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戦地からの便り(10)
敗戦の訓示
山砲兵第三十一連隊第三大隊主計係、平久保正男少尉の8月16日の敗戦の報告より
ビルマ コータマレインにて
この責任は誰に有るのか。
政府だけでもない。
特定の指導者だけに責任が有るのでもない。
実に、現在の世代を担当して、今生きている我々、日本人全体の責任なのだ。
祖先に対して、どうして言い訳が出来よう。
ここまで考えてくると、今後、我々のとるべき態度、決心はどうあるべきか。
何としても、我々が、前代から受け継いだ状態にまで回復してからでないと、次代の者に引き渡す事が出来ないという責任感が、潮のように湧かねばならない。
敗戦という事実が明らかとなった今、我々生き残った者の成すべき事は、これだけであり、また、ぜひとも成さねばならぬ事である。
従って、ここにおいて自決したり、軍隊から逃亡したりする事は、その至高の責任を回避する最も恥ずべき卑怯な行為である。
こんな事で責任を逃れる事は出来ない。
我々は泣く事もない。
失敗した自らを反省して、今後、生命有る限り、国家、民族の回復に渾身の努力を尽くさねばならない。
これを避けようとする態度は、もってのほかである。