マガジンのカバー画像

閑文字

207
詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
運営しているクリエイター

2024年6月の記事一覧

敬遠

敬遠

道はとうに隠されてしまった
燃えカスのように赤いてのひらが
幾千、幾万と重なり合って
アキノソラガグロテスクニアオイ
国中に愛が溢れているのなら
いま踏みつけている葉っぱや枝もきっと愛で
愛の断末魔はひどく軽くてちょっといい音だった
シカガナク
紅葉を踏みにじって小枝をくりかえし踏みつける
シカガナク
まだ若い木をバキバキとへし折る
シカガナク
大きな木に体当たりする
それはビクともせずわたしは立

もっとみる

水をこわがらない猫

水をこわがらない猫がいる。水をこわがらない猫は、水をこわがらないので、水場に行く。水をこわがらない猫は、まわりにいるのが水をこわがる猫ばかりなので、水をこわがらないことをよくほめてもらえる。だから水をこわがらない猫は、水がこわくない自分のことを、特別な存在なんだと思い、水はほんとうはこわいものではないと主張し、大勢の水をこわがる猫を率いて水場に行き、水をこわがらずに飛び込んでみんな溺れた。
 

もっとみる

わたしがその手を離してはいけない

結婚しました。
夫はとても責任感が強く、夢をしっかり持ちながら現実を冷静に見つめ、みんなのためになることを自分の使命としている人です。わたしはそんな夫と手を取り合い、その理想へ歩むことにしました。
 
夫が死にました。
もともと身体は強いほうではなかったのですが、流行り病で急に逝ってしまいました。わたしは最後に手を握りました。冷たく硬くなり、人というよりはモノ、という感触は忘れることができません。

もっとみる

せんぷうきほどのまじめさがほしい

もう拝まないでくれ、もう拝まないでくれ
一月一日は朝を配るたびに祈りを返されて申し訳なくなる
わたしはあそこにいる新聞配達のお兄さんと何も変わらないのに
世界平和とか背負わせないでほしい
「太陽がこのまえそう言ってたんだよね」と
たまたま隣に座った月から聞いた
隣のアパートが無くなったから立ち寄れるようになったらしい
ホコリが自分は美しいものであるかのように舞っている
ぼくはそれを美しいと思った

もっとみる
再生

再生

目が濁っていなかった頃に見た富士山は
今でもわたしの瞼に残っています
夢のために耐えている人に憧れたのに
ただなんとなく耐える人間になっていました
冬になると肌は冷気で切りつけられ血が流れる
それなのに血が流れていないと肌を切りつけて
ようやく今年も冬がやってきましたね、と火鉢にあたる
気持ちの悪い笑顔で
汚さしか見えなくなってしまいました
汚さがないと白さが分からなくなってしまいました
だからこ

もっとみる
漂流

漂流

脚で挟んだひんやりと動かない布団
いのちあるあたたかな動きをするものがない部屋
この部屋でもっとも生きものめいているのは
天から長く長く垂れ下がっている月の光
羽のさきっぽのうまれたてみたいな毛で
わたしの顔の表面だけをなでつづける
身体の表面だけをくすぐりつづける
この腕の中で眠るものが欲しいと思う気持ちは
恋と呼んでもいいのだろうか?

==================

読んでいただきあ

もっとみる

生きていればいい

乾燥した皺だらけの無数の手が
僕を生きられるように改造していった
一瞬で無数の手に全身を掴まれたかと思ったら
すぐに離れて、その時には僕は呼吸ができるようになっていた
空気を吸うって、広辞苑を呑み込むみたいで、
とても苦しくて、空気の無い海中に飛び込んだら
無数の手がまた一瞬で全身を掴んで
僕を鰓呼吸に改造した
ナイフを取るのもロープを取るのも
手の本数で負けてしまいさきに奪われてしまう
屋上から

もっとみる