ヘヴィ・メタルシーンを辿る旅 ver.6 / ブラック・サバスから始まるヘヴィな音の変遷 / メタル史:スラッシュメタル、、、スピードからヘヴィへ→怒りをぶつけたグランジへの流れ
70年代からの潮流
70年代ロックから、ヘヴィメタルへとつながる潮流は以下の2つ。
前者はメタルのテクニカル流れになり、後者はヘヴィメタルのヘヴィとメタルを象徴する原型となりました。
ここに、英国流の哀愁と叙情性、つまりは様式美を持ち込んだことで、ヘヴィメタルが完成するに至ります。
ヘヴィでメタリックなだけでは、ただただラウドな音の塊でしかありません。
しかし、ここに、叙情性が加味されることで、楽曲に厚みが増し、ともすれば、単調になりがちなヘヴィでメタリックな音に豊かな彩を添える事になりました。
振り返ってみると、、
60年代にビートルズの逆輸入によって、米国で発展したロックは、ジミ・ヘンドリクスによってブルーズのパワーごと英国に再度上陸。
そこでブルーズ熱に浮かされた英国人のグループの後続たちが、彼らの日常に流れていた風景をそのまま音に盛り込んでいった過程が、ヘヴィメタルに繋がる歴史だったわけです。
では、この英国で進化を遂げたヘヴィメタルのヘヴィさとはどういうものだったか。歴史を振り返ってみたいと思います。
ヘヴィとは
ヘヴィさの原型は、すでにブルーズの中にもありました。底辺の生活、なかなか豊かにならない日常の不満を歌ったのがブルーズで、すでに重い精神性を兼ね備えていました。
T-bone Walker- Stormy Monday
このブルーズの系譜にあるジミ・ヘンドリクスのパープルヘイズなどは、十分ヘヴィですね。
Jimi Hendrix - Purple Haze
そして、ジミを媒介としてこの精神性が英国の遺伝子とぶつかり合い生まれたのレッド・ツェッペリン。
このバンドにも以下のように、ヘヴィで陰鬱なタイプの曲が多数ありました。
(一方で、英国フォークも愛しており、フォークのシンプルさと、ブルーズ由来のヘヴィさと、超絶なドラムに代表されるグルーヴが同居していたわけですが。。)
Led Zeppelin - When the Levee Breaks
ブラックサバス(オジー・オズボーン時代)
この系譜の果てに。
こういった音楽を愛する面々がバーミンガムという昼夜を問わず工場の煤煙で覆われた、70年代英国の不況を体現するかのような重工業の街に、現れます。
彼らは、ブルーズ主体のバンドでしたが、ある日、とあるホラー映画に行列ができていることを目にし、「人は、わざわざ怖がるために、並んでまでそこに向かうのだ」ということを知ります。
そして、この恐怖をベースにして、音楽を奏で始めることを思いつきました。
彼らの伝説的なファーストアルバムは、1970年2月13日の金曜日、そう、13日の金曜日に合わせて発売されました。
デビュー作「ブラックサバス(邦題:黒い安息日)」
1曲めは、闇があたりを包み込む中、嵐が街に吹き荒れ、豪雨が窓を叩きつける、、どこかで鐘が鳴っている、、何かが起きる気配、、、そんな前奏から始まるこの曲。
Black Sabbath
そう、この曲が、ヘヴィメタルを司る、ヘヴィという音の原型です。
この原型にグルーヴ感や、印象的なリフをつけて発展させていった楽曲によって、この原型がさらにヘヴィな音として定義されるに至ります。
それはこんな曲たち。
Iron Man
War Pigs
多くのバンドたちがこの重さをモチーフにし、自分たちの音楽に取り入れていきました。
ここにジューダス・プリーストというメタルのメタリックな部分や、叙情性(ツインギターやメロディ、音の旋律)、そしてファッション的な部分の原型が登場。
ヘヴィさとメタリックさが重なり合って、ヘヴィメタルという音楽がここに姿を表します。
そして、プログレッシブロック由来の複雑でテクニカルな楽曲を取り入れたアイアンメイデンが登場することでヘヴィメタルは完全に音楽のジャンルとして定義されるに至ります。
まさに英国人によって、米国の音楽が改良されて、進化を遂げて、、ヘヴィメタルへと結実していったわけです。
ブラックサバス(ロニー・ジェイムズ・ディオ時代)
しかし、1970年代後半の、ニューウェーブの波に押され、この音楽は急速に萎んでいくことになります。
変わってメインに躍り出たのがパンクなどのあまり精神性のない音楽。
ここからNew Wave Of British Heavy Metalムーブメンが起きるのは、↓にまとめた通りです。
この1979年、80年のムーブメントが古き良きメタルやロックを復活させるわけですが、その中にブラックサバスもいました。
様式美満載のレインボーを脱退したディオを迎え入れたブラックサバスは、彼の加入と同時に、オジー時代にはなかった様式美を手にすることができたわけです。
そして1980年に発表されたアルバムは、ヘヴィさあり、メタリックあり、叙情性ありの3拍子揃った歴史的傑作となりました。
そのHeaven and Hellから何曲か。
ヘヴィの象徴 Heaven and Hell
メタリックの象徴 Neon Knights、Die Young
叙情性の象徴 Children of the Sea
そして、1980年代、ヘヴィメタルは米国に再度逆輸入する形となり、米国でボンジョヴィやヴァンヘイレンなどのハードロックブームを生み出していくことになります。
そのわかりやすいハードロックがメインストリームを歩む中、地下でNWOBHM直結の音楽を愛する面々が息づいていました。
彼らはこの英国メタルの音楽の遺伝子を受け継ぎ、長尺で、テクニカルで、さらに攻撃性を増した音楽を繰り広げていたのです。
ハードロック・ヘヴィメタルの歴史vol.6 〜スラッシュメタルの衝撃
そんな彼らの音楽をスラッシュメタルと呼びます。
このカテゴリ、バンドも千差万別で、
単に攻撃性だけを求めるバンドもいたし、後にファンクやヒップホップに向かうようなバンドもいました。
この例が
Slayer - Reign in Blood
Anthrax - Got the Time
ベースラインが素晴らしい。
ただ、英国メタル直結の哀愁と叙情性を忘れないバンドもいました。
こちらの例が、
Megadeth - Tornade of Souls
日本人の心を持ったギタリスト、マーティ・フリードマン在籍時は哀愁の宝庫。
Testament - Alone in the Dark
ギタリスト、アレックス・スコルニックのフレーズが素晴らしい。
そして、、
Metallica - Fade to Black
結果的に、この叙情性を兼ね備えたバンドの中で、メタリカが最も成功を収め、さらには、彼らの音楽性が、世界の音楽の潮流を動かすほどの影響力を持ち始めます。
90年代初頭、バブル景気に沸く日本を尻目に、アメリカでは資本主義の格差が露骨に現れ、デトロイドなどでは日本車を燃やすなど社会情勢が不穏になっていました。
そこに、湾岸戦争が勃発。冷戦崩壊後、初の戦争であり、戦争がテレビを通じて世界に放映されたときでもありました。ベトナムの第二世代の若者たちにとっては、それまでは、遠い向こうの世界でしかなかった戦争が突如目の前に現れました。
またこの後の米国を襲うITバブルの芽も生まれており、持てるもの持たざるものの区別が一層はっきりとしてきた時期。
もはや能天気でゴージャスな80年代の音の世界ではなくなっていった。。
そんな最中に、再び、地底にて新たな動きがありました。このどうにもならない思いを、怒りに変えて音楽にぶつけていった面々がいました。
70年代のオジーらブラックサバスは、不況の英国の底辺で、社会への不満を重い音に変換していた訳ですが、時代を経て、20年後、格差際立つ米国の底辺で、社会への不満を怒りに変えていったわけです。
彼らは70年代の原型を、特にヘヴィな原型を、そして、特にブラックサバスをその原型として崇めていたわけです。20年の時を経て、ブラックサバスのヘヴィさが新たに装飾を施されて復活を遂げた。
こんな彼らが地上に出るきっかけは、古き良き英国のメタルをもっとも体現しており、自身の音楽性を持ってさらなる高みに上り詰めていたメタリカの音楽性の変化でした。
そう、彼らは、もともとの住処だった地下の匂いを十分に感じ取ったのか、重くどんよりとした方向性に舵を切ります。そしてそんなムードのアルバムを発表。
この通称ブラックアルバムが世界を変えました。
様式美のかけらもないこのアルバムが世の音楽の流れを、重くどんよりしたものに変えました。
そして、地下から、あのバンド、ニルヴァーナが姿を現し、グランジというジャンルが生まれます。
ここにおいて、70年代〜80年代の哀愁と叙情性を兼ね備えた古き良きヘヴィメタル・ハードロックの息の根が止められることになります。
米国で、もっとも英国の音を体現していたメタリカが、彼ら自身の変化によって、彼らが最も愛した音楽に壊滅的打撃を与えてしまったのは、皮肉としか言いようがない。
Sad But True
悲しいけれどこれは現実
そして、ここからの90年代、2000年代はデジタル化の波と合わせて、もはや、ジャンル分けが意味をなさないようなグループやアーチストが多数出現しています。
でも、よくよく聞いてみると彼らの音楽にも70年代の原型が隠されています。ブラックサバスや、レッドツェッペリンのヘヴィやグルーヴの原型が。
Tool
マリリン・マンソン
願わくば、明るく楽しい音楽が満載だった80年代の原型が世に再降臨することを期待しつつ、、今回の記事を終えようと思います。
その後の、ブラックサバス(トニー・マーティン時代〜リユニオン)
80年代のブラックサバスは、おおまかには様式美を追求していきます。ボーカルはトニー・マーティン。
実はこの時期の完成度は、先のディオのいたときのアルバム並みに高く。。でも今は廃盤で、CD自体が高値で売られていますね。再発してくれないものか。。。
TYRというアルバムからLaw Maker
無茶苦茶かっこいい。
Cross Purposes というアルバムからCross of Thorns
ザ・様式美。
そして、世の音楽の潮流が、重く重く、さらに重くなっていくに従って、この音楽の愛好家が愛した70年代の重さの原型となったバンドへの待望論が沸き起こり。。。きっかけは、オジーのオズフェストだったと思いますが。
オリジナルメンバーのブラックサバスがリユニオン。
このヘヴィな音の原型を、現代を生きる我々に見せつけてくれました。
Children of the Grave
第6回、ヘヴィメタルの記事のラストはこの曲にて締めます。
70年代からの変遷を辿ってきた音楽というジャンルへの哀悼に満ちたようなこの曲を、最後に。ロックの歴史を振り返りながら。
Black Sabbath - Changes
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