【人事労務的視点】ビッグモーター問題を細かく考える【客観的・合理的で社会通念上相当かどうか】
この1・2か月、中古車買い取り・整備大手のビッグモーターに関連するニュースが大きな話題となっていますが、報道されていること全部が全部悪いという訳ではありません。
こういった場合には世の中の流れとして、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、という状況になりがちですので、世間一般や私の心情は排除して、報道されていることを人事労務的に一つずつ分けて客観的に考えていきたいと思います。
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1.ワンマン社長
まず、ワンマン社長という組織形態については全然OKです。
ビッグモーター自体が、開かれた組織運営を標ぼうし・優れた統治能力をウリに他から出資を募っているというわけではありませんので、現在のような会社運営になっても問題はありませんし、世の中にはワンマン社長と呼ばれる会社は多く存在しています。
※ しかし、この形態は『他から意見を言いにくい企業風土になっている』『会社上層部が、社長のイエスマンしかいない』という問題点を発生させやすいところがあります。
上手く会社運営がされている場合は良いのですが、問題が発生した場合には、意見を言いにくい風土というのは、今回のように事態を悪化させるだけでなく、改善に向かう流れにならない危険性が高いです。
世間一般的に「ワンマン社長」という言葉に対して大きな抵抗をお持ちの方が多いですし、イメージもあまり良くないかもしれませんが、その形態自体は悪くありません。
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2.昇格・降格制度の頻繁な運用
これも、基本的にはOKです。
給与については、安定を望んでいる方がいる一方で、むしろ、今現在は年功序列的な労務管理よりも、能力や実績による賃金設定を望んでいる従業員が多い可能性もあります。
従業員のモチベーションアップにつながり、会社運営の引き締めのためには、昇格・降格制度の運用は必要不可欠とも言えます。
※ しかし、給与は『従業員の生活維持に大きな影響を与える』ものであるので、昇格・降格制度は慎重な運用が必要な事も考慮に入れなくてはなりません。
例えば、『懲戒による減給は、対象従業員給与総額の一回分の10分の一を超えてはならない』という規定や、客観的合理的に考えた場合に、降格制度を適用したことによる給与減額によって、その方の生活が脅かされる金額を減らすのはいけません。
今回のように、いきなり0円の給与になってしまったり、会社規則(就業規則など)に則らずに、経営陣の主観で昇格・降格が決定してしまうことは大きな問題点です。
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3.ノルマ未達による罰金制度
2016年には「自動車保険契約」のノルマを下回った場合の店長は、上回った店長に罰金を支払う制度があったそうです。
その際に会社は、会社が強制していないために違法性は無いと認識していた、という弁明をしたそうです。
労働基準法には、第16条「賠償予定の禁止」というものがあり、この内容は、従業員側に労働契約違反があった場合、違約金を定めることを原則禁止している規定です。
特に、今回の場合においては、この罰金の目的が『会社経営にマイナスを与える可能性が高い』という、
①「社内秩序を守るため」といった、客観的に合理的な理由である。
② 罰金を課す理由が社会通念上相当である。
といったことに当てはまらない目的である可能性が高いため、問題点となる可能性が高いです。
今ではこの制度は無くなっているということですが、ビッグモーター社だけでなく、他の会社でもこういった制度は設定されやすく、また、設定されている可能性が高いので、人事労務管理業務を行っている方は注意が必要です。
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4.連絡手段がラインなど
社長や上層部からの連絡手段がラインなどのSNS、ということについての指摘もありましたが、これも基本的には問題ありません。
人事労務分野においては、目的が正しいものであれば手段が簡易的なものであっても認められることが多いです。
※ しかし、ライン等を主要な連絡手段にした場合には、手軽なSNSなだけに、従業員の労働時間などお構いなしに行なってしまうこともあります。
気軽な口調や内容であったとしても、内容が業務内容についての連絡に関連しているのであれば、そのやりとりは労働の性質を持ちますので、労働時間としての扱いをする必要があるということを考える必要があります。
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上記のように、今回のビッグモーター社の件については、ニュースで扱われていることの『基本と原則』については、問題無いことが多いです。
ただ、それを会社自身が、判例などを考慮に入れず、過大・誇大に解釈してしまったことが全ての問題につながっていると言えます。
また、会社という形態をとっているのにも関わらず、各種規則に則らずに経営陣の主観を基に行動してしまっていたことも問題です。
会社内部の状況について、ニュースとして私たちが知っている情報がすべて正しいという訳では無いでしょうが、内部改革が必要な事は間違いないと思います。
しかし、だからといって、「外部監査役の導入」といった、簡単に行える・効果の薄い改革でお茶を濁すといったことだけは避けて欲しいです。
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