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また会えましたね

9月に入った途端にほんのり涼しくなって、セプテンバーさんに呼び掛けている人を複数見かけた。一瞬で猛暑に戻ったけど、夏と秋の間の季節って好き。終わりそうで終わらない夏って、まだまだいけるぜって気持ちになるから。そんな感じの九月日記です。

月曜日(晴)

ルッコラをもらったのでサンドイッチを作ることにした。カンパーニュとハムを買う。ハムはモモハム。パンは近所のOKストアで買った。店で焼いているやつが安くて美味しい。それにさっと水をかけてトーストして、マヨネーズとマスタードを塗り、ハムとルッコラを挟む。パンの小麦の甘みと、ハムの油の甘みと、ルッコラの野菜の甘み。それぞれ噛むほどほんのり甘くなる。炭水化物かな?素朴でちょうど良い味。温かい紅茶と一緒にゆっくり朝食。

火曜日(雨のち曇り)

本屋で「アルヴァ•アールトとアイノ•アールトの書簡」、なる本を見つけて立ち読み。ふと開いてみたページのタイトルが“あなたなしで旅をするのは、とてもとてもつまらない”で、喰らった。何かわからないけれど、何かを喰らった。
だってこっちは来週からひとり旅を計画しているんだよ。いやね、言いたいことはその通りなんだけど。最近は感動的な何かを見た経験よりも、誰かと一緒に経験を分かち合う喜びの方が大きくなってしまっている。感想を言い合いながらごはんを食べるのが一番楽しいのだ。さて旅行、どうしようかな。

水曜日(晴れのち雨)

ものすごい雨が降ってきて、今日出かけると言っていた人のことが心配になる。

木曜日(晴れ)

靖国神社へ初めて行った。友人が一度は行っておかないと行けない気がする、と言うので同行。
入口に大きな鳥居がある。9月に入ったばかりの平日は空いていて、参拝者は外国人観光客の方が若干多いように見えた。東京の真ん中なのに大きな木があって空が高くてクリームみたいな雲が浮いていた。話しながら歩いた。最後の鳥居をくぐり本殿の前に立った瞬間、みんなが話すのをやめ、シーンとなった。これはとても日本人らしいと思った。後ろから歩いてきた外国人には、どう見えていただろうか。

太平洋戦争の展示も見た。戦況と作戦と結果が細かく記録されている。入口で初期の順調だった頃のプロパガンダCMが陽気な音楽と共に流れていて、奥に進むにつれて状況は転がるように悪くなっていくのに、その音楽は遠くの方からずっと聞こえていた。
作戦ごとに犠牲者の最期の経緯や遺書などの記録が展示されていて、読んだ途端、それまでの人数だった認識がそれぞれの個の人間になった。

金曜日(晴れのち雲)

映画「わたしをくいとめて」の中に“大瀧詠一と洗濯機の音って親和性があるよね”というセリフがある。午前中洗濯機を回しているときにラジオをつけたら大瀧詠一の君は天然色が流れてきて、そのセリフを思い出した。偶然がうれしい。確かに合う。共鳴して、爽やかさが割り増しされている。今日はいい日になりそうだと思いながら外に出かけた。

土曜日(晴)

法事。帰省。先日、靖国神社に行った後、地元の空襲について調べてみた。祖母と、曽祖母と、大叔母たちが被災したという空襲。実家の数百メートル先の交差点を中心に半径1.2Kmが対象。私の中学校の学区とよく遊んでいた繁華街がすっぽり入る円だった。地元のゆかりがある場所が、ほとんど焼きつくされていたというのは衝撃だった。
私にこの空襲の話をしてくれたのは大叔母だった。当時小学生だった大叔母は中学生だった姉と二人で一晩逃げ続けたという。彼女は一昨年亡くなった。祖母ももういない。私が死んだら、彼女たちの空襲体験を覚えている人間はいなくなってしまうんだなと思った。


日曜日(曇時々雨)

古本屋さんに行って本を買う。平野啓一郎「ドーン」を買ったら店主に「僕この人苦手なんですよね、おもしろいですか?」と聞かれた。たしかにクセが強いと思う。わたしもこれまで避けていたが、最近大丈夫になったことを話した。
その他に2冊。夏井いつき「絶滅寸前季語辞典」、藤本和子「砂漠の教室」を一緒に買った。

当時37歳の著者が、ヘブライ語を学ぶためイスラエルへ。「他者を語る」ことにあえて挑んだ、限りなく真摯な旅の記録。聞き書きの名手として知られる著者の原点。単行本一九七八年刊の復刊。

砂漠の教室;河出書房

現地のユダヤ人たちとの記録。彼、彼女らはなぜこの地に来て、どんな過去があり、何を思っているのか。そこへ行って食べて話して、身体的な体験を通して感じたことが言語化されている。起きたこと、聞いたことを淡々と綴りながら、時に作者の戸惑いや葛藤が伝わってくる。他者を語るエッセイ。どう、おもしろそうでしょう?


話題の本、「成瀬は天下を取りに行く」「成瀬は信じた道を行く」を知り合いに貸してもらう。読みやすい。伏線とか凝りすぎた設定とかが無くてよかった。貸してくれた人と成瀬のキャラだけでストーリーが成り立っているね、と話した。

好きな本や作者を聞かれるのって苦手だった。どんな本を読んでいるかは秘密にしておきたかった。読書というのは誰ともわかり合えない孤独な作業で、他人とそれについて話すのは無理/嫌だと思っていた。でもそうでもないのかもしれない。



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