JW451 恋に落ちた大蛇
【崇神経綸編】エピソード26 恋に落ちた大蛇
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
紀元前36年、皇紀625年(崇神天皇62)7月2日から数ヶ月後。
ここは、磯城瑞籬宮(しきのみずかき・のみや)。
崇神天皇こと、御間城入彦五十瓊殖尊(みまきいりひこいにえ・のみこと)(以下、ミマキ)の元に、三人の人物が参内(さんだい)していた。
すなわち、彦太忍信(ひこふつおしのまこと)(以下、まこと)。
彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)。
そして、日嗣皇子(ひつぎのみこ:皇太子のこと)の活目入彦五十狭茅尊(いくめいりひこいさち・のみこと)(以下、イク)である。
イク「大王(おおきみ)? 狭山池の中に社が有るのは知ってる?」
ミマキ「唐突に何じゃ? 池の中に社じゃと?」
まこと「それが、龍神社(りゅうじんじゃ)やで。狭山池神社(さやまいけじんじゃ)とも呼ばれてるんやで。水の神様を祀(まつ)ってるんやで。すなわち、罔象女(みつはのめ)、天水分神(あめのみくまりのかみ)、国水分神(くにのみくまりのかみ)の三本なんやで!」
ミマキ「おお! 伯父のくせに兄上! エピソード266以来ではありませぬか。」
まこと「その呼び方、どうにか、ならないのか・・・と思ってるんやで!」
ミマキ「さりながら、父は違えど、母は同じ・・・。致し方ないではありませぬか。」
イマス「と・・・ところで、龍神社に、ある伝承が残っておりますので、解説に参りもうした。」
ミマキ「伝承? いったい何があったというのじゃ?」
イク「狭山池に、雌(めす)の大蛇が住んでたんだけど、知ってましたか?」
ミマキ「雌の大蛇? では、何処(どこ)ぞに、雄(おす)の大蛇もおるのではないか?」
イク「その通り! 粟ヶ池(あわがいけ)という溜池(ためいけ)に、雄が住んでたんです。」
まこと「ちなみに、粟ヶ池は、大阪府富田林市(とんだばやしし)に有る池のことやで。」
イマス「そして、雌の大蛇は、雄に恋をしてしまいもうした。まあ、当然の流れですな・・・。」
まこと「そして、狭山池の雌の大蛇は、粟ヶ池の雄の大蛇の元に、毎晩通ってたんやで!」
ミマキ「わしらの時代の通い婚(かよいこん)を表しておるのじゃな? まあ、仕方なかろう。」
イマス「されど、通り道の田畑は荒れ、人や牛が呑み込まれるなど、様々なことが起こったため、地元の者たちは、困り果てたのでござる。大蛇を退治(たいじ)しようという話も出ましたが・・・。」
ミマキ「退治などして、祟(たた)りが起きたら、何とする! わしは、認めぬぞ。」
まこと「そういうことで、粟ヶ池の雄の大蛇を狭山池に迎え入れ、結婚して、一緒に暮らしてもらうことにしたんやで。そして、祠(ほこら)を建てたんやで。これが、龍神社の起源なんやで。」
イク「大蛇が結婚したあとも、伝承は続くよ。それは、幾日か、幾月か、経った頃、大阪府の松原市河合(まつばらし・かわい)に住んでいた男が、ある夢を見たんだよね?」
まこと「その通りやで。美しい男女の若者が現れ、私たちは、狭山池に住む大蛇で、幸せに暮らしているけど、池だけの暮らしは息苦しいので、河合の西除川(にしよけがわ)沿いにも祠を建てて欲しいと言ってきたんやで。そこなら、身体をいっぱい伸ばして楽しめると言ったんやで。」
イマス「されど、夢のことゆえ、定かならず。男は、迷うておりもうした。そんなある日・・・。」
イク「井戸で水を汲(く)んだ時、お金が入っていたんだよね。これを見て、信じたんだって。」
狭山池大蛇伝説の解説はつづく。