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花(掌編)

もっと抽象的で良いから私を愛して。


貴方はいつも私の為に私に似た小柄な赤い花を通勤後に渡してくる。
貴方が通勤途中に通る小さな花屋の中に入り
「今日はこの花を○○ちゃんにあげよう。」
と貴方なりの渾身の一輪を決めて購入している姿が目に浮かんでいた。
その姿に応える為に毎日毎日増えていく小柄な赤い花を私は、
「いつもありがとう。」
と言って次の日貴方が会社に行った後に、貴方の書斎の片隅に置いてある大きな花瓶の中に1つ1つ入れていった。貴方は帰宅後すぐに自分の書斎に籠る様な人だから。貴方が1番この花を感じながら時間を過ごして欲しかったから。私も貴方に気付いてもらう為に毎日少し置く場所を変えながら花を飾ってた。まあ、同じ花瓶の中だったけど。

そんな生活が続くと徐々に私の感情は変化していった。
「もっと抽象的な愛が欲しい。」
そう思う様になった。
貴方が毎日私の為にくれる私に似た小柄な赤い花は、確かに私への愛を十二分に感じる程いつも素敵な花ばかりだった。
でも、貴方はいつもその素敵な花を私に渡し終えるとすぐに自分の書斎に駆け込み、次の日の朝まで姿を確認する事が出来なくなる。花だけを置いて。いつも。

私も貴方との時間をもっと過ごしたかった。
「子供とか興味無い?」
気付けばそんな話も貴方と暮らし始めてから一度も無かった。
でも、いつも午後11:00〜11:30ぐらいにLINEで、
「今日の○○、美味しかったよ!!」
とかは平気で送ってくる。

もう、分からない。
乱雑に飾ったはずの花の事は一切言ってこない癖に。

貴方の好きな所が、
徐々に嫌いになっていった。


私は不倫をし始めた。
些細な感情も制御出来ない程、私は不倫をした。交わりまくった。
「これこれ。これで良いの。」
その日限りの男性が貴方以上に好きになった。
ただ、スワイプした先がその人だっただけなのに。
毎日毎日交わった。
貴方から貰った花も、
不倫相手から貰った花だと思うと、
より興奮した。
でも、貴方は私にくれた花を一輪たりとも枯らさない様、こまめに水やりをしていたのは私は知ってるからね。貴方がその行為をしてる事を理解した状態で私は不倫をしているのよ。



もっと、私を愛してよ。
もっと、私を咎めてよ。
貴方が休みの日にいつもと違う服を着て何処かに行く私を。私を。私を。
一時は、行為後の下着を貴方の書斎の角に置いといた事もあったわ。
それなのに貴方は何も私に言ってこない。
それが「貴方らしさ」と思えたあの頃は、
楽しかったのかな。もう何も思い出せない。


虚無。
こんなにも早く終わりが来るとは。
1ヶ月過ぎたぐらいで飽きが来た。
マチアプも全部消したし、
唯一何度も会ったあの子とも
もう連絡は取ってない。
意味無い。意味無い。
ホテルの電飾が日に日に眩しくなって行った時点で分かっていた事ではあるが。
もう貴方の花は飾ってない
捨ててる。
貴方の書斎の机の隣に置いてあるゴミ箱に。
でも、貴方は何も言って来ない。





「なんで、○○ちゃん!!!!」
貴方は玄関で泣き叫びながら、
私の名前を連呼しながら、
今まで貴方が私にくれなかった
「抽象的な愛」に蝕まれて行くだろう。
何もかもが遅い。遅過ぎる。
私だって、、、、、、、、
もう、会えないけど。
愛して欲しかった。
もっと抽象的な愛で良いから私を愛してみて欲しかった。






白い花を持って待ってるから。




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