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『早春賦』photo by seikoala

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【創作大賞2024 恋愛小説部門 応募作】 俺の人生は、どうせ死ぬまで雪に閉ざされる。でも、お前には、必ず春が来ますように。俺の分もたくさん芽吹いて、たくさん花を咲かせますよう…
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記事一覧

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #01「若葉」

目が覚めそうになって、若葉は必死で抵抗した。 …お願い、どうか、もう少しだけ待って。やっ…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #02「父親代わり」

《前回のお話はこちら》 若葉は床に正座したまま、ベンチコートを脱ぎ、おしぼりで一所懸命に…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #03「バー・こずえ」

《前回のお話はこちら》 翌日の16:00。若葉が出勤すると、カウンターの中には既にママの着物…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #04「三人の出会い」

《前回のお話はこちら》 三年前の十二月。 小雪がちらつく寒空の下で、若葉はママに拾われた…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #05「雨の夜のタロット占い」

《前回のお話はこちら》 「…あたし、男運がないんかなあ。」 三月の、冷たい雨が降る夜。年…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #06「花まつりの夕暮れ」

《前回のお話はこちら》 四月になった。 年度初めとあって、常連客が新人を引き連れてひっき…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #07「初めての着物」

《前回のお話はこちら》 営業再開当日。 若葉はモクさんの指令に従い、十五時にサチエさんの美容室を訪れた。 ママ不在でお店を再開することも、全く馴染みのない着物を着ることも、若葉には憂鬱この上ないが、それでも若葉は、可愛らしい弟が応援してくれているような気がして、とりあえずやってみよう、と自分を奮い立たせた。 サチエさんの美容室は、若葉のお店がある界隈から少し外れた場所にある。ペンシルビルの一階を大手のコーヒーチェーンに貸し出し、二階が美容室、三階と四階が住居、五階以上

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #08「左手首の温もり」

《前回のお話はこちら》 その夜。 お店を再開することを喧伝したわけではないのに、古くから…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #09「若葉の挑戦」

《前回のお話はこちら》 その翌日から、若葉は着物と格闘を始めた。 とにかく、ちゃんと歩け…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #10『雪国』

《前回のお話はこちら》 ゴールデンウィーク明けから客足が戻り、カウンター席だけでなく、ソ…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #11「モクさんの過去」

《前回のお話はこちら》 若葉とつぼみとモクさんの三人体制になって、お店はうまく回るように…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #12「光だけを見る」

《前回のお話はこちら》 駅でユキエちゃんと別れた後、若葉はそのまま、ママが入院している病…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #13「ふたりの距離」

《前回のお話はこちら》 十月。若葉が着物姿でカウンターに立つようになって、半年が経った。…

【創作大賞2024恋愛小説部門】早春賦 #14「ママの願い」

《前回のお話はこちら》 十一月。 朝晩は冷え込むが、日中は良い塩梅の小春日和が続いている。若葉とママは、自宅から少し足を延ばして服部緑地を訪れ、のんびりと散歩している。 ママは手術を無事に乗り越え、十月に二度目の退院をした。ようやく若葉と暮らすマンションに戻って来られたものの、お店で接客をするのはまだ難しい。 今日も、ママと並んで歩きながら、若葉は空の車椅子を押している。いつでもママを支えられるように、厚手のパーカーにベイカーパンツ、足元はスニーカーといういでたちだ。