大学院に入る、その前に
大学院入学を考えている人は、大江健三郎の『個人的な体験』(1964)を読んでみるといいかもしれない。
自分は主人公のようにはならない、と言い切れるだろうか?
「主人公のように」とは、どういうことか説明しよう。
この小説の主人公は、学者を目指して大学院に入ったものの、酒に溺れて不登校になり、結局中退して予備校講師になるのだ。
自分は初志貫徹できるかどうか、入学前に今一度、考えてみるのもよいだろう。
もちろん、予備校講師も立派な職業だが。
ところで、大江氏のデビュー作は「奇妙な仕事」(1957)である。
東大文学部在学中の作品だ。
そこに登場する「私大生」という人物が、今では作者によって「院生」に書き換えられているそうな。
どういう意図かは判然としないが、推察するに、どこか宙ぶらりんで将来が不透明な存在を、「私大生」なり「院生」なりに仮託したものと思われる。
現代の大学院生はそういう面があるし、執筆当時、東大生だった作者から見れば、私立大学の学生もそうだったのだろう。
宙ぶらりんで将来が不透明でも頑張れるかどうか、今一度ご検討を!