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JW556 鷲取りの翁
【伊勢遷宮編】エピソード15 鷲取りの翁
第十一代天皇、垂仁天皇の御世。
紀元前4年、皇紀657年(垂仁天皇26)。
天照大神(以下、アマ)の鎮座地を求め、倭姫(以下、ワッコ)の一行は、旅を進めていた。
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カット「ついに宮川を出て、海に入りましたぞ。」
おしん「伊勢湾だべ。」
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ワッコ「そんなことより、私は、喉が渇いた・・・。」
市主「水にござりまするな。では・・・。あっ!」
カーケ「どうしたのかね?」
市主「水が・・・有りませぬ。」
ワッコ「えっ?」
くにお「飲み水を切らしてしもうたのか?」
市主「どうも、そのようで・・・。」
ワッコ「ど・・・どうしたものか・・・。」
インカ「あっ! あちらの小浜に、翁が!」
ねな「鷲取りの翁みたいね。」
乙若「あの翁に、尋ねてみましょうぞ。」
ワッコ「うむ。そう致そう。」
乙若「もし、そこの翁?」
翁「何や?」
乙若「どこぞに、水が飲める処は有りませぬか?」
翁「しゃぁないなぁ。ちょっと待ってなさい。」
すると翁は、冷たい水を汲んで戻ってきた。
それだけでなく、食事まで用意してある。
ワッコ「えっ? 水が飲める処を聞いただけなのじゃぞ?」
翁「せやけど、皆様は『ワッコ』様の一行ですやろ?」
ねな「バレちゃってるのね。」
カーケ「されど、何故、ここまでしてくれるのかね?」
翁「二千年後の人が、嬉しそうに言うてますやろ? お・も・て・な・し。」
オーカ「手を横に動かしながら言うんが、コツにあらしゃいますか?」
翁「せやで。お・も・て・な・し。」
ワッコ「なんとありがたいことじゃ。これよりのちは、この浜を『鷲取り小浜』と名付けようぞ。」
おしん「二千年後の『鷲ヶ浜』のことだべ。伊勢市大湊町に有るんだ。」
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ワッコ「更には、社も建てようぞ。」
カット「これが、水饗の神の社にござりまする。」
ねな「候補地は、二つ有るみたいね。」
市主「左様。一つ目が、水饗神社にござる。」
くにお「されど、二千年後の地図に、そのような社は見当たらぬが・・・。」
インカ「西暦1907年、皇紀2567年(明治40)に、同じ大湊町の日保見山八幡宮に合祀されたとの由。」
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くにお「では、元々の鎮座地は、分からぬということか?」
インカ「御安心くだされ。忘れ井の有る地が、元々の鎮座地にござりまする。」
ワッコ「読者の御世には、児童公園になっておるのじゃな。」
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市主「ちなみに、祭神は、水戸御饗都神にござりまする。」
ワッコ「二つ目は?」
乙若「二つ目は、御食神社にござりまする。こちらの祭神も、水戸御饗都神にござりまする。」
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ねな「ちょっと待ちなさいよ!」
ワッコ「い・・・如何したのじゃ?」
ねな「鎮座地が、三重県伊勢市神社港になってるのよ。」
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オーカ「何か問題でも有りますのか?」
ねな「鷲ヶ浜は、伊勢市大湊町でしょ? だったら、社の鎮座地も大湊町になると思うんだけど・・・。」
オーカ「何を言うてますのや。汝が、いつも言うてますやろ? これが、ロマンというモノではあらしゃいませんか?」
ねな「あっ!」
アララ「あらら・・・。そういうことになっちゃった。」
ワクワク「ちなみに、御食神社には『辰の井』という井戸が有るそうだよ。さぁ、翁? どっちの井戸で水を汲んだのかな?」
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翁「うう・・・。わてが、祀られてるわけやないんや・・・( ノД`)シクシク…。」
ワクワク「えっ? ちょっと?」
おしん「ち・・・ちなみに『辰の井』では、新年最初の辰の日に『お水取り』がおこなわれるそうだべ。」
カット「そ・・・その初水は、一年間の水難や火除けになるそうで、地元の人々は、家の周りにかけたり、台所に、お供えするそうですぞ。」
ワッコ「翁・・・。許せ・・・。」
旅は、まだまだ続くのであった。