JW625 賀古郡城宮
【景行即位編】エピソード14 賀古郡城宮
第十二代天皇、景行天皇の御世。
西暦82年、皇紀742年(景行天皇12)のある日。
景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)は、大后の播磨稲日大郎姫(以下、ハリン)の出産に立ち会うため、針間国(現在の兵庫県南部)を訪れていた。
付き従うのは、告の首(以下、スズム)。
中臣の連の大鹿島(以下、オーカ)。
忌部の首の和謌富奴(以下、わかとん)である。
シロ「着いたぞ。」
スズム「懐かしい・・・。大王と大后が、夫婦となった折、しばらく過ごされた、賀古郡城宮にござりまするなぁ。」
オーカ「懐かしいとは、どういうことにあらしゃいます?」
スズム「我も、妻問いの折、御供させて、いただいたのでござる。」
わかとん「そうであったか・・・。」
シロ「まことに懐かしいのう。」
わかとん「して、二千年後の地名で申すと、何処になりまする?」
シロ「兵庫県加古川市の加古川町木村じゃ。分かりやすく申せば、若日子建吉備津日子こと『タケ』先生が住まう屋敷じゃ。」
スズム「大王? 前々から、気になっておったのですが、『宮』とは、神々や大王の住まう所ではありませぬか? 『タケ』先生が、七代目の皇子だからともうして、『宮』と呼ぶのは、如何なモノかと・・・。」
シロ「そのようなことは無いぞ。『わかとん』。教えてやれ。」
わかとん「ははっ。『宮』とは『み・や』・・・。すなわち『御』と『屋』じゃ。二千年後の言い方をすれば、御屋敷といった、ところかのう。」
オーカ「それゆえ、何の問題もありません。」
スズム「な・・・なるほど。」
するとそこに、屋敷の主である「タケ」と、その息子、武彦(以下、たっちゃん)が現れた。
その後ろには、伊那毘若郎女(以下、イナビー)と、「シロ」と「イナビー」の子、彦人大兄王(以下、ひこにゃん)の姿もある。
タケ「大王・・・。よう参られもうした。」
ひこにゃん「父上! よう参られました!」
たっちゃん「大王。お待ちしておりましたぞ。」
シロ「タケ先生・・・。お久しゅうござる。たっちゃん・・・。久しぶりじゃのう。ひこにゃん・・・。良い子にしておったか?」
ひこにゃん「はい! しておりました!」
シロ「そうか、そうか・・・。」
オーカ「ところで、なにゆえ『イナビー』様が居られるのです?」
イナビー「姉上のために、里に下がっているのですよ。」
オーカ「なるほど・・・。それで『ひこにゃん』様も・・・。」
シロ「して『タケ』先生・・・。『ハリン』は?」
タケ「うむ。案内致そう。」
こうして「シロ」は「ハリン」と再会した。
ハリン「大王? 来てくださったのですか?」
シロ「何を申しておる。当たり前ではないか。体に障りは無いか?」
ハリン「はい・・・。ただ・・・。」
シロ「ん? 如何致した?」
ハリン「まだ、産まれる兆しが有りませぬ。」
シロ「こればかりは、如何とも、し難いこと・・・。待つほか有るまい。」
ハリン「では、その間、『播磨国風土記』を巡る旅をなさっては?」
シロ「そ・・・そうなるのか?」
ハリン「ついでに、日岡神社にも参ってくださりませ。」
シロ「日岡とは、エピソード607で、我が名付けた丘じゃな?」
ハリン「はい。その丘に建てられた社で、兵庫県加古川市の加古川町大野に鎮座しておりまする。」
シロ「して、祭神は?」
ハリン「天伊佐佐比古命にござりまする。」
シロ「聞いたことのない神じゃのう。」
ハリン「この社にだけ、祀らている神なのです。」
シロ「国津神か?」
ハリン「はい・・・。社伝によると、御初代様こと、神武天皇が、針間を通った折、荒振神が悪行を重ねていたので、国津神の伊佐佐辺命に、討伐をお命じになられたのだとか・・・。」
シロ「ん? 『記紀』の神武東征に、針間を訪れる場面など無いぞ?」
ハリン「社伝にござりますれば・・・。」
シロ「そ・・・そうであったのう。して、見事、退治たのか?」
ハリン「はい。伊佐佐辺命は、策を打ち立て、これを退治なされたのです。」
シロ「まるで、桃太郎のようじゃのう。」
ハリン「されど、この戦いで、伊佐佐辺命は討死してしまいました・・・。」
シロ「そうか・・・。」
ハリン「神武天皇は、この者を祀り、社を建てられました。それが、日岡神社にござりまする。」
シロ「と・・・とにかく、日岡神社にも参れば良いのじゃな?」
ハリン「はい。そこで、安産の祈願がなされております。どうしても、大王に会いたいと仰る方が・・・。」
シロ「会いたい?」
ハリン「行けば、分かりまする。」
こうして「播磨国風土記」の旅が始まったのであった。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?