【復讐には代償が必要だ】復讐の女神ネフィアル 第7作目『聖なる神殿の闇の間の奥』第22話
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魔術師ギルドの高い塔の上空に来た。三階建てか、せいぜい四階建てが限界の街の建造物の中で、この塔は十二階までもある。
その頂上からは街を、貴族や大神官の屋敷も含めて一望のもとに見下ろせると聞いていた。
アルトゥールは三階より上には上がらせてもらえたことはない。グランシアは、六階までを見たという。
誰も気づかない。 異界から召喚された魔族たちが夜に、そう、月も見えない夜に、こっそりと 最上階の十二階から出入りしているのを。
それは皆、魔術師ギルドの中でも最上位に位置する魔術師たちが召喚したモノたちなのだ。
どのような目的に使用されているのかを知るものは少ない。グランシアもくわしいことは知らされていなかった。
その魔物たちの姿は夜の闇にまぎれ、 見上げる者がいたとしても人目にはつかないだろう。
だが、今は昼である。
今は昼だ。
薄曇りの空を背景に、青い煙に包まれた書物も丸見えだった。
「上を見る奴はいないって言ったな?」
「一人もいないとは言っていないだろう?」
上を見る者はいた。
一人だけでなく三人。
ただ幸いなことに、三人とも魔術師ギルドの人間だった。そのうちの一人はグランシアだったのだ。
美貌の金色の髪の女魔術師グランシアは、塔の五階にいた。窓の外側にあるテラスにいて、上空を見上げていた。
またまた見ていたのではない。太陽と雲の観測である。まだ実験中の、天候制御に関する調査である。
グランシアは、青い煙に包まれた、数多くの書物と──それは大きな書棚二つ分もある──自分の友人であるネフィアル神官の青年と、北の地の戦士を見た。
「アルトゥール! リーシアン!」
彼女は思わず叫んだ。
「やあ、グランシア。六日ぶりだな。今そちらに行く」
「何なの、これは」
「そちらに降りたら説明するよ」
魔族のマルザートンは、アルトゥールが指示する通りにしてくれた。
広いテラスの上に彼らは降り立った。書物は丁寧に積まれ、七つの山になっている。巻き物は全てまとめて一箇所に積まれた。
「すごい本ね。年代物だわ。見れば分かるの」
「〈法の国〉時代の本や巻き物の写本さ。中に一冊だけ、魔族を封印していた本があった。他にも、何か危険があるかも知れない。だから、ここに運ばせたんだ」
「何故、いきなり来たの? 知らせてくれればギルドから荷馬車を出したわ」
「本はすぐに運び出す必要があったんだ。ジュリアン神殿の者に見つかるとまずいからね。実はこの本は、ヘンダーラン大神官の屋敷から運び出したんだ。事件があってヘンダーランは死んだ。いや、殺された。僕たちはそこにいた。ジュリアも一緒だった」
グランシアは軽く腕組みをして、ため息をついてみせた。あざやかな金色の髪、トパーズ色の瞳。美しい女魔術師は、アルトゥールとリーシアンを交互に見た。
「何があったの」
魔術師ギルドの一員であることを示す、明るい灰色のローブは、不思議と身体(からだ)に張り付くような作りになっている。そのローブは魔術による力の付与が為されている。アルトゥールもリーシアンも知っていた。
身体の動きを妨げず、身軽な動作が出来る。しかも武器の攻撃、暑さや寒さ、他の魔術による害も防ぐのだ。もちろん、完璧にではないが。
「ヘンダーランは僕の〈標的〉だった。しかし他の奴に先を越されたんだ」
「かなりイカれたネフィアル神官がいるぞ。魔術師ギルドも用心しとけよ。奴はまごうかたなき狂信者だからな」
グランシアは、また二人を交互に見た。
「ヘンダーラン? 知っているわ。良い話を聞かない男ね。体裁は取り繕っていても、内実の噂はよく聞くの」
「魔術師ギルドの情報網は素晴らしいな。僕が知る裏通りの店とどちらがすごいかな」
「ヘンダーランの近くにいる信徒や神官から聞いたらしいわ、ギルドの者が。そうね、ヘンダーランは、表向きは敬虔な神官を装っているの」
テラスは広く白く、大理石で出来ていた。表面はなめらかに磨き上げられている。魔術師ギルドの塔は、全て白と深緑の大理石で造られ、魔術による強化で、十二階の高さと堅牢さを誇る。壮麗な、見事な塔であると評判であった。
「 そのヘンダーランが裁かれたと言うなら、正直なところ歓迎したいわね。そのネフィアル神官は、そんなに危険なの?」
「かなりね」
アルトゥールは勝手にテラスに置かれていた椅子に座った。その椅子も大理石で出来ていた。 深い緑の大理石だ。くず大理石を魔術の力でつなぎ合わせてある。見た目には、一つの大きな石から彫り出されたかのように見える。
美術品としても価値あるものだ。
「いいわ、あなたも座って」
と、グランシアはリーシアに言った。
その時、テラスのある、この部屋の扉を叩く音がした。二人の女の声が聞こえる。
「 グランシア! 何があったの? あの青い煙は何?」
「ちょっと待っていて」
グランシアは、扉の方に向かった。
続く
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