或る男と女が一緒に過ごした長い年月の中で、幾度と繰り返された夏。短い夏が始まり、追いかける間も無く終わってゆく。素晴らしい思い出も忘れたい想いも、また新たな夏を迎えるごとに少しず…
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#恋愛小説
あの男と過ごした幾多の夏の思い出
記憶或る男と過ごした幾多の夏は
女の頭の中からすぐ消えることはない
上書きされることもなく
また恋愛を繰り返しても
新たな思い出は
ただ記憶のストレージを使い
男の存在を忘却する手立てにはならない
目を閉じれば浮かぶ
夏の温度の下がった夕空は
藍、橙、朱、薄黄色が混ざり美しい
今や遠く離れた男と女の永遠は
最初の夏から有り得なかった
否、保身や偽装が潰してしまったのか
今となれば知る手立ても
あの男と過ごした幾多の夏の思い出
KIXにて冬に生まれた男は、異様に夏を愛した。日本が冬であれば海を渡り太平洋に浮かぶ島に夏を求める。自らの快楽は夏の中だけに存在し、夏を迎える過程である春、夏が去り、あらゆる感性が越冬に向け支度を始める秋、生き物や植物が眠りにつく冬には魅力なんか微塵も感じなかった。
例の如く、夏盛りの国へ向かう飛行機が飛ぶ空港のカウンターで女はふと知りたくなかった真実を見つけた。その瞬間まで男が生まれた日は12