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HORSE FROM GOURD

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2017年9月の記事一覧

本当

本当

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「イイダくん、今のわたしたちのバンド、全然好きじゃないでしょう」
「え」
 デミオの前を、老人の集団がゆっくりと横切っていく。介護士らしき若い女が、手を振り回して老人たちを急かしていた。
 すべてがスローモーションだった。
 助手席のクドウさんの

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knock knock

knock knock

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 両手で耳を塞いでから、人差し指で後頭部を叩くと、耳鳴りが消えるんだって。
 これのすごいところは、耳鳴りがしていないと思っている人にも効果があるんだ。俺もやってみたんだけど、すごく静かになるよ。まるで土に掘った穴の中にいるみたいに。
 Yはや

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小鳥

小鳥

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 劇場で映画を観て、わたしはスクリーンの中の人たちと同じように大切な人に先立たれてしまって悲しい気持ちになる。ぎゅっと、胸を苦しくする。映画は終盤に差し掛かってハッピーエンドに向かっている様子で、画面の中にいる残された人たちはきっとこれから強く

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溶ける呪い

溶ける呪い

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 神戸で大学生をやっていた頃の話だ。

 男が料理するのは、黒魔術みたいに手の込んだ煮込み料理だけ。

 誰かがそんなことを言っていたことを思い出しながら鍋をかき混ぜる。確かにそうかもしれないな。逆に言えば、手の込んだ料理「だけ」を作る女はいない

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洗浄

洗浄

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 自分がじっとしていても、電車はどこかに自分を運んでくれるのだなあ、すごいなあ不思議だなあと思いながらぼんやり窓ガラスの向こうのビルを眺めていると、横に座った変な男に声をかけられた。
「イヤホンを片方、貸してくれないか」
 うっすらと無精髭を生や

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一瞬の光

一瞬の光

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「逃げろったってねえ」
 はははと恋人は笑った。「どこによ?」
 手の中の携帯電話が、逃げろ逃げろと言い続けていた。
 わたしは何だか結構冷静で、ああ死ぬときってこういう感じなんだなと思った。どうしたらいいんだろうと思いながらぼんやり携帯電話の画

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We Dance

We Dance

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 大学に向かって必死で自転車をこぐ。古いカートゥーンの表現みたいに、自分の両足が渦巻きになっている滑稽な姿を思い浮かべる。息が苦しい。苦しいのにやめることができない。
 時々わたしは、何が自分を駆動させているのかわからなくなることがある。あるとす

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午前二時

午前二時

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 ハザマは夜中の二時を愛している。

 それは偏愛と言っていい類のものだ。毎日わざわざその時間まで起きておいて、二時そのものを撫で回したり手のひらの上で転がしてみたりするわけではないが、夜中の二時になると何故か心が安らいだ。時計の針が二時を指して

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ネオ・カンガルー日和

ネオ・カンガルー日和

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 めまぐるしい日々が続いていた。
 僕は大学の仕事を辞めて、地元の小さなデザイン会社に再就職したところだった。友達がようやく軌道に乗せた会社で、猫の手も借りたいくらい忙しかった。十六分音符が並んで真っ黒になった楽譜を目で追っているみたいだった。忙

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