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『人生万景』イサオヒロミ

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イサオヒロミの『人生万景』です。 仕事やプライベートで感じたことを書きまとめています。
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#イラスト

『大昔から、僕らは夜空を旅している』〜人生万景〜

『大昔から、僕らは夜空を旅している』〜人生万景〜

その日、小堺一機さんはお休みだった。
演出家助手の男性が代役を演られた。

エピローグでその方が声を詰まらせた。
台詞が自分の心境と重なったのだろう。

誰もが一生懸命がんばって、何かまともなものになろうとしている。
その方は僕であり、皆でもあった。

泣いてもいるけど。物語を進められるのはこの方しかいなかった。終わらせられるのも。

僕達は静かに見守った。

手に持った台本を読んでいるだけなのに

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『シティハンターの、ってなに?』 〜人生万景〜

『シティハンターの、ってなに?』 〜人生万景〜

本屋で一人の男性客(40代前半)がレジの前で「シティハンターのください」と言った。
奥の棚から下敷きのようなものを店員さんがささっと抜きとり、素早く男性客に手渡した。
……裏メニュー? 店員さんが無言+あまりにもささっとその男性にブツを手渡したもんだから。見てはいけないものを見てしまったような気になった。
駅ビルでおにぎりを7個買って、商店街を歩いていると、さっきの男性客が不動産屋の前で賃貸情報

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『生きていても、死んでいても。』 〜人生万景〜

『生きていても、死んでいても。』 〜人生万景〜

お世話になっていた先輩が亡くなった噂を聞いた。本当かどうかはわからない。でもきっと本当だと思う。信じたくはないけど。本当だと思う。そんな気がする。

あそこに行って、そこで訊いてしまえばちゃんとしたことが判ると思うんだけど。行っていない。行けていない、じゃなくて、行っていない。これからも行かない。行っちゃうと本当が確定になっちゃうから。

時々、先輩が住んでいた家の近くを通ることがある。わざわさ通

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『責任者』 〜人生万景〜

『責任者』 〜人生万景〜

デパートの上の本屋で立ち読みしていると、「羽生結弦の本あります?」と如何にも金持ちそうなお婆さんが、本の整理をしていた男性店員(20代前半)に声をかけたのが横目に入った。
意外にも近くに羽生結弦特集というかフィギュアスケート特集みたいなコーナーがあり「あ、羽生結弦が書かれている本はこれと……これ……もですね」とお婆さんに羽生結弦の自伝本みたいなやつと羽生結弦が表紙の雑誌を手渡した。
「ねえ、ちょっ

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『待ち合わせ』 〜人生万景〜

『待ち合わせ』 〜人生万景〜

原宿駅で待ち合わせだなんて。どれくらいぶりだろうか。しかも竹下通り口だなんて。記憶にない、くらいない。ないのかも。待ち合わせしたことなんて。ここで。

……いや、ある。あるような気がする。思い出せないだけで。まだ竹下通りを歩いても許される年齢のときに。

大人になったら忘れてしまうようなネバーランド的なあれなのかもしれない。ここは。
……いや、ウェンディは憶えていた。大人になっても。実写版のやつで

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『罠』 〜東京万景〜

『罠』 〜東京万景〜

撮影の空き時間に、インドなのかタイなのかそれっぽいショップにふらりと入ってみた。

からんころん。

見るからに個人店。入ってみると、予想したよりもかなり小さい店内だった。

「これ私も10年以上使ってるやつです」

ラクダの上でヨガやったことあります、って言いそうな女性店員が話しかけてきた。

(私も? っていうか話しかけてくるの早すぎん? まだお店入って15秒とかで?)

「私のちょっと触って

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