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第3弾!「算数文章題が解けない子どもたち」~「学習性無力感」からの脱出~

「学習性〇〇〇」無力感?無視力?放心感?

前回からの続きになります。この記事は、広島でプチ話題の本算数文章題が解けない子どもたち」(今井むつみ他著 岩波書店)の読書感想文です。

正解は、心理学での用語「学習性無力感」です。与えられた学習課題に対して、「自分は無力だ」と感じるからだそうです。そんな子どもに対して、先生ならどう言うでしょう?「もっと勉強したら分かる」「よく考えたら分かる」。そんなアドバイスは、役に立たないことを、同著の調査(たつじんテスト)は示唆していると思います。さらに、算数学習での「つまずきの原因」をまとめた章もあるので、興味のある人は読んでみてください。

先生が困っているのは、学習性「無視力」「放心感」では?

筆者が思うに、与えられた課題に対して「無力だ」の意思を示してくれる子なら、きっと先生も助言するでしょう。先生を困らせているのは、与えられた課題のプリントを「ガン無視」して、せっせと練り消しを作る子や、プリントに名前を書いた後「フリーズして動かない」または「空気のように気配を消す」、プリントを回収する際にやっと存在に気づく子たちへのアプローチなのです。

筆者の教師経験から、こうした子どもを何人も受け持つ先生は「指導性無力感(注:筆者造語)半端なく感じているはずです。先生もダメージを感じているのです。先生も、子どもも、勉強も悪くありません。もし、先生・子ども・学習材をつなぐ関係に「嫌悪・嫌味」「勝敗・競争」「圧力・強制」等があるなら、それが「」です。関係のバランスを崩す「」を取り払い、これらの関係を健全に保つ方策を考えましょう。つまり、子どもが学習につまずく原因を知り、回避する方法を授業に反映させることが「学習性無力感からの脱出」となると思うのです。

文章の意味も!イメージも!立式も!全部できない!

この本は、題名の如く「算数文章題」を解けないメカニズムを記述しています。最初に読んだときは、その子の抱える「脆弱な概念理解」、「推論力の弱さ」、「メタ認知の弱さ」などの負の要因が重なり、「意味不明な解答」に辿り着くという、救いようのない文脈しか読み取ることしかできず、崖から突き落とされたような感覚になりました。(筆者の個人の感想)

これこそが、自分の中にあったバイアス、例えば、「弱さ」=「悪いこと」と思ったり、「弱さ」を鍛錬で「強さ」にしようと考えたりするバイアスが、子どもや学習材との関係をワクワクするものにできなかったんだと反省しました。「いろんな力が弱くても、楽しめる算数文章題の授業」を一緒に考えませんか?

「学習性無力感からの脱出」に役立つフレーズ3選

同著の第6章「学習のつまずきの原因」がソースになっています。
以下は、①②③は引用です。

①いつも易しい計算手順、易しい概念から順番に教えていくと、子どもにとっては永遠の後出しじゃんけんが続くことになる可能性がある。

②子どもたち間の個人差は推論ができるかできないかということによるものではなく、認知処理の負荷に対処して推論ができるか、負荷に負けて推論ができなくなってしまうかというところから生まれている。

③学力に伸び悩む子どもの多くは、それぞれの要素単独では認知処理の負荷が軽ければできることが多い。彼らが苦手なのは複数の要素の統合である。


①から③についての筆者の所感
①は、いつも整数のきりのよい答えになる計算の学習ばかりだと、あまりの数や小数、分数の計算結果に確信がもてなくなったり、高学年でも数は数えるためのものという概念に囚われたりすることもあるとも記述されています。

①に関連した話題です。先日も若手教師から「5年ですが、大部分の子が割り算の答えが小数になることを拒否するんです!」という質問を受けました。「何で教えたの?」「あめ」「んっ、分離量じゃわからんよ。連続量、3mのテープを5人で分ける。実際の長さで1mより短いを実感させる。練習問題は2人1組で解かせて、つまずくとこをカバーし合う。余裕があれば、先生がテープで実演する。『ほんとだ!小数でも答えは正しいんだ』と先生が大袈裟に演技する。」「そうか!分かりました!」

筆者は、分数では、分母・分子を色分けをして焦点化したり、小数の数直線では、きりのよい整数から見る相対的な見方を意識させてます。「数え主義」は批判もあるけど、「高学年でも数える」ことしか数を実感できないのなら、抽象的な概念の理解の負荷を軽減して、数えられる形にして、指さして説明できるようにすることも時には必要かなと思います。また、大人の「当たり前」のバイアスを外し、「ほんとだ!小数になる!」と新しい数概念に接したときは、大袈裟に感心してあげます。文章の読み取りも苦手なので、「ここの部分の書き方が難しくなっています。学年によって、教科書の問題文の書き方が違うので気を付けよう」など、認知的な負担軽減の配慮を授業の中心に据えています。
「ゆっくり学びを語る人」(筆者)の記事やマガジンに記してあるので、認知的な負担を軽減する授業について興味のある方は是非ご覧ください。

読んでくれてありがとうございました!

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