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詩集『閑文字』

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伽戸ミナがつくった詩を載せています。読んで頂けたらうれしいです。
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2024年3月の記事一覧

ヒーローに救われたことがあるヤツは、ヒーローじゃない

詩です。

バスタブが世界一安全な場所なんです
かくれんぼをしたときはすぐに見つかってしまいましたけど
ムジャキなドキドキを、ポツポツと咲かせながらうずくまっていると、外では、
ゆでたまごが降っている音がしたんです
そうです 殻は剥いてある、つるつるホワイトなやつです
重なりに重なったカサカサな枯れ葉の上に
とすん、とすん、と落ちているんです ほとんど一定で
いま、同じ場所で頭からシキブトンをかぶ

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案山子

詩です。

足を下ろそうとすると
そこにはタンポポがあるから待って、
と言われて
下ろす場所を変えようとすると
そこにはアリさんの行列があるから待って、
と言われて
また変えようとすると
そこにはオレンジのBB弾があるから待って、と言われて
また変えようとすると
そこらへんにコンタクトが落ちてるから待って、と言われて
右足は地面と再会することはないまま
ぼくは案山子になった

あれはオタマジャクシ

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今はだいたい充電式

詩です。

桜は壊れながら旅をする
今年もキレイねぇ、と言っているばあちゃんがとても残酷に見えた
月の光は破損箇所から漏れ出ている
だんごを食べる暢気さなんて到底持つことができない
桜も月も、きっと充電の回数は増えている一方だろう
昔より遠くまで行くことができなくなって、
昼まで寝ていられることもなくなって、
食べられるカルビの枚数も減っていく
ここでの儀式は、一人を生贄にするものから
五歳の身体

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春を待つ

詩です。

朝、くつひもを結ぶときは、
左、右、左、右、の順番で
必ず蝶が二匹連続になるようにするの、
ときみが言った
ぼくは一度試したきりやることはなかったのだけれど、
蝶々夫人だね、と言って手を繋ぐようになった
 
けんかはだめ、と言いながら
オーバーオールを着た幼子が
蝶の交尾をちぎっていた
蝶たちは紙きれのように風に飛ばされていった
 
きみが電柱の陰によけてくつひもを結び直すときは
左、

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教室で山下さんが膨らんだ

詩です。

先生から見て二列目の一番後ろに座っているから、
五列目の前から二番目の山下さんが
膨らんでいくのがはっきり見えた
なにがあったのかな? 夏休み明けだからかな?
教室には数学の小テストに集中する空気が満たされているから、
弾け飛んだワイシャツのボタンが
メダカの生きている水槽を叩く音は流された
山下さんが蛍光灯に耳をこすらせている頃
加藤と桜井と岡本さんの姿が見えなくなった
ぼくは久しぶ

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イモほり

詩です。
ただの詩です

一部の保護者の方から批判が出たので、
規格に満たない、好きです、は間引くことになりました
学年主任のその言葉で
わたしの中のポテロングは折れました
世界は汚いんだから今だけは美しいものを見せていたい、って
将来は居眠り運転で交差点に突っ込んでね、って言っているみたいだ
そんな人じゃなかったんです、と言うときの
ハンカチの準備だけはやたらいい
ベビーカーでじゃがりこを振る音

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