JW618 鯉で媛を釣る
【景行即位編】エピソード7 鯉で媛を釣る
第十二代天皇、景行天皇の御世。
西暦74年、皇紀734年(景行天皇4)2月。
ここは、泳宮。
岐阜県可児市久々利。
景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)は、弟媛を妃とするため、三野国(現在の岐阜県南部)に行幸していた。
付き従うのは、妃の伊那毘若郎女(以下、イナビー)と、二人の間に産まれた、彦人大兄王(以下、ひこにゃん)。
そして、大連の物部の連の十千根(以下、ちね)である。
一行は、無事に、八坂入彦(以下、ヤサク)の元に辿り着いたのであったが、肝心の弟媛は、竹林に姿を隠したのであった。
「シロ」は、池に鯉を放ち、媛を誘うのであったが・・・。
弟媛「見ちゃうわよ。鯉・・・絶対、見ちゃうわよ。」
ゆっくりと池に近付く、弟媛。
傍らには、姉の八坂入媛(以下、やぁちゃん)の姿が・・・。
やぁちゃん「弟媛? 焦らず、ゆっくりとですよ・・・。」
弟媛「分かってるわよ。」
二人が池に近寄った、その刹那!
大勢の男たちが、横から飛び出してきた。
男(い)「媛! もう離しませぬぞ!」
男(ろ)「ここで会ったが、百年目! 我らと同道願いまする。」
弟媛「やっぱり、罠だったのね。」
男(は)「お許しくださりませ。『日本書紀』では、大王が、媛を見つけて、側に召したと書かれておるのですが、可児市久々利の昔話では、我らが取り押さえたことになっておるのでござる。」
弟媛「なんで、国の公式見解じゃなくて、昔話を採用してんのよ!」
男(に)「言わずもがな。作者の各地の伝承を紹介したいとの思し召しにござりますれば・・・。」
弟媛「あれ? ところで、姉上は?」
男(ほ)「昔話に従って、うまく逃げ切ったようですな・・・。」
弟媛「そういう展開になってるんなら、仕方ないわね。」
こうして、弟媛は「シロ」に謁見したのであった。
弟媛「わ・・・私が、弟媛です。」
ヤサク「如何致した? 震えておるではないか?」
弟媛「だ・・・だって、知らない男の人なんだもん・・・(´;ω;`)ウッ…。」
ちね「昔話は、震えてるだけやのに、この物語では、泣きだしてもうたで!」
シロ「う・・・うるさい!」
弟媛「ひっ!」
シロ「あっ! いや、汝に言うたわけではないぞ。」
イナビー「女心が分からぬ大王には、此度のこと、難しい話だったのでは?」
シロ「な・・・何を申すか。そう言う、汝は、我の妃になっておるではないか!」
イナビー「昔から、勝手知ったる仲ですもの・・・。されど、弟媛殿は、大王のことなど、全く知らないのですよ?」
ひこにゃん「あうわ!」
イナビー「ねぇ? 『ひこにゃん』も、そう思うわよねぇ?」
シロ「うっ・・・。お・・・弟媛よ。恐ろしがることは無い。もそっと、近う寄れ。」
弟媛「は・・・はい。」
男(い)「大王の優しい言の葉に、弟媛様は、少しずつ、落ち着きを取り戻されたわな。」
ちね「いきなり、昔話になるんかい!」
男(ろ)「一方、大王は、噂に違わず、ひどう美しい媛に大喜びされ、来る日も、来る日も、弟媛様を連れて、山や、川で、楽しく遊ばれたのじゃ。」
男(は)「弟媛様もまた、大王の優しさに、次第に心を寄せられ、月日を忘れて、幸せな日々を送られたそうやわな。」
イナビー「月を跨いじゃったのね。」
男(に)「やがて、大王が、国中(奈良盆地)に帰られる日がきたんじゃ。」
シロ「弟媛よ、我と共に、宮へ帰ってくれぬか?」
弟媛「私は、共には参りません。」
シロ「何じゃと?」
弟媛「夫婦の道は、昔も今も、通じておこなわれるモノですが、私にとっては無用だと考えております。私は、生まれつき、交接の道を望みません。大王の思し召しが畏れ多く、しばらく、召されておりましたが、心の中では喜んでおりませんでした。」
シロ「何じゃと? されど、さきほど、男(は)が、幸せな日々を送ったと・・・。」
弟媛「あれは、昔話。この台詞は『日本書紀』バージョンにござりまする。」
シロ「ば・・・ばあじょ?」
弟媛「また、容姿も美しく無く、長い間、後宮にお仕えすることは出来ませぬ。」
シロ「美しくない? 何を申してるおるのじゃ?」
弟媛「ただ、私には、姉があって、八坂入媛と申します。」
ヤサク「我らは『やぁちゃん』と呼んでおりまする。」
弟媛「姉は、容姿も美しく、心も貞潔でございますので、姉を後宮にお召しになってください。」
男(ほ)「媛は、そう申されると、局(部屋のこと)の中に走り去り、戸を閉め切って、一人、涙を流されたのじゃ。」
ちね「昔話と『日本書紀』が、行ったり来たりやね。」
イナビー「大王? どうなさる、おつもりですか?」
「シロ」は、一体、どうするのであろうか。
次回につづく
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