ハード・ロックシーンを辿る旅 ver.4 / 怒りと重厚感の90年代音楽シーンと2000年代への流れ / ガンズ・アンド・ローゼスを起点として、、Stevie Ray Vaughanについても
90年代初頭までのハードロック界隈
LAメタルというジャンルは、1987年に70年代の原型を受け継いだガンズ・アンド・ローゼスの出現で終焉を迎えました。
これに歩調を合わせるかのように、ガンズのメンバーたちのあこがれ=70年代の原型、だったバンド、エアロスミスやキッスも息を吹き返していきます。
80年代はどちらかというと、メタル的な哀愁のハードロック(LAメタル)や、ニューウェーブのノリを取り入れた、いわば能天気なアメリカンハードロック(ハードロックの大衆化)が、隆盛を極めていました。
反面、90年代に入るころには、前述のガンズ・アンド・ローゼスなどのように70年代の原型が復活します。
つまり、ブルーズを主体としたロックが復興してきたわけです。
スティーヴィー・レイ・ヴォーン~ブルーズ主体のロックの復興の旗手
スティーヴィー・レイ・ヴォーンというブルーズのギタリストが表舞台に登場したのは83年の事。
デイヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」にギタリストとして参加、そこで聞くことのできる個性的なメロディが注目を浴びました。
ここからもわかるように、彼自身はハードロックではなく、ブルーズロックといった趣でした。
彼の登場が、この先90年代初頭へと続く、ブルーズ(装飾控えめ、粗削りで土着的、ややかったるいムード)を主体としたロック(70年代のレッドツェッペリンの系譜)を復興させることに大きく寄与したといえます。
ともすれば、かったるい要素も多い、ブルーズ主体のロックですけれど、彼はブルーズ臭にロック色が強かったような印象です。
ゆえに、単純に、ロックを聴く感じで、ギタープレイだけでも楽しめますが、音も聞きやすくわかりやすさがありました。
たとえば、
Taxman - ビートルズのカバー。彼が演奏すれば、名曲がさらに高みに昇っています。
Pride and Joy ‐ 代表曲でしょうか。まさにコクとキレ。
そんな彼でしたが、坂本龍馬や、大村益次郎がその歴史的役割を終えた後、まるでそのことだけを成し遂げるためにこの世に生を受けて世を去ったのと同じように、、、、
彼もまた、ブルーズという音楽の復興の種をまいて、、、それで、自分自身の役割は終わったたとばかりに、世が改まる1990年にこの世を去っていきました。
そしてロックにとっては混迷の1900年代を迎えるわけです。
ガンズ・アンド・ローゼス~70年代の原型+メンバー独自の個性の発露
混迷の90年代の数年前の1987年。
(これは石原裕次郎の没年です。ちなみに80年代の終わり、大きな時代の移り変わりの年には偉大な方々がこの世を去っています。
89年~91年にかけては、前述のスティーヴィー・レイ・ヴォーン、クイーンのフレディ・マーキュリー、クラシックの指揮者カラヤンとバーンスタイン、
日本では美空ひばり、松田優作、手塚治虫と各界を代表する偉人が世を去っています。)
この1987年にロサンゼルスに登場したのが、ガンズ・アンド・ローゼス。
このバンドはメタルの哀愁や能天気なポップさよりも、前述の以下の側面を色濃く打ち出していました。
彼らは、すでにデビューアルバムで、すべてが完成されていた稀有な集団とも言えます。それは何に起因するかというと、、
・音楽的多様性:メンバーそれぞれの好みの音楽、バックグラウンドが多様であること
(アクセルはクイーン、エロスミスから70年代ハード全般、ベースのダフはパンク(どちらかというとニューヨークパンク)、ギターのスラッシュも70年代ロック、同じくギターのイジーは後にソロアルバムでも披露するレゲエやスカなど中南米の音楽でした)
・この多様性を吸収し、個性をまぶしてアウトプットできる才能があった
Welcome to the Jungleの現代的荒々しさ
Sweet Child o' Mineのモダンなメロディ展開
このバンドの、ある意味不幸な面は、2つあり、一つはこのファーストが完成形だったところですね。これ以上高みに昇ることはできなかった。ならば、水平展開しかない。
これが2枚同時発売のセカンドアルバムが散漫である理由だと思います。
やや、アメリカンポップな音に変わっているのも残念といえば残念。生っぽさが少し消えていってしまった。メロディラインのセンスは相変わらずでしたけど。
You Could Be Mine - 数年前の彼等なら、もっと装飾を減らしていたような気も。
November Rain - アクセルの最高傑作ですね。すべての音楽的影響をここに詰め込んだかのような印象。
不幸な側面の2つ目は、時代の動きが速度を急に増していたことです。インターネットの影響もあったでしょう。10年単位で動いていた時代が、5年サイクルになってしまった。ガンズのデビューの87年から93年で世の中の音楽性はすべて変わっていった。怒りと重厚化へと向かって。
結果、93年段階では、彼らは横に広げた手がこれ以上伸びなくなるところまで達してしまい、水平展開をし尽くして、仕方なくパンクのカバーを出したりしていました。
この状況に限界を感じたのかメンバーも1人また1人去り。。アクセルの独裁色が強まっていくに従い90年代半ばには完全に空中分解状態に達していました。
彼らが、グランジのような音を出したり、メタリカのように重い響きに変わっていくことを避けられたという意味では、ファンにとっては幸運なのかもしれません。
でも、5年程度という短い全盛期の中で、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの下地に、70年代ロックの原型を復興させた功績は大きかったのではないでしょうか。
スキッド・ロウ~さらにソリッドに、よりハードに
ガンズの音をより激しくして展開したのがこのバンドです。なんといっても、ボーカルのセバスチャン・バックが素晴らしすぎました。ルックス、声量とも、ボーカリストとして求められるものを兼ね備えていましたね。
このバンドも、デビュー作から完成されていて、セカンドで絶頂に達します。
I Remember You
Youth Gone Wild
Slave to the Grind
ただ、このバンドも90年代の怒りと重厚化の波に押されて、3枚目でそっちの方に大きく方向転換。自分を見失っていってしまいました。
このバンドも5年程度の短い全盛期でしたが、強烈な印象とともに記憶に残っています。
願わくば、そのままの音楽性の彼らのその後を聞いて見たかったですね。
MR.BIG~もともとはブルーズ主体のバンド、、でも大ヒットしたのはロックバラード
70年代のブルーズロックバンド、FREEの影響を受けたメンバーによるバンドです。
彼らのバンド名はFREEの楽曲から取られています。
そうなんです、もともとはブルーズロックバンドとして始まったんですね。デビュー作が幾分地味目なのはそのあたりに理由があります。
このバンドが不幸だったのは、彼らにとっては本来の道ではない音楽性のセカンドアルバムが大ヒットしたことですね。中でも、ブルーズとは違うポップロックな路線の、世界音楽史に残るバラードを生み出し、これが大ヒットしてしまった。
To Be With You
さらに言うならば、ボーカルのエリック・マーティンが古き良きブルーズを歌うには声が軽かったこともあります。バラードやポップな楽曲を歌わせたら天下一品なのですが。
この点に気が付いていたのか、ギターのポールギルバートが脱退してからはメロディの要がいなくなり、失われたメロディ、、というしかないアルバムが続くことになります。そして、徐々にシュリンクしていってしまいました。
Green Tinted 60's Mind
これも世界音楽史に残る名曲ですが、本来やりたかったことではなかったのですね。。。この路線であと2枚ほどアルバムを作っていたら、今の評価もだいぶ変わっていたのではないか、、、と思います。
1990年の衝撃~解放と混乱と
前述のように、音楽が怒りと重厚化を増していった背景には、歴史的な背景が大きく影響しています。特に89年~91年は世界史的に見ても、非常に大きな出来事が続いた時期です。(89年は日本では天皇陛下の崩御ですね)
これは解放と混乱の軸で見ることができます。
■解放
解放といえばすぐ浮かぶのが南アフリカのネルソン・マンデラ氏の解放ですね。このことがアパルトヘイトの終焉へとつながっていきます。
また、後のソ連解体、社会主義の失敗・解体につながっていく、バルト3国の独立や、ドイツ統合の実現もこの年。
■混乱
ただ、解放ムードの反面、世界には混乱の足音が忍び寄っていて、日本ではついにバブル経済が崩壊し、現代まで続く影響を残しますし、中東では、イラクのクウェート侵攻が始まり、世界規模の戦乱が再度の勃興が懸念される事態に。
1991年の衝撃~解体と戦線と
翌91年は、解放が解体へと進み、解体された結果、新たな火種・戦線も沸き起こってきました。この火種が、新しい世界への希望を包みとってしまい、表面化してきた資本主義社会の格差や貧困の問題と融合し、大きな怒りのパワーとなって、世の中を覆いつくしていきます。
■解体
まず、解体という意味では、ソ連解体、社会主義という仕組みの崩壊ですね。これにより、連邦という仕組みの中に押し込められていた国々は独立を果たします。
また、チェコスロバキア、ユーゴスラビアなどの独裁政権も倒れ、国境の中に押し込められていた地域が独立を果たしていきます。
そして起きたこと。
■戦線
独立を果たした国々は、ライフラインや政治を中央に頼っていたことから、社会の中で立ち振る舞っていくには大きな経験不足が露呈されることになります。
独立を果たした地域では、国境の中に押し込められていた民族の意識を喚起する結果になり、これが、民族紛争へとつながっていきます。
東欧諸国で、この解体からの戦線拡大が起きるなか、世界の警察となっていたアメリカがイラクに対して戦争を起こします。これが湾岸戦争。
これらのきな臭い硝煙の香りが、文化・芸術を燻していくことになり、ジョン・レノンのイマジンが禁止になっていくなど、なんとなくぼんやりとした不安漂う時代に突入していきます(日本ではバブル崩壊直後の混乱)。
結果としての音楽の変化~怒りの発露と重厚化、ブラックミュージック再興
結果として、ブルーズという黒人の魂の音楽(ブラックミュージック、ソウル)が、格差や差別に対する怒りと、哀しみを持ち始めていきます、、、アンダーグラウンドで沸騰寸前に達した熱量がある日、解き放たれます。それが1991年のこと。
この時から、音楽は、メロディや楽しさを失い、単なる音としての怒りの発露、重たく苦しい音に変化を遂げていくことになります。
奇しくも同じ1991年に発売された2枚のアルバムによって音楽は、現代にいたる方向性を定められたのです。
■一枚は、英国直結のメタルを演っていたメタリカのブラックアルバム。
■もう一枚は、英国の重さを司るブラック・サバス直結の、後にグランジと呼ばれる音楽の代表作、ニルヴァーナの「Never Mind」、、。
この二枚が音楽を変えました。。。時代の摂理ですけど。。。変えてしまったというか。。
さらに、、
怒りをその歌詞に載せた叫びの発露であるヒップホップ、R&B、ブラックミュージックもまた、大きく世に出てくることになり、この種もまた、現代まで長く伸びている大樹となっていきます。
こんな時代に、古き良きハードロックはどうなっていったのでしょう?
ハードロック界隈の変化~メロディの喪失。より激しく、よりソリッドに
ガンズ・アンド・ローゼスはこの頃すでに空中分解していました。ではその他のバンドたちはどのように変わっていったのか
■Mr.Bigは前述のとおり、ポップの象徴だったポール・ギルバートが脱退後、ブルージーなギタリスト、リッチー・コッツェンを加入させ、方向を一気にブルーズの方向へと転換。
でも、ポップさの名残は捨てきれず、中途半端な印象が残りました。
ちなみにこのギタリストは80年代大衆化ハードロックで人気を博したポイズンというバンドが、その方向性をブルージーに変えていったときに加入させたギタリスト。ポイズンのこの方向性はファンには受け入れられず、失速。
リッチー・コッツェンというギタリストには、どうも悪いイメージが付いて回ります。
■Skid Rowは、グランジの方向性も取り入れつつ、より音楽性を拡散していった結果、本来の持ち味であった、タテノリ、わかりやすいスピード感が消え失せていき、横ノリ重視の取り立てて語ることも無いような音楽性に変換を遂げ、失速。
■その他、80年代の大衆化ハードロックを象徴する面々は、、
デンジャーデンジャー、ウォレント、など、80年代のわかりやすく、ノリがよいハードロックを演奏していたバンドは、こぞって思いっきりヘヴィな方向に進みました。
まったくファンが求めていない方向です。
■その他、ヘヴィメタル勢は???
アイアンメイデンは音楽性を頑なに変えませんでしたが、ボーカルを過去の名曲を歌えない人に変えた結果、そのために失速状態。
ジューダスプリースト、ディオ、ブラックサバスらもメロディのカケラのない、ヘヴィの沼にはまり込んでいくのでした。。
90年代は、ハードロック、ヘヴィメタルにとっては暗黒期であり、00年代以降、目ぼしいアーチストが出ていないことを考えると、この時代に息の根を止められたとも言えます。
■そして出てきたバンドたちには、メロディのかけらもなかった
良し悪しはさておき、スリップノット、リンキンパーク、パールジャム、、、新しいメタルの形として出てきたバンドたちは、まあ人気はあったようではありますが、個人的にはあまり関心が無かったです。
というのも、音楽に必要な、メロディが全くないためです。00年以降、洋楽の世界で、わりと無機質な音が流行っていくのには、90年代初頭のこういった出来事があったのですね。
そして00年代へ
00年代は、大御所バンドの復活、代名詞的ボーカリストの復帰が相次ぎました。
ヨーロッパ、Mr.Bigはオリジナルメンバーで復活、
モトリークルー、ジューダスプリースト、アイアンメイデンは代名詞的存在だったボーカリストを出戻りさせました。
ファンは90年代以降の、失われたメロディの世界の中で、幻想を見ていました。それはあの時代の名残。
それに呼応するかのように、各バンドたちは積極的な動きを見せていきました。。。。でも全盛期を越えることはできなかった。
時代に返り咲くことはできなかったんですね。
00年代は、デジタル化が進み、過去の音源のサンプリング、ヒットするメロディライン・コード進行の模倣などが容易になりました。
だれでも作曲家になれる時代です。ただ、これは音楽の無機質化を生んだような気がします。特に、本来は魂の音楽であるブラックミュージックの惨状に顕著ではないでしょうか。
(無機質に誰かを攻撃するパターンが多いような気がします。あのスティービー・ワンダーや、レイ・チャールズが奏でていたソウルフルなメロディはどこへ行ったのでしょう)
これはテクノロジーの発展の負の側面ですね、新たな音の喪失状態。
これからは、過去の何らかの音楽の原型+ちょっぴりの個性があれば、それなりにヒットを飛ばしているような気もします。
こういう時代だからこそ、本来の「音」、「音楽」の意味に立ち返ってみることも現代を生きる我々には必要なのだと感じます。
そう、そんな時代があったことを、我々は覚えているんですから。
Skid Row - I Remember You
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今回も、お読みいただきありがとうございました。
今回で、ひとまずハードロックシーンを終えまして(番外編が3回と長くなってしまった)、次は、他国の状況や、ちょっと違うジャンルの事を書いてみます。
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