う臼を背負われよ。」
たっちゃん「諦めたら、そこで、出産終了ですぞ。」
シロ「う・・・。背負いまする。『ハリン』がため、皇子がため、我は・・・我は、背負いまする!」
二人目は、無事に生まれるのであろうか?
次回につづく
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