JW585 ふたたびの真鶴
【垂仁経綸編】エピソード7 ふたたびの真鶴
第十一代天皇、垂仁天皇の御世。
年が明け、紀元前2年、皇紀659年(垂仁天皇28)となり、あっという間に、秋の季節を迎えてしまった。
そんなある日の正午頃・・・。
ここは、伊勢国の五十鈴宮。
二千年後の三重県伊勢市に鎮座する、伊勢神宮の内宮である。
天照大神(以下、アマ)の御杖代、倭姫(以下、ワッコ)は、ある男を呼びよせていた。
その男とは、足速男(以下、はやお)と言った。
はやお「お初にお目にかかりまする。我が『はやお』にござりまする。」
ワッコ「おお! 参ったか。」
はやお「して、我に申し渡すこと有りと、聞き及びましたが・・・。」
ワッコ「うむ。宮の上で、真鶴が鳴きながら、飛び回っているのは、見たか?」
はやお「はぁ。なにゆえ、飛び回っておるのかと、不思議に思うておりもうした。」
ワッコ「そうなのじゃ。遥か、北の地より、やって来て、昼も夜も鳴き続けておってな・・・。」
はやお「昼も夜も?」
ワッコ「うむ。昨年も、似たようなことが有ったので、此度も、同じことやもしれぬと思うが・・・。」
はやお「昨年も、真鶴が? では、同じ真鶴が来ておると?」
ワッコ「いや、それは無い。昨年の真鶴は、神として祀っておるゆえ・・・。」
はやお「では、調べてみぬことには、何とも言えませぬな。」
ワッコ「そうなのじゃ。そこで、足が速いと評判の汝に、頼みたい。」
はやお「ははっ。何なりと・・・。」
ワッコ「真鶴が、何処から来ておるのか、調べて欲しいのじゃ。」
はやお「かしこまりもうした。」
ワッコ「それから、合いの手として、舎人の伊尓方こと『インカ』が、同道致す。」
インカ「我が『インカ』にござる。『はやお』殿、よろしゅう頼みまする。」
はやお「こちらこそ・・・。」
こうして一行が、真鶴を追い駆けたところ・・・。
はやお「ん? 草が生い茂るところに、降り立ちましたぞ? その、すぐ傍には、社が建っておりまするな・・・。」
インカ「こ・・・ここは、エピソード543で語られた、かつての『アマ』様の鎮座地、佐々牟江宮ではないか!」
はやお「御存知の地に、ござりまするか?」
インカ「うむ。『アマ』様の鎮座地を求める旅で、ここに来たことがあるのじゃ。」
はやお「なんと!」
インカ「二千年後の地名で申せば、三重県明和町の山大淀となる。社の名は、竹佐々夫江神社じゃ。」
はやお「そのような処で、ござったか・・・。」
インカ「ん? そんな話をしておったら、真鶴が、稲を咥えたぞ。」
はやお「稲を咥えて、鳴いておりまするな・・・。」
インカ「一本の稲じゃが、穂の部分は、八百穂に実っておるのう。」
はやお「一体、何をしようとしておるのか、我が、近付いて、見て参りましょう。」
そう言って「はやお」が近付いていくと、真鶴は、それを視認したのか、鳴くのを止めてしまった。
はやお「逃げるわけでもなさそうじゃが・・・。」
インカ「『はやお』殿。これは、ひょっとすると、ひょっとするやもしれませぬぞ。」
はやお「ひょっとするとは?」
インカ「昨年と、全く同じと言って良いほど、似た話となっておるのじゃ。この真鶴も『アマ』様に、稲を捧げ奉らんと、しておるのやもしれぬ。」
はやお「『ワッコ』様も、そのようなことを仰せでしたな・・・。」
インカ「急ぎ、五十鈴宮に戻り、言挙げ致そうぞ。」
はやお「左様ですな。」
こうして「はやお」と、ゲスト出演の「インカ」は「ワッコ」に報告したのであった。
ワッコ「なんと畏れ多いことであろう。『アマ』様が、お鎮まりになり、鳥や獣も喜んでおる。草木まで、寿ぐように、風に靡いておる。そして、稲は、喜びのあまり、穂を千穂にも八百穂に実らせておる・・・。」
はやお「このようなことが、有るのですな・・・。」
ワッコ「『はやお』よ。大儀であった。私は、嬉しく思う。」
はやお「勿体無き、言の葉・・・。」
ワッコ「して『インカ』よ。」
インカ「ははっ。」
ワッコ「竹の連の吉彦殿を、呼んできてくれぬか?」
インカ「吉彦殿にござりまするか?」
吉彦とは?
次回につづく
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