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数字で見る、医師の過酷な労働環境
な、なんということでしょう。
年末から1月にかけて、キャリアに悩む女医さんからのお問い合わせが6件もあり、多くが休職中やこれから休職予定の方。
そしてこれまで個別相談に来られた方は2名いらっしゃり、誰にも言わずに悩みに悩んだ結果、私を見つけ、勇気を出して相談に来てくださりました。
お話を伺っていると、「いやー、わかるわー」と共感の嵐。
・長時間労働すぎてヘトヘト
・考え方が古い、閉鎖的な職場が嫌
・慢性的に人が足りていない状況が辛い
・上司が理不尽で、気分により怒鳴られたりする
・患者さんがワガママ
・女性だとナメられるし、ナースと間違えられる
昨今、「医師の働き方改革」が進んでいると言われていますが、実際にはどれほど変化があったのでしょうか?
この記事では、医師の過酷な労働環境を数字、データで見ていこうと思います。
まずは、日本医師会の「勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書」(令和4年)から、いくつかのデータを抜粋してご紹介します。
1.寝れない、休めない
・30%が、休日が月に4日以下で、うち6%は休日がなかった。
・40%が平均睡眠時間が6時間未満であった。
・44%が当直の際の平均仮眠時間が4時間未満であった。
【ひと昔前の私の話】
私が最初に勤めた大学病院は土曜日が毎週午前中診療をしており、4週6休という体制をとっていましたが、休めるような雰囲気でもなく、土曜日に休んだことは一度もありませんでした。
研修医の時は「日曜日も持ち患さんに会いに行くのが基本」と言われ、日曜日も毎週病院に。なんだかんだお昼過ぎまでは病院にいましたが、もちろん時間外手当など申請したことはありません。
二つ目の大学病院は土曜は1週め・3週目が休みで、2・4・5週は午前中勤務。しかし、土日には日当直があったり、外勤に行っていたりで、1ヶ月に1回は土曜日休んでいたように記憶しています。
しかし診療はなくとも、週末は学会や研究会に出たり、学会準備でスライドを作っていたりなど、やることは山積み。丸一日全く仕事をしない日などはなかったように思います。
また当直帯は「ぶっつづけで4時間呼ばれなかったら、ラッキー」という感覚を持っており、当直明けは普通に夜まで仕事でした。
2. 健康面、メンタルの不調
・16%が「不健康である」「どちらかというと健康ではない」と回答。
・40%が自分自身の体調不良について他の医師に「まったく相談しない」と回答。
・8.5%が、中等度以上の抑うつを呈していた。
・4%が1週間に数回以上、自殺や死について考えていた。
自分自身の体調不良について、他の医師に相談しない、というのは問題です。かといって誰に相談したらいいのかわからない雰囲気、ありますよね。上司に言っても、甘えとも取られかねない、と心配する気持ちも理解できます。
私は大きく心身の不調を壊した時はありませんでしたが、先輩や後輩がうつ病になり、辞めていったことはありました。
また研修医時代の同期が自殺して、辛い思いをした友人もいます。医師の自殺率は3倍となっているのです。
3. 患者からのクレーム
・40%が、半年間に1回以上、患者や家族からの不当なクレームの経験があった。
不当なクレームは、医療従事者にとって大きなストレスになります。私は放射線科医のため、臨床の先生に比べるとクレームの機会は少ないですが、それでも理不尽に怒られたり、難癖をつけられたりした経験は少なからずあります。
働き始めは精神的な負担を感じていましたが、次第にスルーする技を身につけ、仕事と私生活を切り離して考えられるようになりました。
しかし、後述するように、クレーム対応のマニュアルが整備されていないため、一人で抱え込んでしまう医師も少なくないのではないでしょうか。
また、この「勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書」では、上司との関係についての記載はありませんが、実際には多くの医師が上司との関係に悩んでいます。
4.上司への不満例
・不適切なマネジメントやパワハラ的な言動(無視、挨拶しない、怒鳴るなど)が不満の原因。
・上司のマネジメント力について「かなり不満」とする医師は7.1%、さらに「やや不満」を含めると約15%に達する。
5. 上司との関係が悪いと、仕事をやめてしまう
・医師の71.1%が、直属の上司との相性が勤続に影響すると回答。
・若手医師ほど、上司との相性を重視している。
・上司への満足度が高い医師は、現職場で働き続けたいと考える割合が約8割に達する一方、不満を抱える医師では35%まで減少する。
私はおおむね上司に恵まれてきましたが、①初期研修医のときと②専攻医として外病院に出ていた際、上司との関係に非常に悩まされました。
正直、ハラスメントとして認定されるべきレベルの酷い扱いを受けたこともありました。初期研修医の際は科を変えてもらう処置をとってもらいましたが、専攻医の時はただ耐えていました。
ここで知っていただきたいのは、企業ではハラスメント防止や顧客クレーム対応のe-ラーニングが広く導入されている現状です。
私自身、現在アメリカの医療機器メーカーでコンサルタントとして働いているため、こうした教育を受ける立場にあります。しかし、日本の大学病院で勤務していた際には、同様の教育を受けた経験はありませんでした。
医療現場では、クレームやハラスメントの問題が「個人の資質の問題」として捉えられがちで、組織としての対応が遅れていると感じます。
しかし、医療業界においても、労働環境の改善や職場での人間関係に関する教育は不可欠です。
医師の持続可能な働き方に向けて
医療現場では、とにかく「患者第一」の精神が根付いています。また、診療以外の業務は「自己研鑽」とみなされ、労働時間にカウントされないのが一般的です。
というのも、医学部に進学した時点で他業種の人々と接する機会が減り、狭い価値観の中で育つことが多いため、医療現場の過酷な労働環境についても「医師とはこういうものだ」と刷り込まれ、疑問を持ちにくくなってしまいます。
しかし、医師になったからといって、長時間労働を受け入れなければならないのでしょうか?
例えば、パイロットは乗客の命を預かる職業ですが、勤務時間が厳格に管理され、十分な休息が義務づけられています。一方で、患者の命を預かる医師は、なぜ過労に追い込まれているのでしょうか?寝不足や疲労による判断ミスは発生しないのでしょうか?医師はスーパーマンではありません。
患者の健康を守るべき医師が、過酷な労働環境やストレスによって心身の健康を害し、休職や離職を余儀なくされるのは本末転倒ですし、人手不足が進めば、現場の負担はさらに悪化してしまいます。
もともと、医師を志す人々は学業成績が優秀で、「人を助けたい」という強い想いを持っています。しかし、現在の働き方が続けば、優秀な人材が医師を目指さなくなり、離職も増加していくでしょう。もはや根性論では解決できず、「直美問題」のような課題も未解決のままです。
だからこそ、まずは医師の労働環境を整え、ウェルネスやハラスメント防止のためのサポート体制を強化する必要があります。
病院の経営陣はもちろん、厚生労働省や学会も医療現場の意識改革を進め、持続可能な働き方を実現できるような制度づくりを進めてほしいと考えます。
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