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復讐の女神ネフィアル 第1作目『ネフィアルの微笑』 第1話
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暗い灰色ばかりが視界に入る街がある。ジェナーシア共和国の中部に位置する、大きな河川沿いの街だ。
河川には様々な舟が行き交い、人々や物を流れに乗せて運ぶ。大抵は商用だが、単なる楽しみのために旅する者も少ないが全くいないわけではない。
街の名は《暗灰色の町ベイルン》。見た目そのままだ。街の建造物や河に掛かる橋、道の全ての石畳も、暗い灰色だけの街であった。
復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 第37話
マガジンにまとめてあります。
https://note.com/katagiriaki/m/m714d41e3adac
魔術師ギルドには、すぐにたどり着けた。グランシアが先頭に立っていたので、ギルドの扉はすぐに開いてくれた。自動的に、手も触れずに。
ギルドの扉は魔術によって管理されているが、ギルドに所属する者でなければ開くことは出来ない。
三人は、魔術師ギルドの建物の一階のホールにい
復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 第36話
マガジンにまとめてあります。
https://note.com/katagiriaki/m/m714d41e3adac
グランシアに続いて、北の地の戦士も出てきた。陽光は未だ明るかった。もうだいぶ時間を過ごした気もするが、まだ夕暮れ時には三刻ほどもあるようだった。
「クレア子爵令嬢は?」と、アルトゥール。
「御屋敷にお戻りよ。後は部下が図書館の管理をするわ」
「そうか。なら、もう子爵令
復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 35話
こちらのマガジンにまとめてあります。
https://note.com/katagiriaki/m/m714d41e3adac
「そうね、私の召し使いが知っているわ。ここで私の側近く、仕えてくれているのは二人。でもあの子たちが強力な力を持つ魔術師をどうにか出来るはずはないわね」
クレア子爵令嬢は、やわらかく微笑んだ。気を悪くした様子はない。
「ええ、その方自身には、きっと無理でしょう。し
復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 37話
「あなたが頭を下げることはないのよ、ふふ、図書館にはあなたにとって望ましくはない本も置くのだから」
「それは承知の上です」
アルトゥールは、それが当然の事であるかのように言った。
「それなら、私がお礼を言わなくてはね」
「あなたが、いえ、あなたの図書館が僕の味方をしてくれなくても、僕はあなたとあなたの図書館の味方です」
それを聞いてクレアは微笑んだ。 だが次に、
「ありがとう」
復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』33話
一行はクレアに連れられて、図書館の離れにある作業場に入っていった。
図書館本館は、クレアの実家のような小貴族の館を思わせる。対照的に離れはもっと簡素で、庶民の暮らすレンガの家の様子に似ていた。
グランシアは、魔術師ギルドの出来事を話した。三人の上位魔術師が病に倒れた。そのうちの一人はグランシアの師匠である、と。
これだけの事が出来るのは、ハイランという名のネフィアル神官をおいて他には
復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 32話
アルトゥールは、紫水晶の色の瞳の視線をいったん卓上に落としてから、美貌の女魔術師に向け直す。
「本来は、誰かに代償を支払わせた上でなら、それに対して逆恨みしてネフィアルにさらなる報復を願うことは出来ない」
ネフィアル神官としての力を持つ青年は淡々と告げた。意図的に感情を消して、冷淡にも見える態度を示してした。
「しかしハイランがしているのは、正当なる裁きのための手続きとは言えない。だから
復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』31話
脂の乗った鴨肉の蒸し焼きと根菜類の煮物を食べてから、アルトゥールは二階にある自分の部屋に戻る。
リーシアンはというと、夜の街を自分の定宿に歩いて行った。夜と言ってもまだ早い。街には夕飯を作り食べる明かりと匂いが漂う頃合いだ。
腕に覚えがあるのなら、まだ出歩くのはさほど不用心な振る舞いとも言えない。
まして北の地の戦士は、名の知れた驍勇(ぎょうゆう)なのだ。どんな命知らずが彼を襲撃する
復讐の女神ネフィアル第7作目 『聖なる神殿の闇の間の奥』31話
「ええ、そうでしょうね」
ジュリアは、それだけを口にした。アルトゥールの、グランシアへの信頼に否は無いようだ。
もっとも、否と言われてもどうしようもない。どうするつもりもなかった。
「さて、二人は戻ってこないようだ。出るか」
「そうね」
ここにいる二人も、カウンターを離れた。そのまま振り返らずに店を出てゆく。背後を何人もが見つめて、あるいは見張っているように感じた。
振り返らな
復讐の女神ネフィアル第7作目 『聖なる神殿の闇の間の奥』30話
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《裏通りの店》に戻った。すでに夕闇が迫り始めていた。まだ青い夜の闇と、黄金色が空に見える。東は青い闇、黄金色は西に。太陽はすでに沈んでいた。
ヨレイはいなかった。ロージェもだった。
「無駄足か。すまなかったな聖女様。だけどここの様子を見て、だいたい事情は察してもらえると思う。灰色の世界でしか、生きられない人たちがいるのさ。もちろん、君は知っているだろうが」
復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』28話目
それで、アルトゥールは静かに尋ねた。
「ハイランはきっとジェナーシア共和国の法を犯しているだろう。それもかなり。そこを押さえれば、僕たちは法の観点から見て、罪を犯さずには済む」
けれど暗殺を望むのなら。
「僕にはそれは出来ない」
「老婆の願いを叶えるために、ジュリア様がおられる場所にあっしと侵入しなさったのに、ですかい?」
「ああ、そうだな。誰かハイランに復讐を願うのか?」
それ
復讐の女神ネフィアル 第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』
ロージェはくたびれた上下の服を着ていた。生成りの木綿の下穿きを二重に重ね、上着も同じようにしている。
「ああ、久しぶりだな」
旦那と呼ぶのは止してくれと言ってきたが、もうアルトゥールはそのように口にしなかった。
「さあ、こちらにお座りになってくださいませよ」
ロージェはさっさと先に座る。大きな円卓の周りには、四つの椅子が並んでいる。椅子も円卓も頑丈な木製で、長年の煤がこびりついていた
復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第26話
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二人して歩いてゆくと、道行く人は彼らを遠巻きに見た。
黒いローブに長い黒髪の背の高い青年と、いかにも北方の民である様子を漂わせた、巨漢の戦士の組み合わせは目立つのだ。
ジェナーシア共和国の者は、羊の毛織物か木綿の服を着ることが多い。淡い灰色か、生成りの色だ。黒を着る者は少なく、革鎧で身を覆って歩く者も少ない。
街の警備の役人は、軽量の鎖帷子(くさり
復讐の女神ネフィアル【裁きには代償が必要だ】第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第25話
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ヘンダーランの屋敷から持ち出した本と巻き物を魔術師ギルドに、正確に言えばグランシアに任せて、アルトゥールとリーシアンはギルドの塔のテラスから下りた。
マルバーザンが運び出してくれたのだ。
この異界の魔物の力を借りて、またヘンダーランの屋敷にやって来た。
マルバーザンは、出来るだけ人目につかないように、屋敷の裏庭に下ろしてくれた。
「ありがとう、助か