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復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】

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ただいま連載中。プロモーションムービーはこちらです。 https://youtu.be/m5nsuCQo1l8 主人公アルトゥールが仕えるネフィアル女神は、かつては正義とされて…
霧深い森を彷徨(さまよ)うかのような奥深いハイダークファンタジーです。 1ページあたりは2,000…
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#神官

復讐の女神ネフィアル 第1作目『ネフィアルの微笑』 第1話

復讐の女神ネフィアル 第1作目『ネフィアルの微笑』 第1話

マガジンにまとめてあります。

 暗い灰色ばかりが視界に入る街がある。ジェナーシア共和国の中部に位置する、大きな河川沿いの街だ。

 河川には様々な舟が行き交い、人々や物を流れに乗せて運ぶ。大抵は商用だが、単なる楽しみのために旅する者も少ないが全くいないわけではない。

 街の名は《暗灰色の町ベイルン》。見た目そのままだ。街の建造物や河に掛かる橋、道の全ての石畳も、暗い灰色だけの街であった。
 

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復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 第40話

 アルトゥールはいつもよりもずっと精神を集中させて、ネフィアル 女神への長い祈りを詠唱した。

 祈りの声は低く小さく、 離れたところにいるグランシアたちの耳にはほとんど入らないだろうが、傍らに横たわるアストラには聞き取れたはずである。

 アストラは、ただ黙って横たわっていた。目を閉じ、両手を胸の前で組み合わせて静かに待っている。

 アルトゥールは詠唱を続けた。いつも戦いに赴いた時には、即座に

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復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 第39話

マガジンにまとめてあります。

「あなたは随分と遠慮のないことを言うのね」

「それは失礼いたしました。性分なもので」

 そうでなければネフィアル神官など堂々とやっていられるわけはない。

 現状のジェナーシアに、ジュリアン神殿のやり方に、不満があるのだとしても他にもやり方はある。

 ジュリアの元に馳せ参じるか、でなければクレア子爵令嬢のようにまともで民を思う心を持つ貴族に仕えるか。そのような

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復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 第36話

マガジンにまとめてあります。

https://note.com/katagiriaki/m/m714d41e3adac

 グランシアに続いて、北の地の戦士も出てきた。陽光は未だ明るかった。もうだいぶ時間を過ごした気もするが、まだ夕暮れ時には三刻ほどもあるようだった。

「クレア子爵令嬢は?」と、アルトゥール。

「御屋敷にお戻りよ。後は部下が図書館の管理をするわ」

「そうか。なら、もう子爵令

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復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 35話

こちらのマガジンにまとめてあります。

https://note.com/katagiriaki/m/m714d41e3adac

「そうね、私の召し使いが知っているわ。ここで私の側近く、仕えてくれているのは二人。でもあの子たちが強力な力を持つ魔術師をどうにか出来るはずはないわね」

 クレア子爵令嬢は、やわらかく微笑んだ。気を悪くした様子はない。

「ええ、その方自身には、きっと無理でしょう。し

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復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』33話

 一行はクレアに連れられて、図書館の離れにある作業場に入っていった。

 図書館本館は、クレアの実家のような小貴族の館を思わせる。対照的に離れはもっと簡素で、庶民の暮らすレンガの家の様子に似ていた。

 グランシアは、魔術師ギルドの出来事を話した。三人の上位魔術師が病に倒れた。そのうちの一人はグランシアの師匠である、と。

 これだけの事が出来るのは、ハイランという名のネフィアル神官をおいて他には

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復讐の女神ネフィアル第7作目 『聖なる神殿の闇の間の奥』31話

「ええ、そうでしょうね」

 ジュリアは、それだけを口にした。アルトゥールの、グランシアへの信頼に否は無いようだ。

 もっとも、否と言われてもどうしようもない。どうするつもりもなかった。

「さて、二人は戻ってこないようだ。出るか」

「そうね」

 ここにいる二人も、カウンターを離れた。そのまま振り返らずに店を出てゆく。背後を何人もが見つめて、あるいは見張っているように感じた。

 振り返らな

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復讐の女神ネフィアル第7作目 『聖なる神殿の闇の間の奥』30話

マガジンにまとめてあります。

 《裏通りの店》に戻った。すでに夕闇が迫り始めていた。まだ青い夜の闇と、黄金色が空に見える。東は青い闇、黄金色は西に。太陽はすでに沈んでいた。

ヨレイはいなかった。ロージェもだった。

「無駄足か。すまなかったな聖女様。だけどここの様子を見て、だいたい事情は察してもらえると思う。灰色の世界でしか、生きられない人たちがいるのさ。もちろん、君は知っているだろうが」

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復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第26話

マガジンにまとめてあります。

 二人して歩いてゆくと、道行く人は彼らを遠巻きに見た。

 黒いローブに長い黒髪の背の高い青年と、いかにも北方の民である様子を漂わせた、巨漢の戦士の組み合わせは目立つのだ。

 ジェナーシア共和国の者は、羊の毛織物か木綿の服を着ることが多い。淡い灰色か、生成りの色だ。黒を着る者は少なく、革鎧で身を覆って歩く者も少ない。

 街の警備の役人は、軽量の鎖帷子(くさり 

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復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第25話

 マガジンにまとめてあります。

 ヘンダーランの屋敷から持ち出した本と巻き物を魔術師ギルドに、正確に言えばグランシアに任せて、アルトゥールとリーシアンはギルドの塔のテラスから下りた。

 マルバーザンが運び出してくれたのだ。

 この異界の魔物の力を借りて、またヘンダーランの屋敷にやって来た。

 マルバーザンは、出来るだけ人目につかないように、屋敷の裏庭に下ろしてくれた。

「ありがとう、助か

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復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第24話

マガジンにまとめてあります。

 魔術師ギルドの者たちの中でも、とりわけ野心的な者たちは言った。

「水をワインに変え、食べ物を何もない空中から取り出し、不浄なる生ける亡者を消滅させ、失われた手足を再生させ、見えない目、聞こえない耳をよみがえらせ、また死者をも生き返らせることが出来たなら、どんなにか素晴らしいことでしょう!」と。

 グランシアの友人の女魔術師がそう言うのを、アルトゥールは聞いたこ

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復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第23話

マガジンにまとめてあります。

 ここはグランシア一人のために割り当てられた研究室である。布の垂れ幕で、寝台のある場所とは 区切られている。ここで寝泊まりも出来るのだ。

 グランシアは、他に住まいを持たず、ずっとここで暮らしている。ギルドに属する者の全てが、そのような特権を与えられているわけではなかった。

 金髪の女魔術師が扉を開けると、同じように淡い灰色のローブを着た女が二人いた。 グランシ

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【復讐には代償が必要だ】復讐の女神ネフィアル 第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第22話

マガジンにまとめてあります。

 魔術師ギルドの高い塔の上空に来た。三階建てか、せいぜい四階建てが限界の街の建造物の中で、この塔は十二階までもある。

 その頂上からは街を、貴族や大神官の屋敷も含めて一望のもとに見下ろせると聞いていた。

 アルトゥールは三階より上には上がらせてもらえたことはない。グランシアは、六階までを見たという。

 誰も気づかない。 異界から召喚された魔族たちが夜に、そう、

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【復讐には代償が必要だ】復讐の女神ネフィアル 第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第21話

マガジンにまとめてあります。

「僕の一生分?」

 思わずアルトゥールは聞き返した。

「なぜそこまでしてくれるんだ? 確かに、上位の魔族の寿命からすれば、人間の一生は短い。それでも、単なる暇つぶしに付き合うってほどの短さではないはずだ」

「どのくらいになるんだ?」

 横からリーシアンが訊いてくる。

「そうだな、僕たち人間にとっての一年分ぐらいには相当するんじゃないだろうか」

 北の地の

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