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豆本『航海記』が紡ぐ“あなたとわたしの物語”(東京都恵比寿・山小屋ブックス)

恵比寿にある小さなアートギャラリー「山小屋」では、11月10日(日)までブックアーティスト赤井都あかいみやこさんによる豆本『航海記』の展示が行われています。

深い青に染められた和紙の扉を開くと、活版印刷の温もりを宿す文字で綴られていたのは、海の上でひとり舟を漕ぐ人たちの、孤独と希望が交錯する物語でした。美しい情景描写と内省的な文章に引き込まれるようにページを捲っていくと、いつの間にか自分もこの本の中のひとりになっていることに気づきました。

『航海記』(海の窓装)
活版印刷で刻まれた文字とイラスト
ギャラリー内に設けられた読書席

『航海記』の作者である赤井都さんは、2006年にアメリカに本拠地を置く国際的な豆本コンクールで日本人初となるグランプリを受賞するなど、世界的に高い評価を受けているブックアーティストです。『航海記』は今から20年ほど前、豆本を作り始める以前に書かれた作品とのこと。

「AさんとBさんが出てくるような普通の小説よりも、“あなたとわたし”の物語のほうが豆本によく似合う」と赤井さんは言います。

本展を企画した山小屋の新谷佐知子さんは、「赤井さんの作る豆本は、それ自体が物語を表現する舞台装置である」としつつ、『航海記』に対する想いを次のように綴られています。

私は『航海記』と出会って、この本と生きていきたいと思いました。この物語は、私が私として生きていく道しるべになってくれる。
作者である赤井 都さんとともに、三年かけて新しい形の豆本『航海記』をつくりました。
今だからこそ作れる形や色になっています。

あなたの『航海記』と出会いにお越しください。
この物語は、多分あなたのものがたりだから。

本展に合わせて作られた『航海記』の装丁は3種類あります。すでにご紹介した「海の窓装」のほか、白い和紙のはこに入った「言壺装ことつぼそう」と、柿渋紙で包んだ表紙を紐で綴じた「雁垂装がんだれそう」が用意されています。

左から「海の窓装」「言壺装」「雁垂装」
「言壺装」は白い函を開けると、
マーブル模様の青い表紙が現れる

展示期間中は、装丁ごとに部数限定でオーダーを受け付けており、会場やこちらのオンラインショップから申し込むことができます。

「言壺装」と「海の窓装」の表紙に使用する和紙は、
手染めのため一枚ずつその表情が異なる。
オーダーの際は、好みの柄を選ぶことができる
活版印刷や和紙の染め付け、
本を綴じる様子などを写したパネル展示も
活版印刷の組版

また、来春の出版を目指して『航海記』の書店版を作るクラウドファンディングにも挑戦中です。特製グッズの贈呈や赤井さんのアトリエを訪問するグループツアーなど、魅力的なリターンがさまざま用意されているので、こちらもぜひご注目ください。

文・写真=飯尾佳央

▼クラウドファンディングの詳細はこちら

▼赤井都さんの作品をもっと見たい方はこちら
https://kototsubo.com/

豆本『航海記』のものがたり
赤井都×山小屋ブックス

会期:2024年11月1日(金)~11月10日(日)
   *11月5日(火)は休廊
時間:14時~19時
会場:gallery and shop 山小屋
*当初より会期が1日延長されました

赤井都(あかい・みやこ)
ブックアーティスト。自分で書いた物語をそれにふさわしい本の形にしたいという思いから、独学で初めて作ったハードカバー豆本で、2006年ミニチュアブックソサエティ(本拠地アメリカ)の国際的な豆本コンクールで、日本人初のグランプリを受賞(MBS book competition distinguished award winner)、2007年連続受賞。その後、10年間かけて、通常サイズの本の西洋伝統的手製本、デコール、書籍の修理と保存をルリユール工房などで学ぶ。2016年、9年ぶりの受賞、また2021年、2022年受賞。
著書に『豆本づくりのいろは』(河出書房新社)、『そのまま豆本』(河出書房新社)、『楽しい豆本の作りかた』(学研パブリッシング)。

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