「介護の大変さを、少しでもやわらげる方法」㊱「介護力を揃える」
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初めて読んでいただいている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
私は、臨床心理士/公認心理師の越智誠(おちまこと)と申します。家族介護者の心理的支援を仕事にしています。
家族介護者の負担
まるで、コロナが明けたかのように言う人も増えてきたようになりましたが、ご高齢者に関わることが多い家族介護者の方にとっては、実際はコロナ禍が完全に終息したわけではありませんし、それほど不安の大きさが変わっていないかもしれません。
それに、もともと、介護が始まってから、いつ終わりが来るか分からない毎日が、ずっと続いているかと思います。
その気持ちの状態は単純ではなく、説明しがたい大変さではないかと推察することしかできないのですが、それでも、ほんの少しでも負担感や、ストレスを減らせるかもしれない方法は、お伝えする努力はしていきたいと考えています。
介護の大変さを、少しでもやわらげる方法
時間的にも余裕がなく、どこかへ出かけることも出来ない場合がほとんどだと思いますが、この「介護の大変さを、少しでもやわらげる方法」シリーズでは、お金も時間も手間もなるべくかけずに、少しでも気持ちを楽にする方法を考えていきたいと思います。
今回は、人との関係性に関する方法をお伝えしたいと思います。もし、ご興味が少しでも持てたら試してくださるとありがたく思います。
迷惑をかけたくない
特定のどなたか、というのではなく、「迷惑をかけたくない」という言葉は、介護に関わっていると数限りなく聞いたように思います。
それも、多くは、ご高齢になった配偶者を介護されている、ご自身もご高齢になった家族介護者の方に、お子さんがいらっしゃる場合に、聞く機会が多い記憶があります。
介護をされている方に共通することとして、ご自身の負担や負担感に対して、過小評価をされている場合が多く、まだ大丈夫、といった言葉や、もしくは、介護を必要とされている方(要介護者)のことに対しての気遣いばかりが上回り、その大変さは、人に言うようなことではない、といった話も出てくるようです。
ただ、そうした場合でも、話を聞かせてもらっていると、在宅介護は基本的には24時間体制で関わり続けていらっしゃるわけですし、人生経験を十分以上に積まれて、成熟した大人になっているとしても、多くの場合、介護をすることは初めてのことがほとんどですから、不安も多いのも伝わってきます。
それでも、ご高齢になったご夫婦のお子さんたちは、40代や50代など、いわゆる働き盛りであったり、もしくは、子育てで忙しい時期でもあるのですから、それを思うと、そこに、自分たちの介護のことで、迷惑をかけたくない、という思いは、かなり強いのは伝わってきますし、それは、いくつになっても、子どものことを考えているので、こうした表現も安直かもしれませんが、尊いことではあると思います。
子どもの立場
とても個人的なことですが、私自身も母親の介護をした経験があります。
自分自身が若い頃には、父親から、何度も聞いたのが、何かあっても、子どもたちには迷惑をかけない、といった言葉でした。
ただ、父は60代前半で亡くなってしまいましたし、最期の数ヶ月は、私も随分と病院に通いました。今、考えれば、まだ若いのですが、病気になり、どんどんやせていく姿を見て、一気に何十年も老けてしまったように思えていました。
それほど、仲がいい親子というわけでもありませんでしたし、一時期は、こちらから縁を切ろうと思うようなこともあったのですが、病気であることを母親から電話があってからは、病院などで話す機会が増えました。
病院のベッドの上で、だんだん、言葉数は減ってきましたが、それでも、痛い、というような訴えに対して、少しお腹や腰をさすったりすると、わずかですが、その痛みがやわらいだようで、その時は、やはり安堵感のようなものもありました。
父が亡くなってから、何年か経って、母の具合が悪くなり、介護が必要になりました。
近くに住んでいたこともあり、私しか介護をする人間がいませんでした。途中で私自身が、心房細動の発作で命の危険もありましたし、仕事を辞めて、介護に専念する年月が続きました。
こうした姿を、もし父が知ったら、それは「迷惑をかけた」ことになりそうですが、ただ、子どもの立場からは、そのことは大変でしたし、途中で死にたいと思ったり、特に母親の介護は魂を削られるような思いにもなりましたが、「迷惑をかけられた」という気持ちにはなりませんでした。
こうした感覚は、それほど例外的ではなく、多くの「子どもの立場」にいる人に共通することのように思います。
子どもの立場
繰り返しになりますが、高齢のご夫婦で、どちらかの方が介護が必要になり、もう片方の方が介護者になった場合、お子さんがいらっしゃっても「迷惑をかけたくない」と、訴え続けることは、少なくないように感じています。というよりも、いろいろなご家庭があるのですが、この場合は、共通して、同じようにおっしゃるようです。
ですから「迷惑をかけてもいいんです」といった伝え方はできませんし、そうした言い方をしても、おそらく耳を傾けてくれる方はいらっしゃらないと思います。
こうしたときに、「介護力を揃えるようにしてみませんか」と、提案させてもらうことがあります。
おそらく、私以外には、使っている人がいない言葉だと思いますので、最初は怪訝な表情をされる方もいらっしゃいますが、それも無理はありません。
聞いた言葉ではないので、もし、相手の方が望めば、そこから少しずつ説明をさせてもらうこともあります。
こうした内容を、伝えていきます。
---お子さんに「迷惑をかけたくない」というのは、親の気持ちとしては、無理もないことだと思います。
ただ、私も介護を経験した子どもの立場から言えば、おそらく、最も困ってしまうとすれば、こんな状況ではないでしょうか。(ご夫婦で、夫さんが要介護の状況の時です)
---介護をしていて、どうやら親は大変なはずだけど、そのことを聞いても、いつも「大丈夫」という言葉が返ってくる。だから、心配ながらも、こちらは何もしなくてもいいのか、と思っていたら、急に介護をしていた母親が倒れた、と連絡があった。それで、あわてて、実家に行ったのだけど、父親の状態は思った以上に重く、母親も心配で、家の中にいろいろな介護に必要なものがあったのだけど、何をどうしたらいいのかわからなかったし、どこに相談すればいいのかもよくわかっていなかった。こうなる前に、少し、この状況を知っていれば、少なくとも気持ちの準備や、少し介護のことを調べていたのに-----。
「介護力」を揃える
介護をされている方は、毎日の生活の中で、もちろん大変なのは間違いないのですが、家族介護者としての「介護力」は日々、向上しています。
そのことによって、誰か他の方に介護を任せるとすれば、少なくとも自分と同じくらいの「介護力」がある人でないと、不安が大きくなるはずです。
それに、お子さんの立場から言えば、ある日、突然、かなりの「介護力」がないと担えないような介護環境に放り込まれた方が、本当にうろたえてしまいますし、困ってしまうはずです。
言葉は悪いのですが、それこそが「迷惑をかける」に近いように思います。
ですから、いざという時に、頼れる相手が誰もいなくて、お子さんが力になってくれそうな場合には、介護をされていることや、そのことで生じる不安などを、全部でなくてもいいので、少しずつ伝えることを始めてみるのは、どうでしょうか。
その情報がお子さんに伝わるだけで、それほどはっきりと目に見えるような変化ではないとしても、介護のことを知っていくだけで「介護力」は上がります。
そうなれば、もしも、介護者が倒れて、お子さんがなんとかしなくてはいけない時でも、何も知らないまま、「介護力ほぼゼロ」のまま、その状況に飛び込むのとは、全く不安や負担感が違ってきます。
お子さんに、ご自身の大変さを伝えることは、自分自身と、お子さんの「介護力を揃える」ための努力でもあります。
それに何より、お子さんに、介護の大変さを伝え、聞いてもらえる相手がいるだけで、少しでもその大変さがやわらぐのではないでしょうか。
それが、「迷惑をかけること」ではなく、もしかしたら、お子さんが介護を担う場合のために「介護力を揃える」ことにつながるのだとすれば、そのことに対しての抵抗感が、少しでも弱まると思うのですが、どうでしょうか。
「介護力を揃える」ことを提案したあとに、そんな話をさせてもらうこともあるのですが、もし、お子さんがいらっしゃらなかったり、お子さんには、そうした話すらできない、といったような関係が悪い場合には、そのほかに、どなたか味方になってくれそうな方に対して、介護の大変さを話してみるのはいかがでしょうか。
それは、単に愚痴を聞いてもらうだけではなく、もしも、その方が介護の未経験者であれば、知らないうちに「介護力を上げる」行為でもあるので、ただ、相手に負担をかけているだけではない、と考えることはできないでしょうか。
最後は、ややこじつけに感じるかもしれませんが、誰かの力になっていると思えること自体が、その誰かが自分にとって大事な人の時ほど、それが喜びにもなり得る。ということは、実は人間の気持ちの基本的な要素であることは、思い出していただいてもいいのでは、とも考えています。
今回は、以上です。
もし、この方法が合わない場合は申し訳ないのですが、お手数ですが、他のやり方も試してみていただければ、幸いです。
(他にも介護のことについて、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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