
著…三宅香帆『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文』
推しカップリングを見つけると、古文はもっと楽しくなる…という本です。
たとえば『枕草子』『源氏物語』『伊勢物語』『更級日記』『万葉集』といった著名な古典文学の面白さについて、共感しやすい文体で紹介してくれます。
まるで、カフェでお茶をしながら友達に「〇〇が面白いよ!」とおすすめ作品を教えてくれるかのような親しみが感じられます。
わたしも学生の頃にこの本と出会いたかった…!
「古文=難しいもの」という先入観があるから難しいのであって、「古文=今も昔も変わらない人間の気持ちを綴ったもの」と気づけば、どれほど感情移入できたことでしょう。
そうしたらきっと古文の成績はもっと上がったのに…!
しかし、大人になった今からでも遅くはありません。
和歌の美しさも、登場人物たちの恋心も、今を生きる自分の糧に…というかはっきり言って萌えるための燃料に出来ます。
わたしが特に好きなのは、『枕草子』についてのくだり。
著者はこう言います。
『枕草子』は、中宮定子と清少納言の主従関係付きの百合物語。
清少納言は『枕草子』を読んだ人が中宮定子を好きになってくれるように、彼女の可憐さや聡明さ、そして彼女の周りの人々の宮中での華やかな様子を綴った。
言ってみれば、推しの素晴らしさを布教するために生み出されたのが『枕草子』。
だから、清少納言は物書きにとっては格好のネタであるはずの、中宮定子の一族のスキャンダルを全く書かなかった。
そして、物語のクライマックスとなるはずの、二人の別れすらも書かなかった。
これについて著者はこう考えています。
「書くものより書かないものの中に、作家性は宿る」
…と。
在りし日の煌めきをずっと留めておくために敢えて書かなかったのか?
それとも辛すぎて書けなかったのか?
恋だったのか、友情だったのか、それとも忠義だったのか?
真相は清少納言にしか分からないことですが…、そこに想像の余地があるのも『枕草子』の魅力の一つですよね。
わたしは、清少納言は彼女に永遠の命を贈りたかったのではないかと思います。
彼女の死を書きさえしなければ、彼女は永遠に物語の中で生き続けてくれますから。
そしてその美しさに惹かれた後世の人たちが、彼女がどんなに素敵な人だったか語り継いでくれますもの。
いつまでもいつまでも…。
〈こういう方におすすめ〉
古文を勉強中の方。
または、「久しぶりに古典文学に触れてみたいが、まずは堅苦しくなく、気楽な読み物から始めたい」と思っている方。
〈読書所要時間の目安〉
3時間くらい。
いいなと思ったら応援しよう!
