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【読書感想文】チベット・ラダックの文化論『懐かしい未来』
昨日投稿したチベットの僧侶のドキュメンタリーを観て、思い出した一冊。
本書はインド北部の高地にあるラダックという場所で起きた文化的な変遷について書かれている。
自然と共生し誰もが幸福だった暮らしが、西洋的な経済システムが入り込んだことにより、いかにして崩壊していったかが三部に分かれて綴られている。
一部ではラダックの伝統的な暮らしが書かれている。限られた資源を大切に使い、ゆったりとした生活リズムのなかで、人と人とが密接に関わり合い、「ストレス」という概念すら存在しない……、ラダックの人々はそんな生活をしていた。
二部では西洋的な経済システムが入り込んだことにより、その生活がいかに崩壊したかが描かれている。
便利な物に囲まれながら一軒家と車を持つことが、理想だと言わんばかりのマスメディアの報道や広告によって、無垢なラダックの若者たちはそれに従ってしまう。
三部では、崩壊した文化から学ぶべき教訓を語っている。今のような社会システムは持続可能でないため、伝統的な生活システムを取り入れなければ、崩壊は免れないと警鐘を鳴らしている。
今、時代は分水嶺にある。
高度経済成長から続いてきた工業化、経済偏重の流れを見直し、自然と共生する形へと戻っていくのか、あるいはこのままの流れで行くのか。
何も全てを昔の生活に戻そう、というのではなく、便利な部分はそれはそれで残しつつ、人が生きていく上で何が大切なのか、何が必要で何が必要でないのかを見定めていく時期に差し掛かっているのだ。
知り合いの中で、よくある新築の集合住宅地に住みながら鶏を飼っていたり(近隣の方の許可も得ている)、古い家に住みながら屋根中にびっしりとソーラーパネルを張り巡らして、古い物と新しいテクノロジーを融合させたような暮らしをしている人がいたり、などなど、動き始めている人はすでに新しい時代を生きる準備をしているように思う。
これまでに培ったテクノロジーを活かしながら、自然を大切にし、自然と共に生きる。そういう時代が来るのだと僕は思っている。
うちは去年小さなソーラーパネルを買い、そして来月からは鶏を飼う予定でいる。そうやって生活にかかるコストを減らしていけば、少しずつ経済的負担が減っていき、社会がどのように変化しても対応できるようになる。
もちろん、時間もかかるし、手間もかかるが、自分の生活が社会の変化に左右されなくなる安心感は、何物にもかえがたい。
新しい時代を、どう生き抜くか。手遅れになる前に、考える必要がある。