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詩集『閑文字』

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伽戸ミナがつくった詩を載せています。読んで頂けたらうれしいです。
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2024年2月の記事一覧

無色

詩です。
ただの詩です。

詩集を閉じずに持ったまま
人間は文字を与えなかった音でも発音できるな、
などと思いながら天井の木目を見ていると
宇宙から黒色透明の蜜が垂れてくることがある
私まで到達するのを待って、≪女神のよだれ≫とメモに書く
浸透圧ではいってくるのは夜
食べるように染めるように埋めるように撒くように
キスする人は、よく、
唾液のにおいを知りたいと言っていた
夜に押し出された、涙を流し

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五時間目

詩です。
ただの詩です。

授業中によそみする青空程キレイなものってないんじゃないかな?
波紋がキレイに広がっていくくらい穏やかな海みたいで
底ではマグロの腹を鮫が喰い破っているけれど、表面はおとなしい
老夫婦はもたれ合ってうっとりと眺めている
背徳感って感じ?、そう、スリルがあるね、すいません、答えはわかりません、怒られてたね、適当にやりすごすさ、賢いね

葉桜がじゃれあっている
ごめんね、いま

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聖遺物

詩です。
ただの詩です。

顔をかくして生きることを
コロナが押し進めたね
つぎは、火星進出が
肉体を捨てることを押し進めるかな
そのときに備えて、いちばんキレイな
きみの右手中指をくれないかな
まだ理解されないだろうから
飾るのはぼくだけの秘密の地下室にする
もちろんはめている指輪もそのままにするよ

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読んでいただきありがとうございます。
スキやフォ

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ヒーロー

詩です。
ただの詩です。

手の甲に精霊紋が浮き出る英雄が、裏の森に棲みついた三つ首の魔獣を退治してからというもの、村では手の甲にひらがなを書いて遊ぶこどもが増えた
彼らは大人になって、漢字を使えるヤツが一人前、と言っている

歯みがきのあとの麦茶と100均で300円だったら
どっちの方が損した気分になる?って
ニヤケ顔のこねこが聞いてきた
街灯の蛍光灯が酩酊状態のように点滅していて、
生きてい

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小田急線新宿駅

詩です。
ただの詩です。

降りる人、降りる人、降りる人、降りる人、傘を
忘れそうになった人、降りる人、降りる人、乗る人、
乗る人、座る人、乗る人、立つ人、乗る人、
駆け込む人
人間を金属としてやりとりしている
停まるたびに。
 
ホームとの隙間にスマホが落ちていくと、その代わりに
この隙間が世界最小の無人レジだって教えてくれた
 
急停車、謝り合い、静寂の復元
【経堂駅の女神様が痴話喧嘩をしてい

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ネオンライトは夜の敵にならない

詩です。
ただの詩です。

部屋を暖めているストーブが苦しそうに
熱を吐き出す傍で、裸で抱き合っている人たちがいる
小窓から三日月を見て、あれは神様がまぶたを
閉じている状態だからいまのうちにキスしよう、って言った
RとLの発音をなんどもなぞるような舌の動き
世界にいまボクらしかいなかったら
世界には愛しかない
それでも腹部に刺してしまった包丁はどうにもならなくて、
体の中がピンクやアクアマリンに

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飛びたいと願わない日はない

詩です。
ただの詩です。

飛びたいと願わない日はない
春風の甘さに包まれてみたい
やわらかな雨で汚れを流したい
夜の訪れを切り裂いてやりたい
 
アバラにものが挟まったような息苦しさ、今日も元気な
重力、どこまでもひろがる青なんてなくて
緑や白や土気色が、巧みな連携で視界を遮っている
骨と骨の隙間に仕掛けられた火薬が、
破裂音を打ち上げて、切り出されるハラワタ
肺、心臓、胃、心臓、胃、胃、心臓、

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