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【連載】岩波文庫で読む「感染症」|山本貴光

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第10回|見えない原因を追い詰める パストゥール『自然発生説の検討』ほか|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第10回|見えない原因を追い詰める パストゥール『自然発生説の検討』ほか|山本貴光

 人類はいつ頃、ウイルスの存在を知ったのだろう。

 例えば、現在ではインフルエンザはウイルスが原因であることが分かっている。では、そのように判明したのはいつのことだろうか。

 インフルエンザといえば、およそ100年前に世界を席巻した、いわゆる「スペイン風邪」はその一つだった。もっとも「スペイン風邪」という名前からして紛らわしい。スペインで始まったわけでもなければ、風邪でもないのだから。

 そ

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第9回|「うら若い女が亡び行くのだ」 細井和喜蔵『女工哀史』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第9回|「うら若い女が亡び行くのだ」 細井和喜蔵『女工哀史』|山本貴光

 かつて肺結核を患ったことがある。自分でもなぜそんなことになったのか分からないのだが(もちろんどこかで感染したからなのだが)、当時勤めていた会社で受けた健康診断で肺に白い影が映っていることが分かり、精密検査をすることになった。日頃は脳天気な私も、ことによっては死ぬのかもしれないと思ったのを覚えている。

 結果的には肺結核と診断されて、ほっと胸をなで下ろした。というのは、もちろん治療法が確立された

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第8回|人間は油断する生き物である 志賀直哉「流行感冒」|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第8回|人間は油断する生き物である 志賀直哉「流行感冒」|山本貴光

 この何年か、『文藝』(河出書房新社)という雑誌で文芸季評を担当してきた。同誌は季節に一度刊行されるので、毎回過去三カ月分の文芸各誌を読んで、これはと感じたものについて述べるという趣向である。一種の定点観測とでもいおうか。

 2018年から現在まで、およそ2550作の小説や詩に目を通した勘定である(長短に関係なく、また連載の各回も一作と数えている)。このくらいのささやかな規模でも続けて観察してい

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第7回|人はそれぞれ頭のなかに疑似環境をもっている ウォルター・リップマン『世論』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第7回|人はそれぞれ頭のなかに疑似環境をもっている ウォルター・リップマン『世論』|山本貴光

 目下私たちは新型コロナウイルス感染症による困難のなかにいる。数ある困難のなかで、ここではそのうちの二つの点に目を向けてみたい。

 一つはウイルスの感染とそれがもたらす病の問題で、これは健康や生命に関わる。マスクの着用や消毒、人と接触する機会を減らすといった生活のさまざまな面での変化も、感染症への対策として生じたものだった。

 もう一つは、このウイルス感染症やそれに関わる医療情報その他について

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第6回|見えないものから森羅万象を考える ルクレティウス『物の本質について』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第6回|見えないものから森羅万象を考える ルクレティウス『物の本質について』|山本貴光

 この宇宙やそこに存在する森羅万象は、私たちの目には見えない小さな物質が集合してできている。こうしたものの見方を「原子論」という。

 いまではすっかりお馴染みのアイデアだが、ずっとそうだったわけではない。例えば、20世紀はじめ頃にはまだ原子論に反論する科学者もいたくらいだ。他方で歴史を振り返ってみると、原子論は古くからあるアイデアだった。古代インドや古代ギリシアに例がある。ここでは古代ギリシアの

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第5回|環境のなかで人間と病をみる ヒポクラテス『古い医術について 他八篇』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第5回|環境のなかで人間と病をみる ヒポクラテス『古い医術について 他八篇』|山本貴光

 トゥキュディデスと同じく紀元前五世紀から紀元前四世紀ころ、古代ギリシアにはヒポクラテスという医者がいた。現在でも「ヒポクラテスの誓い」とか「人生は短く、技術は長い」といった言葉で知られているかもしれない。

 これは伝ヒポクラテス、つまり本人がそう書いたかどうかは定かではないけれど、そう伝えられてきたという言葉だった。ときどき「人生は短く、芸術は長い」という形で記されることもある。技術と芸術では

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第4回|憶測から遠く離れて トゥキュディデス『戦史』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第4回|憶測から遠く離れて トゥキュディデス『戦史』|山本貴光

 いまでこそ、疫病の原因はウイルスや細菌の感染だと分かっているものの、そうした仕組みが気づかれる以前はどうだったのか。人びとは、疫病をどのように捉えていたのだろうか。古い例として、紀元前5世紀のギリシアを見てみよう。

 古代ギリシアの歴史家、トゥキュディデス(前460ころ-前400ころ)の『戦史』に恰好の記述がある(★1)。この歴史書は、トゥキュディデスが同時代の出来事として目にしたペロポネソス

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第3回|現実がゆらぐとき、物語は世界を照らす灯となる ボッカチオ『デカメロン』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第3回|現実がゆらぐとき、物語は世界を照らす灯となる ボッカチオ『デカメロン』|山本貴光

 日頃はとかく「役に立たない」と無理解にさらされることの多い文芸だが、このたびの新型コロナウイルス感染症パンデミック下では、過去の物語があらためて思い出され、読まれている。ボッカチオの『デカメロン』はそのひとつだ。

 例えば、『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』 による「デカメロン・プロジェクト」 をご存じだろうか。2020年の7月に公開されたものだ。

 同プロジェクトのウェブページを訪れ

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【連載】岩波文庫で読む
「感染症」第2回|パンデミック・シミュレーター カレル・チャペック『白い病』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第2回|パンデミック・シミュレーター カレル・チャペック『白い病』|山本貴光

 過去に書かれた小説や戯曲に触れて、まったく他人事とは思えないことがある。カレル・チャペックの『白い病』(★1)は、つい最近、そうした物語になった例である。

★1――カレル・チャペック『白い病』(阿部賢一訳、岩波文庫赤774-3、2020)

 カレル・チャペック(1890-1938)といえば、チェコの作家にしてジャーナリスト、あるいは批評家であり童話作家でもあった多彩な人。日本でも『ロボット(

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【連載】岩波文庫で読む
「感染症」第1回|古典の小宇宙に問いかける|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第1回|古典の小宇宙に問いかける|山本貴光

 なにかのテーマについて考えたり書いたりする必要が生じると、とりあえず岩波文庫の棚 の前に立ってみる。

 全部を揃えるには至っていないものの、この二十余年、毎月の新刊と、折々に遭遇した既刊書を手に入れて読んでいるので、それなりの冊数になっているのだった。

 なぜそんなことをしているのかといえば、シリーズものの本を集めるのが好きだ というのは置いておくとして、学術の歴史に関心があるからだ。こ

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