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①うつ消しパーフェクト・マニュアル:うつ病を消すための16の科学的な対策で憂鬱な気分にさよなら。


はじめに



 こんにちは、ググれ香澄です!
 この度は、本書を手に取っていただきありがとうございます。

 さっそく結論ですが、本書は次のような「4部構成」となっています。

▼鬱を乗り越えるための【4つの対処法】
①認知・考え方
②運動法・食事法
③呼吸・瞑想・睡眠
④その他の様々な対処法

 そして、以上の4つの分類をもとに、ぜんぶで16つのメンタル改善法について解説。いずれも科学的なデータに基づいたものばかりですから、情報の信頼性は折り紙つきですよ。

 本書を手に取ったということは、あなたもまた、鬱や不安といったイヤな感情から抜け出したいと考えているはずです。過去の私とおなじように。
 これまで、さまざまな苦しみを抱えてきたはず。もしかしたら、ネガティブな感情に囚われてしまい、夜も眠れない……なんてこともあったかもしれません。

 ツラかったですよね。苦しかったですよね。

 ときに、人生を投げ出したくなることもあったかもしれません。なにもかも放り出して、生きることを諦めそうになったこともあったかもしれません。

 でも、もう大丈夫。

 あなたの苦しみは、本書によって “確実に” 解消していけます。そう言い切れる根拠は、わたし自身の経験にあります。

 というのも、わたしは過去に2度の鬱病を経験しています。とくに症状がヒドかったのは、さいしょに鬱病にかかったとき。
 そのときは、本書で示すような科学的な知識を全く知らない状態でした。その影響もあって、完治するまでに2年もの時間を費やしてしまった……。

 しかし、その過程で得た科学的な知識+対策法のおかげで、鬱が再発したときは「わずか3ヶ月の治療期間」で完治に至りました。

 24か月と3ヶ月。

 大きな開きがありますよね。数字にすると、ちょうど8倍もの開きがあります。
 そして、2度目のうつ病の罹患期間が1/8で済んだのは、間違いなく「科学的なメンタル対策」を知っていたから。

 科学的な知識がなければ……人生のどこかのタイミングで、わたしは最悪のことをしていたかもしれません。

 じっさい、うつ病患者の自殺率は、平均よりも高くなる傾向にあります。悲しいことに、臨床の場面では「鬱病=自殺への入り口」として知られているのです。

 その証拠に、1999年と2021年の研究によれば、うつ病罹患者の自殺率が有意に高くなることが示されています。

Suicide risk in patients with major depressive disorder. J Angst et al. J Clin Psychiatry. 1999.
Prevalence of Suicidality in Major Depressive Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis of Comparative Studies. Hong Cai et al. Front Psychiatry. 2021.


 暗い話をして、すみません。
 しかし、この「鬱病=自殺リスクが悪化」という等式は、科学的に証明された事実です。なにより、わたし自身がこの事実を体感しています。

 そこで本書では、客観的なデータをもとに「鬱を克服する科学的な方法」について解説。いずれの対策も、わたし自身がリアルに その効果を実感しています。
 そして、本書を活用するに当たっては、次の2通りの使い方がオススメです。

▼すでにメンタルを病んでしまっている場合
→本書を「実践書」として活用。
▼病んではないけれど、不安要素がある場合
→本書を「予防策」として活用。

 お約束します。
 本書で紹介していく内容をシッカリと実行していけば、メンタルの悩みとは無縁の「平穏な生活」が手に入ると。

 さぁ、人生を変える準備はよろしいですか?

 それでは、始めていきましょう。

パート1【未来を明るくする考え方】憂鬱な気分は「科学的に正しい思考法」で変えられる!



 さて、まずは【認知・考え方】のパートから解説していきましょう。
 対策としては、ぜんぶで4つ。その内容をまとめると、次のようになります。

▼認知・考え方の【ストレス対策4選】
①セルフ・コンパッション
②リフレーミング(リアプレイザル)
③筆記開示(エクスプレッシブ・ライティング)
④ネガティビティ・バイアスの克服

 さっそく、1つ目の『セルフ・コンパッション』の解説から参りましょう。

【26のメリット】あるがままを受け入れる『セルフ・コンパッション』とは?



 目下、心理学の分野で注目されている考え方があります。

 それが、本パートで紹介する『セルフ・コンパッション』。
 ありのままを受け入れ、自分のことを思いやる思考法。それが、セルフ・コンパッションです。

 ここで1つ、振り返ってみてください。

 最近いつ、じぶんに優しくしましたか?
 じぶんのことを心から思いやってあげたのは、どれほど前のことだったか……ちゃんと、覚えているでしょうか?

 反対に、次のように考えることはありませんか?

「もっと頑張らないと……甘えちゃダメだ! みんな、ツラい思いしながら頑張ってるんだから……」

「自分に優しくするなんて、ただの甘え。そんなことしてたら、周りに置いていかれちゃうわ……」

 以上のような考えをしがちな人にこそ、セルフ・コンパッションを身につけるメリットがあります。
 自分に厳しくしがちな人のほうが、セルフ・コンパッションを身につけたときの恩恵(おんけい)が大きいのです。

 論より証拠ということで、まずは【セルフ・コンパッションを身につけるメリット】について見ていきましょう。

 科学的な研究データによると、自分自身に「思いやりの心」を持てる人ほど、次の26のメリットを受けやすくなるのだそう。

▼心理的なメリット【16選】
・自制心が改善
・共感スキルが改善
・抑うつ気分が改善
・人生の幸福度が改善

・モチベーションが改善
・ネガティブ思考が改善
・問題解決スキルが改善
・ストレス抵抗力がアップ

・逆境を乗り越えやすくなる
・自己肯定感(自信)が改善
・衝動的な言動を取らなくなる
・自意識過剰を防ぎやすくなる

・反すう思考に囚われにくくなる
・クリエイティビティ(創造性)が改善
・自己否定や自己批判にハマりにくくなる
・「成長に繋がる努力」ができるようになる……など

▼身体的なメリット【6選】
・免疫力が改善
・血糖値が改善
・慢性痛が改善

・肥満になりにくくなる
・身体的なストレスレベルが改善
・健康的な生活スタイルを実践するようになる……など

▼生活面のメリット【4選】
・学業(仕事)成績が改善
・業務パフォーマンスが改善
・パートナーとの破局リスクが改善
・良い対人関係を築けるようになる……など

クリスティン・ネフ, クリストファー・ガーマー(2019)『マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック』(訳 富田拓郎, 大宮宗一郎, 菊地創, 高橋りや, 井口萌娜)
ターシャ・ユーリック(2019)『insight(インサイト)——いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』(訳 中竹竜二)英治出版株式会社
ケリー・マクゴニガル(2015)『スタンフォードの自分を変える教科書』(神崎朗子 訳)大和書房
エリック・バーカー(2017)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(訳 橘玲, 竹中てる実)株式会社飛鳥新社


 どうでしょうか。「自分に優しくすること」のメリット。その大きさに驚きませんか?
 セルフ・コンパッションの核となるのは、あるがままを認めていく『受容』と『許し』。そして、じぶん自身にたいする『思いやり』と『優しさ』です。

 あらゆるものを「受け入れ」て、積極的に「許して」いく姿勢を身につけることで、26の科学的なメリットを獲得していきましょう。

 とくに、うつ病や不安障害を抱えている人にとって、セルフ・コンパッションは “最高の処方箋” となる可能性があります。

 その証拠に、2012年のメタ分析によれば、セルフ・コンパッションを実践できている人ほど、うつ病や不安障害のリスクが大きく改善。

Exploring compassion: a meta-analysis of the association between self-compassion and psychopathology. Angus MacBeth et al. Clin Psychol Rev. 2012 Aug.


 なんと、自分に優しくすることを心がけるだけで、抑うつや不安感といった症状が大きく改善される傾向にあったのです。
 ちなみに『メタ分析』とは、科学的にもっとも信頼性が高いと言われる研究手法のこと。なので、情報の信頼性はバツグンですよ。

 ほかにも、2011年の研究を参照すると、セルフ・コンパッションの度合いが高い人ほど、不安や抑うつといった症状に悩まされにくいことが分かっています。

Self-compassion is a better predictor than mindfulness of symptom severity and quality of life in mixed anxiety and depression. Nicholas T Van Dam et al. J Anxiety Disord. 2011 Jan.


 そして、セルフ・コンパッションは「あなたの命」すらも守ってくれます。

 その証拠に、2021年のメタ分析では、適切に自分を気遣える人ほど、自傷行為+自殺念慮が少なくなる傾向にありました。

Association of Self-Compassion With Suicidal Thoughts and Behaviors and Non-suicidal Self Injury: A Meta-Analysis. Hanna Suh et al. Front Psychol. 2021.


【衝撃】セルフ・コンパッションの実践=心身の健康レベルを大きく改善!



 もちろん、セルフ・コンパッションが効果的なのは、メンタル的なものにかぎりません。

 たとえば、2018年の研究によれば、じぶんへの思いやりを持っている人ほど、身体的な健康を維持しやすくなるのだそう。

Brief report: Self-compassion, physical health and the mediating role of health-promoting behaviours. Sara Dunne et al. J Health Psychol. 2018 Jun.


 理由としては、自分自身に優しくできる人のほうが、限界を越えるような「無理な努力」をしなくなるからでしょう。じぶんの身体をいたわって、きちんと「休むときはシッカリ休む」を実践できる人のほうが、結果的には健康レベルを維持しやすくなるのです。

 また、2012年の研究によると、そのままの自分を認められる人ほど、首コリや肩コリ、それから頭痛などの慢性痛が改善されやすくなると報告されました。

Self-compassion in patients with persistent musculoskeletal pain: relationship of self-compassion to adjustment to persistent pain. Anava A Wren et al. J Pain Symptom Manage. 2012 Apr.


 まだあります。続けていきましょう。

 2015年の研究データによると、ありのままの自分を受け入れている人のほうが、高い幸福度を持つ傾向にあったと報告。

The Relationship Between Self-Compassion and Well-Being: A Meta-Analysis. Ulli Zessin et al. Appl Psychol Health Well Being. 2015 Nov.


 こちらの研究もメタ分析ですから、情報の信頼性はかなり高いものと思われます。
 つまり、ありのままの自分を受け入れ、自分自身に優しくできる人のほうが、より幸せに人生を生きられる。幸福度の高い人生を過ごす秘訣は、自分自身を思いやることにあるのです。

 そして、同2015年の研究では、なんとPTSD(トラウマ)の症状すらも改善できることが確認されています。

Self-Compassion as a prospective predictor of PTSD symptom severity among trauma-exposed U.S. Iraq and Afghanistan war veterans. Regina Hiraオーケーa et al. J Trauma Stress. 2015 Apr.


 PTSDとは、苦しい体験をした人の一部に見られる「心の傷」のこと。
 とくに、不運にも戦禍に巻き込まれてしまった場合や、とつぜん愛する人を亡くしてしまったときなどに、PTSDを発症することがあると言われています。

 その心の傷による後遺症が改善されるのですから、セルフ・コンパッションを身につけることが「いかに有用か」が分かりますよね。

 以上の結果から理解できるとおり、正しくセルフ・コンパッションを実践できる人ほど、人生がイージーモード化すること間違いナシです。

 反対に、ありのままを受け入れられずにいることは、あなたのことを365日ずっと責め続ける “害虫” を飼うようなもの。

 頭のなかが「批判的なコトバ」ばかりで埋め尽くされていたら……心身ともに健康で、幸せな人生を送れるはずもない。これでは人生を謳歌(おうか)することなどできません。

 わたしが思うに、9割以上の日本人に足りていないのが、この「自分自身に優しくするチカラ」かと。もちろん、わたしを含めてですが。

【4つのデメリット】「ありのままの気持ち」を受け止められずにいると……



 ここで1つ、思い返してみてほしい。

 過去に、「もっと頑張らなきゃ!」「まだまだ努力しなきゃ!」などと考え、必要以上にストレスを抱え込むことはなかったかと。

 あるいは、会社の上司や先輩たちからの要求を断れず、本心を押しころして「他人の意見」に振り回されることがなかったかと。

 本音を口に出せず、ありのままの自分ではなく「他人から見た自分」を演じてしまうのは、日本人らしい特徴の1つかもしれませんね。
 日本には、他人の目を気にしすぎる文化がありますから。

 しかし、ご注意ください。

 じつは、2008年の研究によれば、うつ病に罹患している人のほうが、そうでない人と比べて、適切に感情表現できない傾向にあったのだそう。

Rottenberg, J., & Vaughan, C. (2008). Emotion expression in depression: Emerging evidence for emotion context-insensitivity. In A. Vingerhoets, I. Nyklíček, & J. Denollet (Eds.), Emotion regulation: Conceptual and clinical issues (pp. 125–139). Springer Science + Business Media.


 また、2009年の研究によると、鬱病をわずらっている人ほど、自分の感情を表に出さない傾向にあったのだそう。

Kahn, J. H., & Garrison, A. M. (2009). Emotional self-disclosure and emotional avoidance: Relations with symptoms of depression and anxiety. Journal of Counseling Psychology, 56(4), 573–584.


 これらの研究は、ひとつの可能性を示唆(しさ)しています。それは、適切な感情表現ができない人ほど、うつ病に罹りやすくなるのではないか……ということ。

 ちなみに、2002年と2013年の研究によれば、本音を言わずに溜め込みがちな人ほど、次のデメリットを受けやすい傾向にあったのだそう。

▼本音を吐き出せない人ほど……
・がんのリスクが悪化
・心臓病のリスクが悪化
・体内のストレスレベルが悪化
・寿命が “3年” も短くなりやすい……など

Benjamin P Chapman et al. J Psychosom Res. 2013 Oct. Emotion suppression and mortality risk over a 12-year follow-up.
Journaling about stressful events: effects of cognitive processing and emotional expression. Philip M Ullrich et al. Ann Behav Med. Summer 2002.


 また、2014年に発表された2つの研究によると、言いたいことをガマンしがちな人ほど、体内のストレスホルモンの値が高くなりやすい傾向にありました。

Emotional suppression explains the link between early life stress and plasma oxytocin. Changiz Mohiyeddini et al. Anxiety Stress Coping. 2014.
Physiological and cognitive consequences of suppressing and expressing emotion in dyadic interactions. Brett J Peters et al. Int J Psychophysiol. 2014 Oct.


 分かりやすく言うと、本音を偽(いつわ)れば偽るほど、あなたの心と身体にダメージが蓄積されていく……ということ。

 反対に、セルフ・コンパッションの考え方では、あなたが感じる「本心」や「本音」を大切にします。「ホントは嫌なんだけど……」と感じたら、そのネガティブな感情を受け入れたうえで、じっさいの行動へと反映させていきます。

 たとえば、飲み会の誘いや上司の仕事の割り振りなどが苦痛なら、まずは その「苦しい気持ち」を受け止めます。心の底で感じた「イヤだ!」を大事にします。

 そして、あなた自身の感情を受け止めたうえで、「自分の気持ちを大切にするには、どんな対応をすべきか?」を考えていく……。
 それが、セルフ・コンパッションをもとにした「思いやりある言動」です。

 たとえるなら、あなたが感じる「イヤな感じ」は、正しい行動へと導くための “コンパス” のようなもの。
 つまり、あなた自身の「ありのままの気持ち」を受け入れることが、人生を正しい方向に向かわせる “案内図” になるのです。

 断言できます。

 本心を偽りがちな……私たち日本人だからこそ。現代の厳しいストレス社会を生き抜くために、セルフ・コンパッションの思考法が不可欠なのだと。

「ありのままを受け入れる」って……胡散クサくない?【科学データありで解説】



 とはいえ、一方で次のような反論もあるかもしれません。

「セルフ・コンパッションのメリットについては理解できたけど……なんか、ちょっと胡散クサいなぁ……」

「結局は『ポジティブ思考になろう!』っていうのと変わらないんじゃ? 自己啓発にありがちなヤツよね……」

 たしかに以上にあるとおり、〇〇思考法とか△△マインドといった話になると、とたん胡散クサさがにじみ出てしまうものですよね。

 そこで、ここでは「じぶんへの思いやり=科学的に実証された思考法」だと証明すべく、セルフ・コンパッションを生理学や神経科学で解剖していきましょう。

 というのも、2008年の研究データによると、じぶんに対して優しさを向けられる人ほど、体内の「コルチゾール値」が軽減。ストレスが改善したのだそう。

Rockliff, H., Gilbert, P., McEwan, K., Lightman, S., & Glover, D. (2008). A pilot exploration of heart rate variability and salivary cortisol responses to compassion-focused imagery. Clinical Neuropsychiatry: Journal of Treatment Evaluation, 5(3), 132–139.


 コルチゾールとは、ストレスを感じたときに分泌されるホルモンの一種です。
 なので、精神的な負担を感じているときには、コルチゾールの値が増加していきます。
 反対に、ストレスが減ったときには、分泌量が少なくなっていきます。

 分かりやすくいうと、ありのままを受け止められる人の体内では、ストレスに関わる物質が少なくなっていた……ということ。
 つまり、ストレスが「身体の内側」から改善されていたのですね。

 次に紹介するのは、神経科学——脳の観点から見たセルフ・コンパッションの全貌(ぜんぼう)です。

 2013年の研究によれば、訓練によってセルフ・コンパッションを高めてもらった被験者の脳をfMRIで分析すると、次のエリアが活発にはたらくようになっていたと報告。

▼セルフ・コンパッションを身につけることで活性化する脳領域
・島
・被殻
・淡蒼球
・前帯状皮質
・腹側被蓋野
・腹側線条体
・内側眼窩前頭前皮質……など

Functional neural plasticity and associated changes in positive affect after compassion training. Olga M Klimecki et al. Cereb Cortex. 2013 Jul.
Differential pattern of functional brain plasticity after compassion and empathy training. Olga M Klimecki et al. Soc Cogn Affect Neurosci. 2014 Jun.


 以上のように、セルフ・コンパッションを身につけた被験者には、身体の「内側」から変化が見られます。コルチゾール値の減少や脳機能の改善など、複数の神経生理学的なデータが、セルフ・コンパッションのメリットを証明しています。
 たとえるなら、あなた自身に思いやりを向けることは、苦しみから身を守る “鎧” のようなもの。
 苦しい現実に打ち勝つための「科学的な思考法」の1つ——それが、本パートで紹介するセルフ・コンパッションの真価なのです。

【セルフ・コンパッションにまつわる誤解①】自分に優しくすること≠甘え



 セルフ・コンパッション——「じぶんを思いやること」について話すと、きまって誤解されるポイントがあります。

 それは、「セルフ・コンパッション=自分を甘やかすこと」と解釈される点です。
 たしかに、時には「自分に優しくする=肩のチカラを抜いて甘やかす」という場合もあるでしょう。

 ただ一方で、次のようなシチュエーションを考えてみてください。

 あなたは最近、お腹の出っぱりが気になってきたので、ダイエットを始めようかと思っています。
 あなた自身、心の底から「メタボ=醜い」と感じており、スリムな身体になることを夢見ています。

 さぁ、想像してみてください。

 このような状況で、ダイエットせずにメタボっ腹を放置することは、あなたにとって「思いやりある行動」でしょうか。
 メタボを放っておけば、そのうち高血圧や動脈硬化といった病気に発展するかもしれません。

 それに、ブヨブヨにたるんだ自分の姿を鏡で見て、まっとうに自尊心(自己肯定感)を保つのは難しいでしょう。「なんだ、このだらしない腹は……」といった感じで。

 この場合、あえてダイエットの時間を設けることこそが、あなた自身を思いやることだと言えるはず。

「自分に優しくする」とは、いかにも多義的なフレーズですよね。

 しかし、その本質は非常にシンプル。
「その言動が、あなた自身にとってメリットになるか?」を考えてみてください。

 たとえば、仕事で疲れ切って「もう動けない……」という場面では、あえてダイエットをサボることが、セルフ・コンパッションになります。

 そもそも論で恐縮ですが、「セルフ・コンパッション=ただの甘え」と考えてしまう点に、日本文化の大きな問題点があります。

 おそらく、多くの日本人が無意識に「甘えを許すこと」にストッパーをかけ、グッと苦しみを我慢してしまうのでしょう。
 きっと、あなたにも思い当たることがあるはずです。

 さぁ、振り返ってみてください。

 これまでの人生で、次のように考えたことがありませんでしたか?

「もっと辛い思いをしてる人は山ほどいるんだ……自分だけ、こんなに甘えてちゃいけない……」

「こんなことで、根を上げてはいけない……。世の中は厳しいんだから、いま以上に頑張らなくちゃ……」

「甘え」が国際語になり、自殺が国民病となる日本の社会。
 わたしが思うに、9割以上の日本人に欠けているスキルの1つが、じぶん自身を思いやる『セルフ・コンパッション』なのかな、と。

 ちなみに、2003年の研究によれば、セルフ・コンパッションを身につけている人ほど、自己批判しない傾向にあると報告されています。

Neff, K. D. (2003). The development and validation of a scale to measure self-compassion. Self and Identity, 2(3), 223–250.


 そして、2017年の研究によれば、鬱病や接触障害をわずらう人ほど、自己批判・自己否定しがちな傾向にあったのだそう。

The phenomenology of self-critical thinking in people with depression, eating disorders, and in healthy individuals. Graham R Thew et al. Psychol Psychother. 2017 Dec.


『甘え』なんていう言葉で自分を追い詰めてしまうのは、まさしくセルフ・コンパッションが足りていない証拠。
 セルフ・コンパッションは「自分への思いやり」であって、自分自身を甘やかすこととは関係ありません。

 ぜひとも、あなただけの「心と身体を気遣う丁度いいバランス」を探ってみてください。
 それが、ひいては「鬱消し」に役立つ行動となるはずですよ。

【セルフ・コンパッションにまつわる誤解②】積極的な自己肯定≠自分への思いやり



 それから、次のような意見もあるかもしれません。

「セルフ・コンパッションって、結局は『ありのままを認める=そのままの自分を好きになる』ってこと? 自己肯定感を高めようみたいな感じ??」

 上記にあるとおり、かなり誤解されやすいのが「セルフ・コンパッション=自尊心(自己肯定感)」という点です。

「ありのままのあなたを愛すれば、メンタルの問題は全て解決するのよ!」というヤツですね。「あなたには最高の価値があるの!」みたいな。
 いわゆる、積極的な『自己肯定』ですね。

 しかし、この「積極的な自己肯定」には、さほど科学的な効果が期待できません。
 心理学の分野では、じぶんの価値を積極的に肯定していくことを『アファメーション』と言います。

 じっさいに、2009年の研究によると、積極的にアファメーションを行ったところで、メンタルの安定やパフォーマンスの改善は見られなかったのだそう。

Positive self-statements: power for some, peril for others. 2009. Joanne V Wood, W Q Elaine Perunovic, John W Lee.


 さらに、2015年に発表されたメタ分析によれば、アファメーションは自己肯定感の向上+ポジティブ気分の増加に影響しないと結論されました。

 Allison M Sweeney, Anne Moyer. (2015) Self-affirmation and responses to health messages: a meta-analysis on intentions and behavior.


 つまり、どれだけ「自分は最高に価値がある! 最高に価値がある人間なんだ!」と自己高揚させたところで、得られるメリットは1つとしてありません。むしろ、研究では「積極的なアファメーション=ネガティブな感情を悪化させる危険あり」と指摘されています。

 その一方で、積極的にセルフ・コンパッションを行うことは、自尊心(自己肯定感)の改善に役立つことが実証されています。

Albertson, E. R., Neff, K. D., & Dill-Shackleford, K. E. (2015). Self-compassion and body dissatisfaction in women: A randomized controlled trial of a brief meditation intervention. Mindfulness, 6(3), 444–454.


 なので、アファメーションとセルフ・コンパッションの違いについては、次のようにまとめられますね。

▼アファメーション
→自己肯定感を改善させる効果なし(むしろ逆効果)
▼セルフ・コンパッション
→あなたの自己肯定感を “確実に” 改善してくれる

 研究データに照らしてみると、必要なのは「自分への思いやり」だと理解できるでしょう。

 とくに、気分が落ち込んでいるときほど、自尊心(自己肯定感)が低くなりがちな傾向にあります。
 うつ病を患っているときなどは、とくに。

 科学的な研究が示すとおり、アファメーションには効果がありません。いまのあなたに必要なのは、積極的な自己肯定ではなく「自分への思いやり」なのです。

【名言を活用せよ】「受け入れるチカラ」の第一歩=偉人たちの『格言』に触れること⁉︎

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