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人間の話

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その辺にいる普通の人間の話
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#読書感想文

独身貴族の話

独身貴族の話

ペースメーカーの男

其の男との連絡を断ち、早9年以上が過ぎた。
男と知り合ったのは、男が当時39歳の時。生きているならば今年の8月に52歳を迎えているはずだ。

生きているならばと表現したのには理由が存在する。男は体が弱く、心臓にはペースメーカーが埋め込まれている。カチカチと無機質な音が刻む鼓動は、エレベーターの狭い空間に響き、静まり返った空間にいる私に死や病を意識させる。

男はシルバーの三菱

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年収800万借金まみれの男の話

年収800万借金まみれの男の話

或る九州男児

男は三年前、地元のある九州を飛び出し
関東に流れ着いた。男と職を共にする女と同学年、同い年であり気安く話しかけてくる偉そうな態度が疎ましい。

男は死にものぐるいで違う世界の仕事を覚え、夜の街を掌握する仕事から、日中陽を浴びて金を稼ぐ仕事に馴染むよう努力を重ねた。

狡猾な男は、自分の欲の為や立場を保つ為に職場の人間関係をクラッシュすることを厭わない。夜の世界で甘いも酸いも味わって

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オープンカーに乗る男の話

オープンカーに乗る男の話

髪留めその男はユーノスロードスターを所有し
免許を取った頃から12年
大切に乗り続け、今後も手放す気は毛頭ない。

女は本当はマニュアル車を運転できる事をひた隠し、大人しく助手席にいつも座っていた。

或る日曜の昼、目に差し込む光が眩しく
男は左手にある収納スペースからサングラスを取り出し、装着した。そこに何故か髪をくくるゴムがある事を女は見逃さなかった。

問い詰められた男は歯切れが悪そうに表

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