さけおにぎり

色々な文章を書いてます。多種多様を心がけています。

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マガジン

  • 短編小説

    生きることの難しさについての短いお話集。

  • 【小説】異能者たちの最終決戦

    特殊な能力を持ってしまった人たちはその能力を見せびらかすこと無く、ひっそりと日常に暮らしていた。彼らは能力に戸惑い、翻弄されながら運命に動かされ世界と対峙する。

  • Vtuber関連のコラム

    主にホロライブに関する考察記事です。

  • 【推理】ホロライブ事件簿【ホロぐら風】

    二次創作です。楽しんでいただければ幸いです。シナリオです。

  • 最強の体調術

    最強の体調を手に入れよう。

最近の記事

【短編小説】不思議な猫

繁華街の路地裏の小さな社の前で寝転ぶ猫。小柄な女性が小さくしゃがみ込んでファインダーを覗いている。近くの喫茶店の従業員らしいエプロンをつけた若い男が彼女の横を不審な目で窺いながら通り抜ける。男に染み付いた料理の匂いが鼻を刺激したのだろうか、猫は鼻をたて興味深そうに目で追う。女も誰かが後ろを通ったのは匂いでわかった。だが、猫のしぐさが一瞬変わるのを逃さなかった。素早くそして機械的にシャッターが押される。飲食店の制服を着た男、彼を追う猫の横顔がフレームに見事に納まる。会心の作だと

    • 【#39】異能者たちの最終決戦 五章【責任】

      2 翌日、カオルがこのヒットは見込めないだろう映画の仕事をやらせてくれと言ったときにマネージャーの田辺はこう思った。 (この仕事はカオルのキャリアを大きく変えるかもしれない。もちろん、いい方の意味で) カオルは笑顔で、全力で取り組みたいと語った。マネージャーは彼の本気に触れ、感動をしたようだが、何がそこまで彼を奮い立たせているのか正直ピンと来ていなかった。この作品の探偵役は、これまでの相馬カオル像とはかけはなれていて、確かに演技のしがいがありそうな難しい役で、それが評価

      • 【#38】異能者たちの最終決戦 五章【誓い】

        五章 1 アフターダークの主演のオファーは原作の著者の強い要望だという。相馬カオルはマネージャーの田辺からその話を聞くと、原作小説を渡された。カオルはその話を素直に喜んで、その場でこの仕事を受けたいと伝えたが、マネージャーはこれまでの君のイメージを損なうかもしれないから、読んでから決めて欲しいと言った。カオルは渡された本の気味の悪い蝿の表紙を見て、そうれもそうだなと思い、自宅で読むことにした。 彼はリビングのソファで恐怖に慄きながら読んだ。そこに書かれていることが信じら

        • 【#37】異能者たちの最終決戦 四章【叫び】

          12 『「君は蟲を飼っていると言うのかい?その体の中に?」  「じゃなかったら、あんなに牛丼食えるわけないでしょ?」 探偵は、過食症を蟲と彼女が表現しているのではと疑った。しかし、少女はそれを見透かし、無表情に彼の前に立ち上がって、白いパーカーを胸の下までめくりあげた。白い肌の腹部が露わになった。それは細く、華奢で、大盛牛丼5杯分が収まっているようには到底見えない。 「どう?」 「わ、わかったよ」 探偵は顔を背けた。だが、彼の思考は何らかのトリックや罠が隠されているの

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        記事

          【#36】異能者たちの最終決戦 四章【大食いの女】

          11 『会計を済まし店を出ると、女は背中を向けて立っていた。永井は女が待っていることに期待はしていなかったが、なんだかほっとしたような、裏切られた喜びのような気持ちになり、女の横に立ち言った。 「すごいね君。大食いで有名な人かなんかなの?」 「つまらないこと言うなら、帰るわ」 「じゃあ何を聞けばいい?」 「いくらで私を抱けるとか」 「さっきも言ったけど、牛丼大盛五杯食べる君の胃袋には興味があるが、性的な興味は一切ないし、しかも君は未成年にみえる」 「じゃあ事件の

          【#36】異能者たちの最終決戦 四章【大食いの女】

          【#35】異能者たちの最終決戦 四章【予言書】

          10 『永井翔太郎は捜査の当てもなく深夜の渋谷をさ迷っていた。歩き疲れ、さらに空腹に耐えきれずに、目についたチェーン店の牛丼屋に入ることにした。店内に入るとピンク色の大きなヘッドホンをした明らかに10代の女の客が一人目についたくらいで、その他は若い店員が独りだけ奥にいて閑散としていたが、何か異様な雰囲気を感じた。女から店員用の通路を挟んだ斜め向かい側のカウンター席に座り、店員を呼ぼうと厨房にいる青年の顔を見ると、なにやら困ったような表情をこちらに見せる。彼はトレーにどんぶり

          【#35】異能者たちの最終決戦 四章【予言書】

          【掌編小説】口紅と零戦乗り

          僕の祖父は酔った勢いでよく自分の青春時代を語ってくれた。僕がまだ一人で寝るのが恐い年の頃、祖父がしらふの時に何度訊いても、アブを払う牛の尻尾のごとく、僕を相手にしなかった。でも、祖父が酩酊し語り始めると、真面目な聞き手は僕ぐらいしかいなかった。そういうときの祖父は家族から、唯の虚言癖の老人としかみなされていなかったからだ。確かに、祖父の話は聞く度に登場人物は一変し、結末はいつも異なっていた。死んだはずの人間が生き返り、栃木の話が鹿児島に変わったりするのはしょっちゅうだった。し

          【掌編小説】口紅と零戦乗り

          【掌編小説】パイナップルピザと肺呼吸

          ピザにパイナップルを乗せるのは是か非かという議論がある。俺はどうでもいいが、母はパイナップルが乗っているピザの存在すら知らなかった。つまり問題を知らなければ議論を必要としないのだ。 母はこういうことがよくあった。政治の不正、汚職のニュースを俺が母に振るとお金や名誉を欲しくてやったんでしょ?彼らにとってそれがやりたいことなら、やらせてあげればいいと言った。最初それを聞いたときニヒリズムのように聞こえたが、母は本心でそう思っていた。振り返れば俺は小さいころから母に何かを咎められ

          【掌編小説】パイナップルピザと肺呼吸

          【#34】異能者たちの最終決戦 四章【焦燥】

          9 さなえは恐ろしくなった。ページをめくる度、そこに自分の名があるのではないかと怯えた。紙椿さなえという文字がないか見開き全体を見渡してから読み始める。恐怖を感じながら読み進んでいたが、ページを繰る手が止まらなかった。自分が名が出ないことを祈りながら、そして断罪されない事を確認したかった。もしそうであったらと想像するのは地獄の門を開き、中を覗き見るようなものだった。突然彼女の携帯から通知音が鳴った。ビクッとして、携帯を見た。本にしおりを挟み、立ち上がった。なんだか頭がボーっ

          【#34】異能者たちの最終決戦 四章【焦燥】

          【エッセイ風小説?】オタク青年が語るギャル論

          僕は学生でいろんなところでバイトをしたのだが、大体そこの大人の人に 「君、オタクでしょ?」 「アニメとか好きでしょ?」 とか言われるんだけど、太宰や三島、ダブル村上を読んでた文学青年きどりの僕は、否定も肯定もすることなく、ただ顔に曖昧な表情を浮かべる。相手側は僕がそう言われ怒ったのか、あるいはオタクを自認したくないと考えたのか、オタクの複雑な感情に配慮して話題は変更されるか、ご機嫌取りにオタクのリトマス試験紙として、その時世間で話題になったアニメの批評を求めてくる。例え

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          【掌編小説】深夜のサウナ、ゲイの友人と

          真夏に停電が起こり、エアコンが止まり室内がサウナのようになって地獄だったという話はよくあるが、サウナに入っている時に停電が起こるケースはなかなか珍しいのではないか。私はまさにそのケースを経験したのであった。しかも、その時、困ったことに私に特別な気持ちを抱いていると思われるゲイの友人と二人きりだった。 ゲイの友人は酒井ノボルという名前の元ラガーマンで、同じジムに通う筋トレ仲間だった。酒井は身長179センチ、85キロで、私より6センチ、10キロ大きい。彼の腹筋はシックスパックが

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          【#33】異能者たちの最終決戦 四章【奇妙な符号】

          8 さなえは本屋で「アフターダーク」を手に取り、その表紙のグロテスクさに一瞬ためらった。女子高生の自分が読むには不適切な本に見え、店員に奇異の目で見られないかと心配になった。ハエがこちらを睨みつけ、不快な羽音を立てているかのようだった。意を決して裏表紙を上にしてカウンターに持っていくと、無表情な男性店員がレジを打ち、カバーを付けるかどうかを尋ねた。さなえが小さく「はい」と答えると、店員は手慣れた様子でハエの表紙を茶色の紙で包んだ。さなえはほっと胸をなでおろし、代金を支払って

          【#33】異能者たちの最終決戦 四章【奇妙な符号】

          【掌編小説】夏の日曜午前10時、喫茶店で

          日曜の朝、カーテンを開けて顔を洗い歯を磨きながら(ちなみに私は10分ぐらい時間をかける)、喫茶店『樵の家』に行ってアイスコーヒーを飲むことを断固決意した。そして、買ったばかりのジョン・アーヴィングの本『第四の手』を読む。私にとってそれは何よりも効く精神安定剤で、この瞬間たまらなく欲している行為だ。今、私の精神は赤ランプが激しく点滅を繰り返し、その危機を知らせ、私に即座の治療を急かしている。私は歯を磨きながら店内に居る自分を想像する(今は上の奥歯を念入りに磨いている)。入り口か

          【掌編小説】夏の日曜午前10時、喫茶店で

          【掌編小説】台風の夜に

          台風が上陸している。窓ガラスを打つ雨。吹きすさぶ風の音。それらの強弱はリズムを拒否し、予期しなく、安全な屋内にいる私達の心を少しざわつかせてはまた去って行き、常にその訪れを予感させながら、私達はその雨音に耳を澄ます。 私は台風が来るとあの日を思い出す。私が小学生の頃、2年生の時だ。子供の頃の記憶でそれがいつだなんて覚えていない私だが、これだけははっきり憶えているというより、後で話すがはっきりとした『ある事実』から逆算して解っていることだった。 両親は共働きだったが、その日

          【掌編小説】台風の夜に

          【掌編小説】愛し方、忘れ方

          僕は3年前に死んだ彼女の墓参りに来ている。僕は墓参りが好きだ。図書館の次に好きだ。そこはいつも静かで、下品な笑い声は聞こえないし、品定めするような目で見てくる輩もいない。だが盛夏の太陽光線にはノックダウンされつつある。 山を切り開いた場所にある霊園は、生きている森を殺し、人間の死者を葬るという矛盾した存在。なぜ殺生を禁ずる仏教の坊さんがこういう存在を許すのかは謎だ。僕は周囲にある青々とした木々を見渡した。強い日差しを浴びて気持ちよさそうに葉を微風に揺らしている。御影石の下に

          【掌編小説】愛し方、忘れ方

          【掌編小説】コンサートはいつも少し遅れて始まる

          僕は会場から少し離れた公園で彼女を待っていた。だだっぴろい駐車場が隣接し、ときおり遠くから海の風がそこから強く吹きぬけてゆく。夏は終わりを迎え、陽の傾きとともに秋の予感が埋め立て地の都市の風景に影を落とし始めている。公園には僕のように誰かを待っている人らがちらほらいたが、だんだんと少なくなっていき、今は自分一人だけ。携帯を見ると開演まで5分を切っていた。でも僕は焦ってはいなかった。これから始まるコンサートはいわゆるプログレッシブ・ロックのバンドのワンマンライブで、きまって一発

          【掌編小説】コンサートはいつも少し遅れて始まる