復讐の女神ネフィアル第7作目『聖なる神殿の闇の魔の奥』 第36話
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グランシアに続いて、北の地の戦士も出てきた。陽光は未だ明るかった。もうだいぶ時間を過ごした気もするが、まだ夕暮れ時には三刻ほどもあるようだった。
「クレア子爵令嬢は?」と、アルトゥール。
「御屋敷にお戻りよ。後は部下が図書館の管理をするわ」
「そうか。なら、もう子爵令嬢に話を聴いてはもらえないな」
「何か話したい事があったの?」
その時、一陣の風が吹いた。やや強い風が、秋を告げる鮮やかな赤の木の葉を吹き散らしつつ、駆け抜けていった。
「空が青いな。まだ明るい」
アルトゥールは、まだ天高くにある太陽を真っ直ぐには見ないが、その近くの青空に目をやりながら呟くように言った。
「クレア子爵令嬢に、まだ言いたい事があるのね?」
「……そうだな、いや、止めておこう。僕たちだけで何とかなる。彼女には、貴族としての努めがあるんだ。ハイランの件は、僕らだけで何とかしよう」
「何とかしようっても、奴がジェナーシアの法を破った証拠は無いぜ。狂信者ってだけで処罰は出来んからな」
アルトゥールはここで、いつもの癖の皮肉げな笑みを浮かべた。いつもの黒いローブに、黒く長い髪を束ねている。皮肉げな笑みは、何故かそれらに似つかわしく見えるのだった。
「そうさ。それだと僕も処罰されるからな。少なくとも、ジュリアはそうしたいのじゃないか。でも、ここで彼女を喜ばせるわけにはいかないよ。ハイラン共々、自滅するわけにはいかないからな」
そう言って、少しだけ声を立てて笑った。
「聖女様はお前を破滅させたいとは思っちゃいないさ。改心して欲しいとは思っているだろうが」
やれやれ、といった面持ちでリーシアン。少し言い過ぎだと感じているのだろう。
「改心か。僕のやる事は、彼女からすれば悪だろうからな」
でも、僕は僕の道を往くと決意したのだ。アルトゥールは、そう心に呟く。
「ハイランのようにはならず、同時に、敬虔で心優しきジュリアン信徒にもならないってわけさ。まあ馬鹿には分かるまいが」
「馬鹿って、聖女様がか?」
リーシアンは驚いたようだった。聖女に対して、相棒がそのように言った事は、今までにない。
「違う違う。そうだな、ハイランが守ってやりたいと思っている『弱者』が、かな」
それ以上詳しくをアルトゥールは語らない。北の地の戦士も、美貌の女魔術師も訊きはしなかった。訊かなくても分かる気はしていた。
弱い事と愚かな事は、時として同じなのだろうか。
「それで、これからどうするんだ?」
「グランシア、マルバーザンの書物が魔術師ギルドの何処にあるのか分かるかい?」
「地下の書庫よ。誰が持ち出したかも分かるわ」
グランシアは、先ほどアルトゥールが言った事を忘れてはいなかった。
「調べてみてくれ。僕らはそこには行けないからな」
「それでもし、私の師匠と二人の上級魔術師がマルバーザンを使役した事によって、生命の素を吸い取られているのだとしたら」
「僕が何とかするよ。神技が通じるか、絶対にとは言えないが、やれるだけはやってみる。マルバーザンの封印は君に任せる。パンを焼くのはパン屋に任せるんだ。お互いに得意なところだけをやろう」
グランシアは頷いた。
「分かったわ」
「で、俺は何をすればいい?」
「もし封印が失敗したら、マルバーザンと戦う事になるかも知れないな」
「おいおい、そいつは魔術師ギルドで何とかならないのか? ギルドの書庫に収められたってことは、責任の所在は魔術師ギルドにあるって事だぞ」
「そうだが、魔術師で武器をまともに振るえる奴はあまりいないからな」
「ゴーレムを使役出来るって聞いたぜ」
「出来るだろうが、大抵のゴーレムは、お前には遠く及ばない。それでも充分な強ささ。こんな場合でなければね」
紫水晶の色の瞳の青年は、女魔術師のほうを見た。グランシアは、その通りよ、とリーシアンに告げた。
「その通りよ、残念ながら、ね」
「それに、連中もゴーレムを無駄にしたくないだろうからな、あれはとても素材が高価で、しかも何年にも渡って、高度な魔術を掛け続けなくてはならない。もしも僕たちで倒せたなら、今後は恩を売れるってわけさ」
「でも無理はしないでよ」
「分かってるさ」
「どうする? これから行くのか?」
「早い方がいいだろうな。師匠の具合は悪いんだろう?」と、後半はグランシアに向けて。
「ええ。とても」
「なら、これから行こう。だけど君も無理はするな」
「しないわ。駄目ならギルドの魔術師の助けを呼ぶわよ。そうなると、私と私の師匠の責任も問われるけれど」
「なあ、責任はどう取らされるんだ?」
リーシアンが、どうしても気になる、といった顔つきで尋ねる。
「多分、今後は許可なくあなた達と共に行動は出来なくなると思うわ」
アルトゥールは肩をすくめた。
「やれやれ。そんな事にならないのを祈るよ」
そうして、三人は再び魔術師ギルドに向かって歩いて行った。
続く
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