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【#37】異能者たちの最終決戦 四章【叫び】

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『「君は蟲を飼っていると言うのかい?その体の中に?」
 「じゃなかったら、あんなに牛丼食えるわけないでしょ?」

探偵は、過食症を蟲と彼女が表現しているのではと疑った。しかし、少女はそれを見透かし、無表情に彼の前に立ち上がって、白いパーカーを胸の下までめくりあげた。白い肌の腹部が露わになった。それは細く、華奢で、大盛牛丼5杯分が収まっているようには到底見えない。

「どう?」
「わ、わかったよ」

探偵は顔を背けた。だが、彼の思考は何らかのトリックや罠が隠されているのではないかと働き続けている。彼は不器用に戸惑う大人を装い言う。

「信じるから、服を下げなさい」

しかし、少女は服を下げるどころか、脱ぎ始めた。さすがにこれには探偵は焦りだす。事務椅子に座る探偵の腰に白のパーカーを投げ捨てられ、彼の鼻に香水の匂いがふわっと触れる。

「おい!君やめなさい!」

永井はすぐにパーカーを掴んで立ち上がり、女の方を向いた。小さい乳房が見えた。彼女はブラをしていなかった。上半身裸でうつろに立っている。青白い蛍光灯の下、その白い肌は死体のように見え、不吉な印象を与えた。永井は目を伏せ、パーカーを彼女の胸に押し付け言った。

「着なさい!馬鹿な真似はよせ!君!」

少女は冷たい表情のままで、服を取ろうとしない。目は虚空を見つめている。

「そういえば私、名前言ってなかったよね。ユウミっていうの。君って言わないでくれる?そう言われるの嫌いだから…」

今やもう探偵は完全に動揺し、数々の事件を解決に導いた鋭敏な頭脳は働きを失っている。

「わかった。ユウミ、頼むから服を着てくれ」

探偵は懇願する。
少女は人形のように表情を変えない。

「ねぇ、探偵さん、死んだ友達の名前知ってる?」
「知ってる。ミナトだろ?でも、本名は知らない」
「教えてあげる。…カオル。紙椿カオルっていうの…」』

紙椿さなえは叫び、本を乱暴に閉じた。


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マガジン 異能者たちの最終決戦


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