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JW555 ダブルミッション
【伊勢遷宮編】エピソード14 ダブルミッション
第十一代天皇、垂仁天皇の御世。
紀元前4年、皇紀657年(垂仁天皇26)8月3日。
ここは、纏向珠城宮。
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垂仁天皇こと、活目入彦五十狭茅尊(以下、イク)の面前に控えるのは、大夫の物部十千根(以下、ちね)と大伴武日である。
ちね「大王! ただいま戻りました。」
武日「倭姫こと『ワッコ』様の旅から、無理矢理、戻された理由を聞かせて欲しいっちゃ。」
イク「ご・・・ごめんね。く・・・詳しいことは、大連が話すから・・・。」
ここで、大連の物部大新河(以下、ニック)が口を開いた。
ニック「これまでも、何度か、出雲国に使いを送り、その国の神宝を検校させようとしたんやけど、はっきりと申す者が、おらんかったんや。そこで『ちね』は、出雲に向かい、神宝を検校せよ。」
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ちね「ちょっと待ってくださいよ。そないなことで、呼び戻されたんでっか?」
ニック「そないなことって、何ちゅう物言いや! これは『日本書紀』に書かれてる記事でっせ。」
ちね「えっ?」
武日「ところで、検校って?」
イク「く・・・詳しく調べるってことだよ。」
ちね「ん? 大王? 具合でも悪いんでっか?」
イク「そ・・・その通りだよ。月日は、よく分からないんだけど、こ・・・今年、僕は病に罹ってるみたいなんだよね。」
武日「そんげなコツ『記紀』には書かれちょらんじ!」
イク「あ・・・当たり前じゃないか・・・。こ・・・これは『越前国官社考』に書かれていることなんだ。」
ちね「それって、江戸時代の末に書かれた書物やないですか? そないなモンを採用するやなんて、作者は何を考えてるんや?」
ニック「とにかく、鬼ヶ嶽の麓に大杉が有って、その梢から、悪い虫が発生してるんや。」
武日「悪い虫?」
ニック「その虫の鳴き声が、国中(現在の奈良盆地)にまで聞こえてきてやなぁ、大王が病に罹ってもうたんや。」
イク「ほ・・・ほかの伝承では、悪い虫っていうのは『イナゴ』のことだと書かれてるね。だ・・・大発生して、皆が困ってるんだ。」
ニック「とにかく、鬼ヶ嶽こと鬼ヶ岳に、大蒸大神が祀られてますんで、武日は、この神様に祈願するように!」
武日「は? 鬼ヶ岳って、何処に有るんや?」
ニック「福井県越前市や。高志国やで。」
イク「く・・・詳しいことは、エピソード270を参照してね。」
武日「ええっと・・・紀元前91年、皇紀570年(崇神天皇7)に創建されて、祭神の大蒸大神は、山幸彦こと『ヤマピー』のことで、標高は533m・・・。」
ニック「ちなみに、鬼ヶ嶽は、丹生嶽とも呼ばれてたみたいやな。」
ちね「ちょっと待ってくださいよ。8月3日の記事は、わてのことについて書かれた記事ですやろ? そこに、武日の記事を無理矢理、ねじ込むって、何を考えてはるんですか?」
ニック「そないなこと、わてに聞くな! 作者の陰謀や。」
こうして、ダブルミッションが開始された。
そして・・・。
ちね「しっかり検校して来ましたで。」
イク「ありがとう。ちね。これからも、出雲の神宝を管理してね。」
ちね「そうなるんでっか?」
イク「どうも、そうみたいだね。」
ちね「ところで、大王? 元気になってるみたいでっけど?」
イク「その通り! 武日が祈願してくれたおかげで、虫は退散し、僕は、この通りだよ。」
武日「じゃが(その通り)! そして、大蒸大神こと『ヤマピー』様を謝し奉り、山の麓の福井県越前市大虫町に遷座したんやじ。」
イク「これが、大虫神社だよ!」
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こうして、ミッションは成功したのであった。
つづく