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飲み物という名の冒険

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飲み物、それは冒険。 夏になったら書きますね。
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記事一覧

俺たちは兄弟なんだ(イスタンブル・チャイ紀行#3)

俺たちは兄弟なんだ(イスタンブル・チャイ紀行#3)

昨年だったと思うが、トルコのチャイ文化が世界無形文化遺産入りした。
その少し前からトルコのチャイにまつわるエッセイを書いていた身としては、何の影響力もないくせに勝手に誇らしい気持ちになった。

そんなチャイのエッセイも3話目。
今のところあと一話で最後だ。

トルコのチャイはユネスコも言うように単なる飲み物ではなく、一種の社会的実践だと言える。
つまり、チャイを囲めばそれは一つのコミュニティーとな

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おとそ。(飲み物という名の冒険⑨)

おとそ。(飲み物という名の冒険⑨)

正月である。せっかくなので正月らしい飲み物の話をしよう。
そう、「おとそ」だ。

正月、朝起きて、祖母宅のダイニングテーブルにつく。
しばらくすると、おせちでいっぱいのテーブルの上に赤い急須と皿のセットがでーんと置かれる。父が皿を各人に配り、急須のおとそを注いでいく。
そして新年っぽい挨拶のあと、年少者から順に、このおとそを口をつける(飲むという量ではない)。

これぞ初春の風物詩。
とはいえ、お

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クリスマスとホットワイン(飲み物という名の冒険⑧)

クリスマスとホットワイン(飲み物という名の冒険⑧)

もう二日寝ればクリスマスである。
クリスマスの飲み物といえば、一つ思い浮かぶのが、ホットワインだ。

ドイツのグリューヴァイン

私事で恐縮だが(私事しか書いた覚えがないけど)、昔ドイツのベルリンに住んでいたことがある。5〜6歳の時、約1年ほどのことだ。

ドイツはキリスト教国だから、もちろんクリスマスは大々的に祝う。
クリスマスツリーはもみの木を一本買って家の中で飾るし、大抵の家にはアドベントカ

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マイ・スウィート・メモリー・オン・チャイ(イスタンブル・チャイ紀行#2)

マイ・スウィート・メモリー・オン・チャイ(イスタンブル・チャイ紀行#2)

トルコといえば、チャイである。
トルコのチャイの詳細については以前の記事に任せるとして、今回はチャイと砂糖の話がしたい。

甘い香りのイスタンブル

チャイを頼むと、必ず砂糖がつく。
小瓶に大量の角砂糖が入っているところもあれば、何個かソーサーに置かれているところもある。
ソーサーに置かれている場合、不思議なことに、大抵は3つ角砂糖が置かれていた。トルコの角砂糖は日本のものと比べて小ぶりだが、その

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ハノイ、救済の(コンデンス)ミルクコーヒー(飲み物という名の冒険⑥)

ハノイ、救済の(コンデンス)ミルクコーヒー(飲み物という名の冒険⑥)

ヴェトナムの首都、ハノイ。
私は苦悶の表情を浮かべながら街を歩いていた。
数日前まではお隣のカンボジアにいたのだが、そこで事件が起きた。
いわゆる食当たりである。
世界遺産アンコール遺跡のあるシェムリアップという街で食べた屋台の麺に当たってしまったのだ。

災厄

ウイルス性の胃腸炎の場合は、下痢止めや正露丸の類は飲まず、刺激物やアルコールは控え、とにかく、ウイルスが出ていくのを待つしかない。

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オリーブの囁き(飲み物という名の冒険⑤)

オリーブの囁き(飲み物という名の冒険⑤)

突飛な取り合わせの飲み物と出会うことは少なくない。
以前紹介した松ジュース、いつか紹介するかもしれないずんだサイダー、牛タンサイダーに至るまで、世界中の飲み物屋たちは冒険を繰り広げている。
人類にはまだ早すぎる味がするものもあれば、意外な相性に舌鼓を打つものもある。
ところが、時に狐につままれたような気持ちになるものもある。

旅人と海

高松駅は港の近くにある。
県庁所在地のメインの駅があんなに

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慰めの道後ビール(飲み物という名の冒険④)

慰めの道後ビール(飲み物という名の冒険④)

温泉に行ってしまおう。
体も汗ばんでいる。
部屋は狭く、タバコの匂いが染み付いている。
こうなったら温泉だ。
私は夕食を終えると、その足で路面電車に乗り込んだ。

安宿暮らしは二度身体を洗う

夏真っ盛りの八月半ば、私は松山にいた。
ちょうど、広島からのフェリーで到着したばかりで、文字通り、右も左もわからなかった。

お盆の真っ只中だったため、松山のホテルの価格は上がっており、選択肢があまり多くな

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おやじさんのチャイ(イスタンブル・チャイ紀行#1)

おやじさんのチャイ(イスタンブル・チャイ紀行#1)

東西の交差点、イスタンブル。
言わずと知れたトルコの古都である。
私が初めてこの街を訪れたのは3月。
寒さに冷たい雨が追い討ちをかけていた。

そんな寒い時にはチャイだ。
といってもミルクも、スパイスもない。
それがトルコのチャイなのだ。

トルコのチャイ

日本でチャイというと牛乳でスパイスと一緒に煮出した紅茶のイメージが強い。
最近では、東京でもこの種のチャイの専門店まで見かける。
だがこれは

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ザ すだち(飲み物という名の冒険②)

ザ すだち(飲み物という名の冒険②)

「ザ・すだち」
と、その缶には書かれていた。
書体は歌舞伎や相撲で見かける、賑やかで、勢いと漢気を感じさせる野太い書体である。
その書体が、「ザ・すだち」という言葉の持つ異様なオーラを増幅させ、独特のユーモアを醸し出す。

Back in 鳴門

初夏、徳島。
四国は燃えるように暑かった。
私は徳島に着いたばかりだったが、これから何をするかプランもない。

徳島と言えば、特に有名なものが二つある。

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韓国の松ジュース(飲み物という名の冒険①)

韓国の松ジュース(飲み物という名の冒険①)

その見た目は、手に取ってくれ、と言っているようにしか見えなかった。

松との遭遇

新大久保、ソウル市場。
韓流ブームに乗った若者たちにもみくちゃにされながら行き着いたその場所で、私は逡巡していた。

私の目の前には一個の缶がある。飲み物の缶である。
パッケージにあるのは「松」の絵。ハングルを読み解くことができない私には、他に内容を類推できるものはない。
フルーツも、キャラクターもいない。ただただ

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