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若い人へのアドバイス

これは、小学校~大学で学んでいる学生や、それくらいの年齢……10代~20代前半の人に向けた話だ。
私がそのくらいのときにやっておけばよかったな、と思い返しながら考えたことだから、成功体験ではないけれど、大切なことだ。奇を衒ったことはなにもなく、一般的な、普通の話を書いているだけだ。
なるべく簡潔に書こうと思う。

好きなことを見つけること

これがいちばん大切でいちばん難しいことだ。たぶん、人生には、「あがり(あるいは、人生ゲームのスタート)」に入れる方法が二つあって、それは、「適職を見つけて生業にすること」と「好きなことを見つけてそれに取り組む体制を整えること」だ。適職を見つけることについては、割愛する。ついでにいうとここでいう適職とは、続けることができる職業ということだ。
とりあえず、好きなこと、熱中できることを見つけた方がいい。それは友達を作るよりも大切だ。人生で、本当の親友はほとんどつくれない。若いころの友達でも、その後つきあい続けるのは数人くらいだ。好きなことに取り組んでいるときに出来た友達は、その数人に入るかもしれない。好きなことを共有できるかもしれない。
好きなことを見つける。これは大変だ。君たちは、私よりは多くを知っているかもしれないが、まだ若いので、ほとんどものを知らない。何かの価値にとつぜん気づいたり、信じていたことに幻滅したことも少ない。だから、まだ本当に好きなことを見いだせるとは限らない。けれど、私が生きなおすなら、まず好きなことを見つけるために生きたいと思う。だからこういうふうに勧める。
好きなことは、人生を豊かにするのだろう。生き方に方向を与えて、統一させるのだろう。きっと君は後悔せずに生きることができる。後悔するとしても、全力を出した結果の後悔だ。それは、何もしなかった後悔とは違う。
けれども、君たちは好きなことをまだ見出すのが難しいだろう。そこで、そのヒントになりそうな習慣を教える。

好きなことを見つけるための習慣

まず、何かを自分に入れなくてはならない。それは体験、知識、技術などだ。
私は、まず音楽を聴くことを勧める。音楽を聴くことは素晴らしい。聴くことが嫌いならしなくてもいいが、好きでも嫌いでもなければ聴くのがいい。気分を落ち着けたり盛り上げたり、言葉かそれ以上の感情や印象を与えてくれる。もし、聴いていくうちに、音楽を演奏したり歌ったり作ったりしてみたいと思ったら、やってみるといい。私の経験上、音楽の才能がない人はいない。才能がないように見えるのは、あまり好きではなかったり、方法やジャンルを知らなかったりするだけだ。聴いて聴いて聴いて、広く深く知れば知るほど、音楽は才能の世界ではないことがわかる。方法やジャンルを限定したとき、才能や天才が現れる。
また、本を読むのもいい。これにはいろいろな効能がある。言葉の面白さがわかる。物語の楽しさがわかる。きっかけとなる知識を得ることができる。言語や社会のルールがわかる。そしてこれらの逆もわかる。本は何でもいい。具体的な書をあげることはしないが、私が生きなおすなら、もっと体系的に、着実に本を読んでみたい。ただ、君たちの本の選択と読み方を限定することは、私にはできない。いろいろな読み方があるだろう。音読することで、音楽と言語の関係がわかる。文字を丹念に見つめることで、美と記号の関係がわかる。文脈と論理を追うことで、言葉の意味と構造がわかる。
そして、私があまりやってこなかったからこそ、勧めたいのが、さまざまな絵画や、映画や、彫刻などの造形美術・映像芸術を見ることだ。おそらくこういったものをよく見ることは、人生を豊かにするのだろう。見る目を鍛えることは、感性を養うだけではなく、社交や仕事の役に立つ。私は、特に視覚における美意識というものには、一定の常識的なコードがあることにいつからか気づいたが、それは学んでいくものらしい。造形においては、天才とか才能というものがはっきりあるのかもしれない。
スポーツに取り組むのもいい。一生熱中できるほど好きになるかもしれない。

しないほうがいいこと、しなくてもいいこと

あまり、道徳のことで悩むのはやめよう。若いときに、仕方ない事情があるなら別だが、道徳や社会を気にしすぎないほうがいい。とくに思春期を過ぎてもずっと「いい人・いい子」でいるのは、勧めない。物事には振れ戻しがあるからだ。無理に反抗しろとはいわないが、少し疑念を持つくらいが健康にいいのだろう。
やめたほうがいいのが、人を楽しませたり、笑わせたりしようと必死になって生きることだ。君がいかに面白くても、道化や、自虐もしないほうがいい。自分を自分でぺちゃんこにしないことだ。他人にぺちゃんこにされたら、見返したり、復讐したり、恨んだり、いろいろと方法があるが、自分に対してそうすることは出来ないし、いいことはない。こういうことに熱中したらどういう人間が出来上がるかを知りたければ、その過程を克明に書いた小説がある。太宰治の『人間失格』だ。読まなくてもいいが、もし君がこの小説を読んで、暗い気分になったりするだけならまだいいが、スッと自分のことのように自然に受け入れられるなら、もう少し他人にとって面白くない人になったほうがいい。私は生きなおすなら思いっきりイヤなヤツになりたい。憎まれっ子になりたい。逆説ではなく、そのほうがはるかにいい。自分に正直に生きるべきだ。人を笑わせ楽しませることが正直な感情だというのなら、それが君の好きなことなのかもしれない。けれど私は勧めない。その理由は様々にあるが、割愛する。若いころは思い切り暴れて、大人になって数人の親友と笑いながら語り合えたほうが、幸せだと思う。
嫌いなことを無理にすることはない。我慢しすぎることはない。事情があるならともかく、無理に歯を食いしばって生きることはない。これは、道徳や、笑わせることにもかかわる。ノリ悪く、少しワルに生きるのがいちばんいいだろう。
生とか死について考えすぎるのも勧めない。こういうことを考えたくなるかもしれないが、別に若いときに考えなくてもやっていける。むしろ考えすぎて生や死が嫌いになるよりは、何か別のものに触れたり勉強するほうがいい。

とにかく伝えたいこと

君たちは、何も知らない。まったく知らないといっていい。とにかく、何とかして好きなことを探し、見つけたら、それに向けて歩いていけばいい。若いうちは、誰かのために生きてはいけない。誰かに忖度して生きてはいけない。誰かを君の優しさに甘えさせてはいけない。君は家具ではない。君はオアシスではない。君は誰かにとっての君ではない。君たちにはそんなことよりすることがある。好きなことについてだけ学び、知り、生きていければいいし、仕事についたら、それについて覚えて働いていけばいい。君たちには、余計なことをしている暇はない。しかも、大切なことは、つまり好きなことは、自分で見つけないといけない。好きなことに嘘をついてはいけない。好きなことを嫌いになってはいけない。好きなことから逃げてはいけない。好きなことをなんとなくのままにしておいてはいけない。そのために、好きなことをまず知らなくてはいけない。好きなことを毎日の中心にしていければ、君はどれだけ幸せだろう。私はそういうことを若くなくなってから知って、わかった。だからこそ君に向けて書いておくんだ。

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