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【#34】異能者たちの最終決戦 四章【焦燥】


さなえは恐ろしくなった。ページをめくる度、そこに自分の名があるのではないかと怯えた。紙椿さなえという文字がないか見開き全体を見渡してから読み始める。恐怖を感じながら読み進んでいたが、ページを繰る手が止まらなかった。自分が名が出ないことを祈りながら、そして断罪されない事を確認したかった。もしそうであったらと想像するのは地獄の門を開き、中を覗き見るようなものだった。突然彼女の携帯から通知音が鳴った。ビクッとして、携帯を見た。本にしおりを挟み、立ち上がった。なんだか頭がボーっとして疲労を感じた。玲香からのメッセージだった。長澤麻里の事務所が銃撃されたというニュースのリンクを貼っていた。ニュースサイトには本日未明にスープレックスのエントランスで発砲が起き、銃弾三発が扉にめり込んだ状態で見つかったと報じていた。被害者はいなく、警察は防犯カメラの映像を確認し捜査しているという。さなえはこのニュースを見ても上の空だった。玲香に麻里の心配する返信をしたが、気持ちは入っていなかった。ただ疲れていた。階下に降り冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しコップに注いだ。一口飲むと甘味が口内に拡がり、気持ちが回復するのを感じた。もう今日は本を読むのをやめて、休もうと考えた。

翌日、さなえは学校に小説を持ってきていた。朝、机の上に本を置いて行こうとしたが、何か重い感情が頭をもたげ鞄に忍ばせることになった。彼女はそれを不安からくる行動だと考えた。人目に触れられたくない危険なものを身近に置きたいという心理からくるものと思うようにした。学校や電車内で読むつもりは一切なかったが、鞄の中から体操着を取りだそうと一旦邪魔な本を机に置いていたら、紗耶香の好奇心に見つかってしまった。

「本読んでるんだ。見てもいい?」

人懐っこい笑顔に、さなえはつい同意してしまった。本を開くと何か小さな驚きの表情を一瞬見せた。紗耶香は麻里の親友だから、きっと映画の話はすでに聞いてるんだなと考えた。

「面白そうだね」

と言いニコッと笑い本を返す紗耶香。さなえはぎこちなく笑顔を作り受け取る。さなえは妙なところで接点が出来てしまった事に皮肉を感じた。本を鞄の奥にしまい込み、どうせならこの機会にあの事件のことも聞いてみようと思った。

「事務所が銃撃されたって聞いたけど、紗耶香は何か聞いている?心配なんだけど」

「麻里は大丈夫って言ってるけど。事務所にはあまり行かないからって」

「そうなんだ。でも怖いよね」

「安心して!麻里には絶対危害はいかないから」

「?」

さなえは何故彼女がそんなことを言えるのか不思議がった。紗耶香はそんな表情を見て取り急に慌てて、事務所の人がそう言っていると訂正した。それでもさなえには納得できない気持ちが残った。でも、銃を持っている人だよ?いったいどうやって絶対を保証できるのかと。さなえは議論するつもりはなかったし、紗耶香の言葉には妙に自信がこもっていたので、簡単に返事をしてその話は終わりにした。

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