JW503 大后と母上と
【垂仁天皇編】エピソード32 大后と母上と
第十一代天皇、垂仁天皇(すいにんてんのう)の御世。
年が明け、紀元前22年、皇紀639年(垂仁天皇8)正月を迎えた。
ここは、纏向珠城宮(まきむくのたまき・のみや)。
垂仁天皇こと、活目入彦五十狭茅尊(いくめいりひこいさち・のみこと)(以下、イク)の元に、大臣(おおおみ)の尾張建諸隅(おわり・の・たけもろすみ)(以下、ケモロー)がやって来たのであった。
ケモロー「大王(おおきみ)! あれから、三年になるがや。そろそろ、腹を括(くく)ってちょうせんか(くださいませんか)?」
イク「えっ? 何を?」
ケモロー「しらばっくれてもダメだがや! 新しい大后(おおきさき)のことだがや!」
イク「あっ! 今年の1月に、社(やしろ)が創建されるんだった! その名も、浅間神社(あさまじんじゃ)だよ! 木花開耶姫(このはなのさくやひめ)を祀(まつ)った社だね。さて、どこに鎮座(ちんざ)したか、知ってる? 静岡県だと思うでしょ? でも、違うんだよね。」
ケモロー「何を言うとるがや! 富士山を祀った社で、静岡県じゃなかったら、山梨県に決まっとるでねぇの! そんなことより、新しい大后のこと、早う決めてちょうよ(くださいよ)!」
イク「えっと・・・。山梨県の笛吹市(ふえふきし)は、一宮町一ノ宮(いちのみやちょう・いちのみや)に鎮座したんだよ。元々は、摂社(せっしゃ)の山宮神社(やまみやじんじゃ)の場所に創建されたんだけど、西暦865年(貞観7)12月9日に遷座(せんざ)されたんだって・・・。」
ケモロー「そんなことは聞いとらんでよ! 新しい大后のことを言うとるんだで?!」
イク「あっ! そうそう、山宮神社も、少し場所は違うけど、同じ笛吹市一宮町一ノ宮に鎮座してるんだよ。所謂(いわゆる)、飛び地ってヤツで、同じ住所になってるんだよ。面白いよね?」
ケモロー「どうしても、大后を迎え入れることはできないと・・・。そういうこときゃ?」
イク「大臣・・・。僕だって、分かってるよ。分かってるけど・・・。まだ、心が・・・。」
こうして、今年も、新しい大后を迎えることはなかったのであった。
そして、同年のある日のこと・・・。
ここは、淡海国(おうみ・のくに:現在の滋賀県)の甲可日雲宮(こうかひくも・のみや)。
天照大神(あまてらすおおみかみ)(以下、アマ)の御杖代(みつえしろ)、倭姫(やまとひめ)(以下、ワッコ)は、粛々(しゅくしゅく)と神のお告げを聞いていた。
ワッコ「左様にござりまするか・・・。遷座を・・・。次も、同じ淡海国なのですね?」
アマ「その通りじゃ。此度(こたび)は、少し北の地に向おうと思うておる。その名も、坂田宮(さかた・のみや)じゃ。そして、此度の宮の候補地は、一社じゃ。安心するが良い。」
ワッコ「左様にござりまするか・・・。坂田神明宮(さかた・しんめいぐう)にござりまするな・・・。」
アマ「うむ・・・。滋賀県は、米原市(まいばらし)の宇賀野(うかの)に鎮座しておる。」
ワッコ「左様にござりまするか・・・。そして、しばらくの間、留(とど)まられるのですね・・・。」
アマ「う・・・うむ。そういうことになるが・・・。如何(いかが)致した? 元気が無いぞ?」
ワッコ「母上(狭穂姫(さほひめ)のこと)が亡くなられ、はや、三年が経ちまする。私は、いつ産まれてくるのでしょうか? 私の母は、一体、誰なのでしょうか?」
アマ「そ・・・そのようなこと、わらわに聞くでない。いずれ、産まれる日も来よう・・・。」
出生の謎を抱え、精神が不安定になっている、倭姫なのであった。
つづく
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